150-10 昨今大陸事情
立派で厳めしい造りの門や、立派な装飾を施された高価そうなドアを次々と潜って招き入れられた御屋敷の中は、これまた立派なものだった。
外観の厳めしさと比べて非常に豪奢な有り様だ。
いくらか重厚な方面へ舵を切っている気はするのだが、それでも充分なだけ豪華な屋敷だった。
俺は欧米の高級ホテルなんかには泊まった事がない。
東京の高級ホテルのロビーなんかを待ち合わせに使ったり、そこで少し値段御高めの御茶をしたりした程度なのだが、個人でこんな屋敷を持てるなんて凄いとしか言いようがない。
これが貴族というものなのか。
敷かれている絨毯がとびきり上質な事くらいは俺にだってわかる。
ふかっとしてはいるものの、足を置いて体重をかけると、しっかりと受け止めてくれる。
ソファなんかでもそうだが、この感じは安物とは違うと、どんな馬鹿でも貧乏人でも体ですぐに理解出来るのだ。
地球では、こういう物って国賓クラスを迎える施設とか、大富豪の御屋敷なんかの御用達なのだろうな。
あるいは世界のVIPを迎えるような、上質な超高級ホテルなどで敷かれているもんだ。
こいつの値段など俺なんかには想像もつかないが、この世界の平民の生涯賃金よりも、この絨毯一枚の方が高いのではないだろうか。
地球の発展途上国のように、少女が学校へも行かずに生涯をかけて一枚の絨毯を創り上げるような感じなのだろうか。
これで子爵家?
これより上は伯爵家とかなんだろうか。
ここは田舎の豪族というか、へたな都会の上級の貴族なんかよりもずっと羽振りがいいのかもしれない。
貴族っていうのは領地を持っている人がそう呼ばれるはずだが、都では領地を持たない法衣貴族のような人もいるのだろうか。
「どうした、こっちだ」
「あ、はい」
思わずそのような感慨に浸っていた俺は我に返り、彼に促されてついていった先には、広々とした採光のいいサロンがあった。
窓にはガラス窓のような物が使われているみたいだが、薄いレースのようなカーテンが窓を覆っていてよくわからない。
いかにも貴族といった感じの高級な佇まいの中に、これまた高級そうな服に身を包んだ方々がいらした。
それは普段着といった感じに見えるのだが、それを着ている人も含めて非常に高級感を醸し出していた。
俺は慌てて身嗜みを整えた。
どうも俺って着こなしが、だらしない感じがするんだよね。
こういう時には本当に困ったもんだ。
「おや、クランツ。
今日は帰りが早いんだね」
次期領主予定である兄だろうと思われる人物が、おっとりと弟に声をかけてきた。
特に高圧的ではない、精神にゆとりを持った人物のようでホッとした。
あまり厳めしい方に出てこられるとモブな俺はブルっちまうぜ。
「ふむ、そちらの方は?
御客人かな。
珍しいのう、お前が何の脈絡もなく客人を連れてくるなどとは」
おそらく、クランツさんの父親で領主と思われる人物が、特に詰問するというわけではなく単に率直な意見を言っただけなのだろう。
だが雰囲気や、やや厳めしい感じの第一印象から、父親の方が跡継ぎ様よりも少し細かい事を言いそうな感じに見受けられる。
「ああ、ちょっと珍しい客人だ」
そう言ってクランツさんは悪戯っぽい感じに笑う。
ああ、鑑定してみろって言っているんだな。
俺は胸を張った。
「どうぞ鑑定を御自由に!」
彼ら親子は顔を見合わせたが、そう時間を置く事もなくこう言った。
只の家族の会話の最中だもんね。
「どれ、それでは失礼して」
「私も」
ああ、『FF外から失礼します』っていう感じの奴なのかな。
相手にちゃんと断ってから鑑定するのが一種の礼儀なのか。
なかなか人間が出来た人達だな。
「ま、稀人~?」
「おやまあ、こいつは確かに珍しい御客人だ。
御客人、名はダイゴでよろしいかな」
「は、はい」
「わしはサディウス、このフリードリッヒ子爵家の当主じゃ。
ダイゴよ、しばらく我が家に滞在しなさい。
我が家は稀人の血がどこかで混じっているようで、稀人に危害を加えようとは特に思わぬが、他ではそうもいくまい。
その辺の話なんかもしてあげよう。
その代わり、御主の話も聞かせておくれ。
しかしまあ、このような事は滅多にないものだが。
もしかすると他にも稀人が来ておるのかもしれないのう。
何故かはわからぬが、そういう時には何人もまとめて稀人がやってくるらしいからの」
領主様は少し気がかりそうに懸念を表明した。
「あの、そのように他にも稀人が来ていると、何か不都合な事でも?」
彼は脅かさないようにゆっくりと俺を見詰めると、そのまま目を合わせたままでこう言った。
「今、この大陸は色々と情勢が不安定でのう。
今はベルンシュタイン帝国が暴れておるが、この国の南にあるゲルスも、いつまでも大人しくはしておるまい。
幸いにして、この大陸は真ん中にドワーフが居座って緩衝地帯になっておるからいいものの、そうでなければ今頃は大陸中が大戦争の真っ只中じゃ。
そうなっていたら、うちの王国はどこにつくものやら。
東の草原の民ザイードや、真ん中に居座ったこれまた厄介者であるドワーフの国エルドアは論外だし、その向こうは暴れ者のベルンシュタイン帝国じゃ。
国を守るために、我が国は大陸一の厄介者である隣国ゲルスと組む羽目になる可能性すらある。
あそこは不気味な国でな。
わしは絶対に組んではならん相手と思うておるのじゃが、果たして我が王はいかにお考えか。
国を守るというのは並大抵の事ではないからのう。
歴史の舞台の渦中にて稀に現れる稀人の中には、また厄介な能力を持つ者もおってな。
騒乱の元になる場合も往々にしてある。
アルバトロス王国の初代国王なんかがいい例じゃ。
殊にベルンシュタイン帝国やゲルス共和国に強大な稀人が与したなどという場合の事など考えたくもないわい。
御主、何か厄介な能力などは持っておらんじゃろうな。
そういう物は人前で使わぬ方がよいかもしれぬな。
他の国の間諜に見つかると強引に拉致される可能性もあるから気を付けるがよい。
そうなった場合には、今の情勢では拷問はまず避けられんぞ。
そのような異常な事態になれば、我が国とてもどうするのかはわからぬような情勢じゃ。
稀人を見つけたら王はどのような判断を下されるものか」
ひゃああああ。
ご、御領主様ったら、もう何という事を~。
ヤベエ、超ヤベエわー、この世界。
ああ、もう早く日本に帰りてえ。




