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150-20 ダンジョン突入

 そして馬車は着いてしまった。

 ダンジョンへと。


 ここはダンジョン至近に街を形成しているわけではない。

 ダンジョンによっては『迷宮都市』を形成しているらしいのだが、ここはフリードリッヒ家とその傘下である二つの男爵家が三つの都市でダンジョンを囲んでいるため、それが代わりを為しているようだった。


 仮眠小屋のような物はあちこちに散見される。

 あとは馬車で商売している商人とか。

 固定式の建物は、そういう仮眠小屋のような簡素な物しかなく、そこでも軽く物を売っているようだ。


 ダンジョンは稀にスタンピードを引き起こす事があるので、あまり街を近くに寄らせないのだとクランツさんは言った。

 だから、いつでも逃げ出せるようにダンジョン周りもそうなっているらしい。


 だがそれでは何かあった時に対応できないので、フリードリッヒの街は約十キロの近さに作られている。

 通常は他の二つの都市のように二十キロ程度は離れているそうだ。


 万が一の際には、ダンジョンに街があるとすぐに滅んでしまうため、フリードリッヒ家はダンジョン自体に街を置いていない。

 その代わり、自分達貴族の領主家が住む街が、覚悟を持って一歩前進なのだ。


 きっとそのあたりの決まりは、あの竜殺しの頑固そうな顔をしていらした青髭様の肖像画の御方が御決めなさったのではないだろうか。

 青髭が真っ白になっても、あの眼光の鋭さは微塵も揺らいではいなかった。

 肖像画であれなのだから、本物の眼力(めぢから)はさぞかし凄まじかったのだろうな。


「さあ、着いたぞ。

 おい、ダイゴとかいう小僧、さっさと降りてこい。

 早く行くぞ」


「は、はい。

 ただいま~」


 せっかくビビっていたのに御呼ばれしてしまった。

 それを見た御者さんは笑って見送ってくれている。

 彼には俺を待つ他にも重大な任務があるのだ。

 もし俺があまりにも帰ってこない時は、彼が捜索に来てくれる事になっているのだ!


 いやあ、皆様。

 返す返すも御面倒をおかけいたしております。

 これだからモブキャラっていう奴はよ。

 いや、それこそはこの俺の事なんだけれども。


 そして鯱張った俺は、彼らと共に入り口にいる見張りの兵士のところへと向かい、リーダーが彼に声をかけた。


「俺達はフリードリッヒ子爵からの指名依頼で、ダンジョンの異変の調査に行く。

 あと、そこの頼りない小僧はゴブリン一匹を狩ったら帰すので、すぐ戻ってこなかったら気にかけてやってくれ。

 そこにいる馬車の御者が捜索に行ってくれるのでな。

 こいつはフリードリッヒのギルマスから預かってきた奴なので、面倒をかけるが宜しく頼む」


 それを聞いた門番は俺の方を見ながら思いっきり首を傾げた。


「はあ、調査の件は聞いておりますが、ギルマス案件でゴブリンを一匹?

 わざわざ街の外から呼ばれた、精鋭たるチーム・ベルモントと一緒に?」


 う、それは確かに不審に思われるだろうな。

 しかし、俺は行かないといけないんだよ。

 まあ嫌々行くんだけどね。


 俺のその情けなさそうな様子を見て、チーム・ベルモントの人達がもう笑いを堪え切れないらしい。

 フランケンシュタインの怪物が、実にいい笑顔を浮かべていた。


「まあ、そういう事だ。

 あまり突っ込むな、エイヴァン。

 俺達も詳しい事は聞かされておらんのだが、これはこのダンジョンをも治める領主家たるフリードリッヒ家からの依頼なのだ。

 ただ、それだけだ」


 するとエイヴァンと呼ばれた、いささか恰幅のいい門番は頷いた。

 彼もまたフリードリッヒ家の兵士なのだから。


「ではいってらっしゃい、ベルモント。

 他の皆さんも気を付けて」


 メンバーは皆いい笑顔で、それぞれ挨拶のポーズで門番に別れを告げ、俺は門番の方に向かって大きく御辞儀をしてから、その後に続いた。


 岩肌も露わな薄暗い洞窟。

 それが初めてのダンジョンへの正直な感想だった。


 足元は平らになっているのは人の手が入っているのだろうか。

 あるいは長い間かけて自然に磨り減ってしまったものなのだろうか。


「まるで人工施設みたいな、遊園地のアトラクションみたいだなあ」

「小僧、何か言ったか?」


「ああ、いや別に。

 中は意外と狭いんですね」


「始めのうちはな。

 油断するなよ。

 魔物を見かけていないとはいえ、ここはもう魔物の巣だ。

 お前みたいな素人を連れているとな、そうら」


 いきなり軽装の彼ベルモント、つまりこのチームのリーダーがショートソードで俺に切りかかった。


「何をするんです!」


 だが彼の刃は俺ではなく、俺の後ろにポップして現れたゴブリンを貫いていた。


「ふふ、小僧。

 ゴブリンを狩りに来たんじゃなかったのか?」


 そう言いながら、彼は自分の剣に浄化の魔法をかけて切れ味を取り戻した。

 浄化の魔法って、こういう使い方があるんだなあ。


 昔の時代劇で、刀は人間を三人斬ったらもう血と脂で使い物にならないと毎回ナレーションが入っていた物があったという。

 確かに刀を振って血を掃ったり、殺した相手の衣服で刀を拭うシーンは創作物にてよく見るポピュラーな表現なのであるが。


「ええい、大概におし、リーダー。

 さっさとそいつにゴブリンを狩らせないと肝心の仕事にかかれないじゃないか。

 あんたが狩ってしまってどうするんだい。

 せっかく湧いたものを」


 しかし、彼も嘆息して言い返した。


「だが、こいつに死なれてしまっても困るんだ。

 後方でこいつの御守をするのは、お前の仕事だぜ、アマンダ」


 彼女は無言で不機嫌そうに首を竦めた。

 あ、俺の御守りが相当気に入らないらしい。

 大事な御仕事をしなければならない時に余計な御荷物を押し付けられたんだから、そいつは無理もない話なんだけど、御願いだから見殺しにするのはやめてくださいね~。


 というかゴブリンが湧いたので、アマンダさんはいきなり俺に狩らせようとしたようだった。

 だが肝心の俺がまったくゴブリンに気付いていないので、仕方がなく彼が仕留めたのだ。


 ボケっとしている俺がせっかくのゴブリンを狩れなかったので、内心で一番腹に据えかねているのはリーダーの彼の方なのかもしれない。

 彼らが受けた調査の相手は相当ヤバそうな奴だからな。


 が、頑張らなくっちゃ!


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