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15-1 森からの使者

 今朝も毎日開催する食堂の戦争が終って、日課の門前掃除のために箒を持って出ていくと、門の影から中を覗いている子供がいる。

 金髪の可愛い女の子だ。

 パッと見に七歳くらいに見える。


 これは……。


『デジャヴー』


 ちょっと鑑定してみる。


「精霊の森のニンフ。ただいま御使い中」


 そうだったか。

 御使い中だったか、偉い偉い。

 俺は敢えて知らん顔でその辺を掃除してみる。

 すると彼女はちょこちょこっと門の中へ入ってきた。


 どうするのかなと思っていると、困ったような顔でおそるおそる声をかけてくる。


「あのう……」


「おっと、向こうの方が汚いなー。

 掃除しなくっちゃ!」


「きゃあ、まってー。

 話を聞いてくださいー」


 おやおや、困った顔がなかなか可愛いな。


「君は精霊の森から来たのか?」

「え、ええ。そうです……」


 そして、ふらふらと俺に近寄ってきて抱きついてきた。

 ちゅうちゅうと音を立てるかのように魔力が凄い勢いで吸われている。

 御腹が空いていたのか。

 それじゃあしょうがないな。


 しばらくそうやっていたのだが、いつまでたっても離れないので襟首を持って強引に引き剥がす。

 こいつら精霊って、みんなこう。


「あうー、もう少しだけー」

「駄目だ。話を聞いてやらないぞ」


「それは困りますー」


 とりあえず中へ連れていって、俺の部屋でケーキを出してやると思いっきりはぐはぐしていた。

 他の、うちに常駐している精霊も集まってきていた。

 こいつらも割といつも俺のそばにいるんだけどね。

 なんていうか……人間ビュッフェ?


 そのうちにケーキの匂いを嗅ぎつけたのか、神聖エリオン様がやってきた。

 ケーキを出してやると、むしゃぶりついてフンスフンスと、いつものように鼻からクリームを飛ばしている。


「こ、これはレインボーファルス様」


 慌てて立ち上がって礼をするニンフ。

 しかし、そいつの口の周りがクリームだらけだ。

 手にはフォークを握り締めたままだし。


 生憎な事に、礼をされている方もそうなのだが。

 おまけにファルはケーキに夢中で話を聞いていないみたいだ。


 ちびっ子ニンフも、とりあえず話の続きをするのは諦めてケーキの続きを食べ進める。

 そして食べ終わってから、ようやく自己紹介がまだなのに気付いたのか挨拶をしてくれる。


「私は精霊の森のニンフでシルヴィと申します。

 いつもはアルファ様にお仕えしております」


「アルファ?」


「あ、はい。

 今精霊の森にいらっしゃるレインボーファルス様です。

 彼女はレインボーファルス・アルファと呼ばれております。

 今までで唯一のレンボーファルス。

 その始祖様という事で。

 ファル様が御生まれになるまでは」


 ふむ。

 彼女は武の結婚式の時に現れただろうだから、それから千年は経っているよな。

 レインボーファルスが現れたのは過去一度きりだというから、やはりファルスという存在は結構長生きなのか?

 それともレインボーファルスが特別なのだろうか。


「それで?」

「その、精霊の森の長が、一度ファル様を精霊の森まで御連れいただきたいと」


 ふむ、そういう話なのか。


「それで里の場所はどこなんだい?」


 俺はMAPを可視化して見せて訊いてみる。


「えー、これこれこう行って、こんな感じですかね。

 普通の人間の馬車で行くと、ここから五日くらいかかるのではないかと思います」


 その子から聞いた感じだと、MAPで見る限りではここから約二百キロくらいあるのか。


「ここの子供達を連れていっても大丈夫か?

 それと世話人と護衛の冒険者が二十人ずつ。

 全員で総勢約百人くらいだ」


「……えっと、それは何故です?」


「秋の遠足を実施したい。

 丁度行き先に悩んでいたところなのだ」


 そう、遠足をやりたいと思ってバスを完成させたのだ。

 幼稚園で遠足をやらずにどうするのかという話で。


 うちは保育園だったが親が病気がちで、業者が遠足用おやつの即売会で保育園に来てくれていた時も幼児一人じゃどうしようもなくて、俺一人だけがその楽しそうな様子を見て指を咥えながら項垂れていた。

 そのトラウマの御蔭で、結構いい歳になるまで『保育園の遠足用駄菓子』に執着していた。

 うちの子達には絶対にそんな思いはさせんぞ。


 例によって遠足用のバスは、ドンガラにタイヤをつけて魔法で動かしているだけのイカサマ商品であるのだが、まあそこは気分の問題で。


 衝撃なんかは、すべて魔法で吸収してしまう。

 例の鎧の隙間に詰める緩衝材の魔法もあるしな。


 トイレやソファもついたサロンバスだ。

 当然、魔法で飛んで時間短縮も出来る代物なのだ。

 遊び過ぎて向こうで時間が押しても、帰りは転移魔法で帰ってくればいい。


 精霊達は距離が離れていても意思を通じさせられるらしい。

 すぐに許可を取ってくれた。


 精霊の森は神聖な場所なので、普段は絶対に部外者など入れてもらえないらしいのだが、ここは俺のごり押しで強引に押しかける事にした。

 向こうも、俺にいきなり面倒を押し付けてしまって悪いとか思っているんだろう。

 あっさりと許可が下りたのだ。


 シルヴィは遠足の道案内人として、うちに滞在する事になった。

 ジョリーは高位の大神官なので、彼の下につく形で。


 だが傍から見ると小さな可愛らしい子供二人にしか見えない。

 そういやジョリーの精霊として具現化した姿はまだ見た事がないな。


 とりあえず遠足の準備を始める事にした。

 遠足用のリュックはもう色々と試作してあるのだ。

 チビスケみんなが御互いモデルになって、プチファッションショーを始めた。

 女の子は気取っていて、そして男の子はただ暴れているだけである。


 まあ一応それも参考にはなったのだが。

 生まれて初めて遠足に行って男の子が弾けない訳がないからな。


 御弁当も喧々諤々で議論が始まった。

 おっさんは、もちろんおにぎり派だ。


 その容れ物は、網目のようになったプラスチック製の、俺が子供の頃に使っていた薄い黄色というか象牙色をした奴だ。

 これに同じく俺の遠足用おかず入れの、金属製でパッキンのついた密閉式おかず入れと、可愛らしい子供用の水筒を用意して。


 子供達は、日本風サンドイッチこそ至高と考える者、いやパンに串焼きが最高ーとか、非常に楽しそうな様子だ。


 ミニバーガー入れてー、ホットドッグーなどと、様々な御希望が飛び交った。

 この辺りの飯は現地で焼いた方がいいけどな。


 これはもうあれだな。

 個別に持たせるより、グループごとで分け合って食べたほうがいいかなー。

 それぞれが好きなようにリュックから御弁当を出して食べるのが遠足の醍醐味なんだが。


 とにかく、子供達が持っていきたい御弁当のリクエストを出してもらう事にした。

 作り立てがいいような料理は、個人持ちの他に現地で調理して作ってもいいし。

 いざとなったらアイテムボックスから何か出してもいいんだし、転移魔法で買出しも出来る。


 幼稚園で初めての遠くへ御出掛けする行事に、子供達の興奮は止まらなかった。

 更におやつ論議になった時はもう収拾がつかない状態であった。


 まあ楽しみにしていてくれ。

 おっさんも楽しみでしょうがない。


 おチビ猫も張り切っている。

 そういや最近ファルにかかりきりだったんで、あまりレミに構ってやれなかったな。

 頭を撫でてやると嬉しそうにしていた。


 もう大人の手を無闇に払うような事も無くなった。

 抱き上げてやると、甘えて頭をこすり付けてきた。

 この子も、そのうちには抱っこを嫌がるようになるだろう。

 でもそれまではこうしていよう。


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