150-27 お仕置きの時間
そう、俺は奴らの装備全てを『変性』させておいたのだ。
それはあたかも、時間が経つと土に還る性質のプラスチック袋が粉々になっていくかのように。
それをイメージして変性させたのだからな。
たいした事もない衝撃を食らったにも関わらず、僅かな時間差で粉々になったのだ。
ヒントは、いつか例の『ゲルスの壁』に対してやってやろうと思っていた事だった。
若者のハンマー一発で、あの不粋な壁が見事なドミノ倒し風に倒れていくかもと思うと、今から胸が躍る。
俺は、いきなり素っ裸にされて、あたふたしている奴らに向かって言ってやった。
「よお、初めまして。
街の悪党さん達よ。
俺の名は英雄醍醐。
でも本名は醍醐英雄じゃあなくって愛川醍醐なんだから、そこんとこはよろしくなあ。
自慢じゃないが、この街の御領主様フリードリッヒ子爵並びにその御子息である冒険者ギルド・ギルマスのクランツ、その両名預かりの問題児の中の問題児ダイゴとは俺の事さ。
お前らの事は御領主様に報告しておく。
あの人はこういう行き過ぎた狼藉を絶対に許さないからな。
それに俺は冒険者ギルドでは有名人なんだ。
俺がお前らを『狩ろう』って言ったら、奴らは面白がって付き合ってくれるぜ。
このダンジョンを囲む三つの都市の騎士団、そしてダンジョンに挑む全冒険者で街狩りをやろうと思う。
それまでに、この街から逃げ出しておくことだな。
さあ、俺は忠告したぜ」
それを聞いた素っ裸で股間を隠した状態の無様な奴らは目の玉を飛び出させ、そしてガタガタと震え出した。
「た、頼む。
それだけは許してくれ。
もう生きていけなくなっちまう」
「では死んだらいかがですか」
まったく躊躇いなく、間髪容れずにそのように苛烈な言葉を吐く人物がいたので全員が注目したのだが、そこには無表情で無慈悲な事をさらっと言い放つので有名な、うちのサブギルドマスター様がいらっしゃった。
俺は思わず後ずさってしまった。
「うわっ。
サブマス、そこにいたの⁉」
「ええ、少々騒ぎになっていたようなので寄らせていただきました。
あと残業パンを買うついでに」
「ここ、うちのギルド御用達の店だったのか。
こいつら、そんな店に手を出すなんて」
まあ確かに美味しいのもあって、俺はこの店に通っていたのだが。
主にラーナちゃん目当てだったけど。
そして彼女は無情にも笛を吹いた。
音はしないので首を傾げている人達もいるが、別にこれは犬笛ではない。
冒険者招集用の魔力笛なのだ。
これを使われると、あらかじめ魔道具で設定されている対象の冒険者カードが、念話でその所持者に警報を鳴らしながら呼び出しをかける。
それで笛を吹いている人間の居場所までわかるのだ。
これは冒険者カードのシステムを作り上げたアルバトロス王国初代国王が、面白がって付けた機能だと言われている。
サブマスにこの特殊な魔道具の笛を吹かれたら、全員犬のように集合しないといけないというのが、うちのギルド独特のルールだ。
これに逆らうのはかなり勇気がいるので誰も逆らわない。
案の定、街中からあっという間に冒険者がわらわらと集まってきた。
ダンジョンの中にいる仕事中の奴のところでは鳴らない設定になっている筈だ。
俺のカードを通した念話でも、レッドアラームのように、けたたましく呼び出し音が鳴っていた。
もう、アルバトロスの初代国王様ったら!
「うっわ、姐さんったら。
もうドン引き~」
「あら、この対決はあなたが最初に始めた事でしょうに、ダイゴ」
「いや、それはそうなんですけどね」
そして、わらわらと集まって来た強面な連中が訊いてくる。
「それで姐さん、御用向きは」
お前ら、どこの組のヤクザだ。
「そこにいる『うちの残業パンに手を出したハゲども』を捕縛して騎士団に突き出しなさい。
ただし、たっぷりとタコ殴ってからね。
あとで私自ら徹底的に拷問いたしますのでよろしく」
それを聞いて、思わずドン引きして一歩も二歩も下がる街の一般群衆。
もう姐御ったら!
「へっへっへ、そりゃあ面白い」
「おい、そこの馬鹿ども。
うちの姐さんを怒らせるなんて。
本当に正気か、お前ら」
「いやあ、笑わせてくれるなあ」
「うちのギルドの残業パンに手を出すとはいい度胸だ」
そう言いながらにじり寄る数百人の武装した冒険者達。
そして、ますます膨れ上がる野次馬。
しょうがないなあ、もうこの街の冒険者ギルドってば。
俺は一つ溜息を吐いてから、この喧嘩を始めた責任者である勇者として宣言する。
「じゃあ、そろそろ締めるといたしますかあ」
俺はそう言ってから『人数分のスクロール』を取りだした。
「それでは、ここは一つ景気よく!
そおらっ」
俺が投げたそいつは空中で奴らを追尾し、燃え尽きて火の粉となった。
そして無数に煌めく炎の雨であるマイクロファイヤーボール・レインを降らせ始めたのである。
しかもそれは逃げ惑う奴らを追尾していき離れない。
こいつの一発一発は御灸に毛の生えたような代物でたいした殺傷力はないのだが、その代わりにターゲットを追尾し、長々と効果を発揮するのだ。
しかも物体変性スキルで強化されていて、かつ俺の莫大な魔力で放ったからすぐには消えないしね。
情けなく悲鳴を上げて逃げ回る高利貸しの悪党ども。
そして笑いながら奴らを追い回す冒険者の群れ。
また楽し気にそれを追いかけていく子供達や物見高い街の人達。
この退屈な辺境では、こんな些細な事でも住人達が充分に楽しめるイベントなのであった。
そう、これはあの五歳の幼女様の作品なのだ。
子供って本当に碌な事を考えつかないよな。
どうやら悪戯目的で作ったらしく、不思議と火事にはならない仕様のようだ。
対象以外の物体には燃え移らないし、まるで手持ちの花火が燃え尽きるように確実に消えてしまう。
さすが御領主様の孫だけあって、無闇に人の迷惑にはならないように弁えてはいるようだった。
あ、その騒動を見送りながら珍しく姉御が笑っている。
いや、それはもう楽しそうに。




