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150-25 お金と幸せ

 よくわからないのだが、この光金貨という奴は崩してもらわないと使いにくい代物のようなので、一枚分を細かくしてもらった。

 金貨にしてもらったら一万枚になるらしい。


 貨幣価値というものは物価やレートによって決まるものであり、為替相場が存在しないこの世界では、地球との比較はあまり意味をなさない。


 金貨の重量や、それで買える物の価値なんかから見て、金自体の価格も何故か地球の十倍くらいありそうだし、ここの金貨一枚は大体日本円にして百万円見当のようなのだ。


 となると、金貨一万枚の価値である光金貨一枚は百憶円見当?

 総額で一千億円相当の報酬か。


 これが地球なら、たっぷりと金のかかった高性能な第五世代戦闘機の最新機種が、スペアエンジンや初期供給分の弾薬や消耗パーツ一式及びパイロットと整備士の訓練プログラムまで込みで三機くらいは買えそうだな。


 物凄い価値のある大金なのだとは思うのだが、おそらくは先方もそれで十分に潤うのだろう。

 御世話になりっぱなしの冒険者ギルドやフリードリッヒ子爵家にも見返りがあったのではないかと思うので、多少は御恩返しになっただろうか。

 あんな怪物の素材を一体何に使うものか、俺なんかにはさっぱり見当もつかないのだが。

 確かに滅多に出回らないだろう超希少な魔物だとは思うので、この価格も当然なのかもしれない。


 通常ならば、あれを討伐するのに凄まじい犠牲と莫大な費用を払わねばならないはずだ。

 それを被害ゼロに抑えたので討伐報酬も色を付けてくれたのかもしれない。

 あれが野放しになったままでいて王都が襲われたなんていったら豪い事だからな。


 そんな大金を使う機会はないので、残りの金はそのまま冒険者口座に放り込んでおいた。

 崩した金も金貨のまま収納に放り込んである。

 ギルドの御姉さんが百枚ずつ数えて薄い革袋に入れてくれてあるのだ。

 丁寧に検算までしてくれてある。


 それらは、ちゃんとまとめて封印しておいて、使いかけは別の種類の革袋に入れておいた。

 そうしないと、また一万枚の金貨を自分で数える羽目になるので。

 この世界にコインカウンターの魔道具は存在しないらしい。

 そもそも各コインの重量だって地球ほど安定していないのではないだろうか。

 百枚を重量で量ると一枚二枚、あるいはもっと誤差に判定されてしまいそうだ。

 金貨の見た目が結構ボコボコだしな。


 とりあえず、今の俺には毎日パンを買いに行けるだけの小銭があればいいのだ。

 将来は、あの子と結婚して街のパン屋さんになるのもいいな。

 おかしな奴らが店に因縁をつけてきたら特製スクロールの出番だぜ。


 それ以前に俺って、ほぼ『御領主様預かり』の超問題児なのだが。

 おまけに、その息子である冒険者ギルドのギルマス預かりでもあるのだし。

 もし俺が悪党なんだったら、そんな危ない奴のいる店の半径五百メートル以内へは絶対に近寄らないぜ。


 そして、いつものようにラーナちゃんのいるパン屋さんを目掛けてスキップしていった。

 その浮かれた後姿を見て、ひそひそと話すフリードリッヒ家の子供達に見送られて。

 まあ、それが俺の日常風景なので大人は誰も気にしない。


 だが、パン屋さんに着いた俺を待っていたのは衝撃的な光景だった。

 なんと超イケメンのネコミミ御兄ちゃんとラーナちゃんが、それはもう楽し気に話していたのだ。

 彼女は頬を上気させ、潤んだ瞳で軽く見上げて。

 それはどう見ても相当に親密そうだった。


 こ、こ、こ、これは~。


「うわあああん」


 俺はまたしても全力失踪、いや全力疾走でどこかへ失踪してしまいたい気持ちで、絶叫しながら街を駆け抜けた。

 着いた先は冒険者ギルドだ。

 扉をぶち破らんばかりの勢いで飛び込んで、カウンターへ突撃してから叫んだ。


「ラサさん、ラサさんはいますかっ!」


「なんだダイゴ、藪から棒に。

 相変わらず、お前は本当に奇天烈な奴だな」


 本日は立ったままフロアを監督していた主任のサントスさんに、いきなり豪い事を言われてしまった。

 まあ確かにそうであるのは認めるしかないのだが。

 そして彼の方へ向き直って軽く言い訳しておく。


「ああ、いやちょっと」


「ええとな、今日は大切な御客様が来られる日なんだ。

 頼むから大人しくしていてくれよ。

 そうだ、あの隅っこなんかどうだ。

 あそこなら、いくら壁に向かってブツブツ言っていても構わんぞ」


 俺はこのギルドの主任的な人物の目から見て、自分がどういう人間に映っているのか非常に不安になったのだが、今はそれどころではないのだ。

 人生の重大な岐路に立っているのだから。


 すると後ろのカウンターの中でくすくすと笑う声が聞こえてきた。


「なあに、英雄さん。

 またゴブリンにやられちゃったの?」


 そう。

 俺はここでは特殊な扱いになっている。

 Sランク冒険者を複数連れてこないと戦えないような怪物を一人で捻り潰すかと思えば、ゴブリン一匹に追い回されて悲鳴を上げて逃げ帰ってきたりするんだから。


 この前なんか興奮したゴブリンが俺を追いかけて『ダンジョンの外』まで出てきてしまって、見ていた全員が目の玉を飛び出させていた。


 通常、ダンジョンの魔物が外へ出てしまう事はない。

 それは『スタンピード』扱いとなるのだ。

 たとえ、それがゴブリンたった一匹だけといえども。

 あの外来種みたいに特殊な魔物は例外中の例外だ。


 俺があまりに弱すぎるので、強気になったゴブリンが追いかけてきて『やらかして』しまったのだ。

 もしこれが人間なら始末書だの顛末書だのを書かされるような超不祥事なのだが。


 しかし、そいつは通りすがりの、小さな村から出てきて昨日ギルドで登録したばかりの少年Fランク冒険者に蹴り殺されて、その不始末の代償を支払う羽目になった。


『魔物に単独スタンピード事件を引き起こさせてしまうほど弱い冒険者』


 そうであるにも関わらず、ある意味においてはオーバーSランクの能力も併せ持つ。

 俺はそんな奇天烈な冒険者なのだった。


 Bランク以上の高ランク冒険者資格を得る日など一生やってこないだろう。

 何しろBランク試験では対人戦闘が行われるのだから。

 冒険者は任務の内容によっては強力な戦闘力を持つ人間ともやりあわねばならないからだろう。

 とんでもねえ話だわ。


 俺なんかFランクの小坊主相手にだって勝てやしねえ。

 ここの連中はガタイがいい。

 俺のように貧弱なモブ日本人がそいつらとやりあったら、とんでもない大怪我でもするのがオチだ。


 いいんだ、俺は可愛いあの子とパン屋さんを目指すんだから。

 そう思っていたところなのに。


「ラサさん、ラサさーん!」


 俺はおいおいと泣き出し、声をかけてくれたラサさんにパン屋さんでの一幕を話して尋ねた。


「その……ネコミミ獣人の女の子って、やっぱり同じ獣人の人がいいんですかね」


 そう、彼女もまたラーナちゃんと同じネコミミ獣人だったのだ。

 彼女は事情を知ると大爆笑しつつも教えてくれる。


「そうねえ。

 そうと言えなくもないのだけれど」


「ガーン、やっぱり?」


「でもねー、それはやっぱり御相手次第ね。

 みんな、本当に幸せになりたいのよ。

 例えば、ただお金を持っているだけとかでも駄目ね。

 ちゃんと自分や家族を愛してくれる人でないと。


 また、その生き方を尊重してくれる人も好ましいわ。

 あの子の場合なら、たとえばパン屋さんという御仕事に理解があって、お金持ちでも決して人を見下したりしない人とか。


 人族でもそうだと思うんだけど、特に獣人はマイペースな生き方を好むし、殊更そういう傾向が強いわ。

 そうね、彼女の場合に当て嵌めて考えてみると、こんな感じかしら。

 たとえ相手が人族といえども、お金持ちで獣人のケモミミが大好きで、パン屋さんが大好きで、自分や家族をとても愛してくれる人なんかだと人族が相手でもそう悪いものでもないのよ。

 あなたはその条件に当てはまる希少な人材よ」


「よおおし、百倍勇気が湧いてきたー!

 ありがとうラサさん!」


「あ、あのね、ただ……」


 だが俺は彼女の話の続きを聞こうともせずに駆けていった。

 とりあえず、本日限定の美味しいパンを買いに。


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