150-28 告白タイム
多くの野次馬が騒動を追いかけていってしまったので、後には親父さん達を心配していた近所の人とかの関係者のみが残された。
もちろん、俺も残っている。
もう俺の御仕置きパートは終わったのだから。
そしてラーナちゃんが、こっちへ来て御礼を言ってくれた。
「ありがとう、ダイゴさん。
御蔭で助かりました」
「いやいや、俺は一応この街では英雄なんだからね(ゴブリンには勝てないんだけど)。
それにあいつら、冒険者ギルドの残業パンに手を出した大罪人だからなー」
そして俺達は顔を見合わせて笑ってしまった。
「ねえ、ダイゴさんはあの時、ポンっと金貨百枚も出してくれたでしょう。
うちの借金分の。
何故そんな事を?」
「あ、ああ。
それはあいつらが、ああいう態度に出るだろうと思って試してみただけさ。
もちろん、君のためなら金貨百枚くらい惜しくもなんともないけれど。
それに」
「それに?」
彼女は可愛らしくコテンと小首を傾けた。
く~、可愛いぜ。
ここは思い切っていくしかないか。
「あ、あのさ。ラーナちゃん」
頑張れ、俺。
だが、なかなか言い出せない。
「なんでしょう」
彼女のトパーズのような美しい瞳が俺を射る。
う、眩しい。
灰になりそうだ。
「好きです。俺と付き合ってください!」
言ってしまった。
勢いでストレートに。
もうちょっと言い方は考えろよ。
いつもこれで失敗するんだから。
「え!」
彼女の目が丸くなった。
うわあ、やっぱり駄目だったか~。
俺の馬鹿馬鹿馬鹿。
「いや、もういっそ結婚してください。
御願いします」
俺はもう、行きつくところまで行く事にした。
どうせ駄目元なのだ。
俺は体を折り曲げて深く深く御辞儀をした。
「あ、はい。
わかりました。
御受けしますわ」
「え!」
いいの?
俺は驚愕した。
だって、昨日は。
「何故驚くの?
今、私に求婚してくれたのはあなたなんだけれど。
私も、もうそろそろ相手を見つけないと。
既に去年成人していますし。
でも、なかなかいい人が見つからなくって。
あなたって優しくて明るい性格だし、人族だけど私が獣人でもまったく気にしないし。
それにお金持ちの勇者さんなんでしょう?」
いやいや、むしろ獣人であるのがポイントなのであってですね。
特に、その可愛らしいネコミミ!
しかし俺って彼女から見て案外と高評価だったんだなあ。
この前向きな性格と、フィーの加護に始まるサクセスに感謝する~。
「いや、だって昨日ネコミミの御兄さんと凄く親し気に話してたじゃないですか」
「ああ、あれは御兄ちゃんよ。
本当は従兄弟なんだけど、昔から仲が良くて実の御兄ちゃんみたいなものなの。
彼は最近結婚して街に帰ってきたんです。
街の外の商会で働いていたんですけど、独立して街で商売をするために。
やはり伝手もないところで商売を始めるのはキツイから、最初は故郷の街で商売したいっていう事なの」
おおおおおおお、そうだったのか~。
俺は踊りだしたい気分なのを我慢して話を続けた。
「あの……ねえ、本当にいいの?
俺って人族だし、ゴブリン一匹にも手こずっちゃうような駄目駄目冒険者なんだけど。
まあ、さっきみたいな事が出来るような特別なスキルはあるんだけどね。
あ、貯金はいっぱいあるし、収納のスキルがあるから頑張ればお金は凄く稼げるよ」
「うん。
でも、できたら一緒にパン屋さんをやってほしいんだけど、それでもいい?」
「喜んで!」
夢じゃないだろうか。
やったよ、ミヤちゃん。
俺、君とは付き合えなかったけど、頑張ってネコミミの可愛い御嫁さんを獲得できたようだ。
「ほお、やるじゃないの、ダイゴ。
よし、あたしから結婚祝いをやろう」
「え、本当ですか、サブマス」
「ああ。はい、これ」
あんな事を言っていたくせに自分はしゃらっとこの場に残っていたサブマスが、何か紙のような物を見せてくれた。
これが結婚祝い?
俺とラーナちゃんは顔を寄せ合って、それを読んだ。
何か知らないけど、サブマスは一枚の羊皮紙を渡してくれたのだが、そこにはこう書かれていた。
『ゴブリン五体討伐 初心者向け討伐依頼書 ゴブリンの魔石五個持ち帰る事 報酬は大銅貨五枚』
「なんじゃ、こりゃあ~」
「馬鹿め、それは食うに困った初心者向けの支援討伐依頼書だ。
いいか、醍醐。
所帯を持つんだ。
きっと、この先も色々とある事だろう。
たかがゴブリンの五体や六体倒せなくて一家の主が務まるか」
「うわあ、ひでえな」
姐御、いくらなんでもこれはないでしょうに。
だが彼女は笑っている。
上司の一人として俺の幸せを楽しんでくれているのだ。
「こいつはギルドからの親心だ。
またいつか、今日みたいな荒事があるかもしれんのだぞ。
御店なんてやっていれば、この先こんな事は幾らでもあるさ。
所帯を持つのだから、頑張って家族は守れ」
「そりゃあ、そうなんですけどね」
そしてラーナちゃんは笑って言ってくれた。
「頑張ってね、私の勇者さん」
「お、おう。
頑張ります」
そんなサブマスからの直命に及び腰な俺の肩に、後ろから手を添えてくれた人がいた。
パナパナ・ラーナの主人であるパタムさんだ。
「ダイゴ君、娘を頼むよ。
君は我が家の立派な勇者君だ」
あ、いけねえ。
あまりにもドタバタしていたんで、親父さんに挨拶するのを忘れてた。
御付き合いだけなら別にいいんだけど、いくら成人していても結婚する時は家族にしっかりと挨拶をしないといけないのは、どこの世界でも一緒なのだ。
「は、はい。
頑張ります。
パンの焼き方も早く覚えますから、よろしく御願いいたします」
地球ではホットケーキくらいしか焼いた事がない。
お好み焼きはちょっと違うよな。
姉貴がよくガスオーブンでクッキーを焼いていたので、御相伴に与りながら一緒に焼いていた。
あと、ベーカリーマシンで作った自家製のパンを焼いた事はあったな。
だが少なくとも薪を使う竈でパンを焼いた事はないのだ。
親戚で集まってバーベキューをやる時に叔父さんが焼いてくれたんだけど、あれがまた凄く美味しいんだよね。
「ははは、いや頼もしい婿さんが来てくれるものだな。
それで娘と一緒に住む家はどうするね」
「あー、どうしようかなと思いまして。
今は御領主様の館に住んでるんですよね。
俺は一応御領主様預かりの人間なんで、そういう話は勝手に決められないから相談してきます」
「そうか、二人で相談して決めなさい。
子供も生まれるだろうから、さすがにうちでは手狭になるだろうしねえ」
「そうですね。
家を買う事も視野に入れて。
やっぱり新婚は二人っきりがいいですし。
でも子供が出来た時の事なんかを考えると、奥さんの実家の近くに新居を構えるのが何かにつけて一番いいんですけどね」
「そうだね。
そういう事も、しっかりと考えてくれているようだから嬉しいよ」
こうして、俺は夢の中の出来事に過ぎなかった筈の可愛いネコミミの御嫁さんを貰える事になった。
ありがとう、高利貸しのハゲ達!
ところで、あいつらって、あれからどうなったんだろうなあ。
まあ少なくとも、うちのサブマスは有言実行の人だからな!




