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150-8 バレてました

「やあ、稀人君」


 さっきの女性の手により、何か執務室といった感じの木造りの部屋に茶が運ばれると、それまでただじっと俺を見ていただけのギルマスが簡潔にそう言った。


 思わず俺は半分ほど腰を浮かせて逃走しようかどうしようか迷ったのだが、奴が軽く手で押しとどめるジェスチャーをした。

 それは相手を落ち着かせる意図があると一目で知れる安心させるような動作で、モブな俺は何の精神的な抵抗もせずにストンっと尻をソファに落とした。


「逃げなくていい。

 それで冒険者登録を渋ったか。

 昔の伝説にもある通りのような格好だな。

 この世界の物とは少し違う。

 そして所持品も若干不思議な物ばかりのようだし」


 こいつは俺をどうする気だろうか。

 俺はいつの間にか、物凄く強張った表情をしていたようだ。


「そう怖い顔をするな。

 別にお前を獲って食ったりはせん。

 しかし無防備だな。

 鑑定されれば、冒険者カードを作らなくても稀人だとすぐにバレる。

 隠蔽のスキルでもあればいいのだがな。

 使っていないところをみると持っていないのだろう?」


 ぐふっ。

 こう見えてモブですからねえ。

 どうやら、この人は俺にとって敵っていうものでもないらしい。


「俺が稀人なら、えーその、どうなるんです?」


 一応は丁寧な口を利く事にしておいた。

 敵ではないのであれば、何らかの便宜を図ってもらえるかもしれない。

 とにかく、俺は今本当に困窮しているのだ。


「少なくとも俺はどうもせんが、他の奴らはどうだろうな。

 貴族なんかに関わると厄介だぞ。


 あと、お前の傍にいる精霊が気になってな。

 そいつらは悪しき者にはついていかん性質があるのだ。

 一般的に精霊の加護持ちは人から信頼される。

 お前も本当に善良そうな顔をしているしなあ。

 時々、精霊は顔で憑く相手を選んでいるんじゃないかと思う事があるくらい、それはわかりやすい」


 へえ、そんな加護なんていう物が俺にあるのか?

 

 顔ねえ。

 今度、そういう観点でじっくり自分の顔を拝んでみるか。

 まあ人畜無害なのが一目で丸わかりな顔だよな。

 なんたって俺はモブなんだしよ。


「フィー、そうなのか?」


「あら、見られてたのね。

 まあ精霊なんて、そういうもんなんだけどさ。

 ねえ、そこのギルマスとやら。

 僕の声が聞こえるのかな」


 ここでは隠れていたフィーも、俺の髪をかきわけて、のそっと姿を現した。


「ああ、姿も見えるさ。

 多分、俺にもどこかで稀人の血が紛れ込んでいるんだろう。

 子供の頃からそうなのさ」


「俺に、そいつの加護とやらがついているのだと?」


「ああ、しっかりとついているみたいだな。

『蜻蛉に愛されし者』の称号も見えるぞ。

 しかし、お前。

 精霊(せいれい)じゃなくて蜻蛉とんぼの加護なんだなあ」


 ううっ。

 なんたってモブですからね。

 思いっきり泣いてみてもいいかなあ。


「よ、余計な御世話だ。

 いいだろ、別にトンボの加護だって。

 こいつは凄く役に立ってくれているんだから」


「はっはっは。

 それならよかった事だ。

 お前、今夜は俺の家に来い。

 飯くらい食わせてやろう」


 おっと、これは凄い申し出が。

 もう疲れたし腹が減ったし、心も参り加減なのだ。

 フィーがいてくれなかったら途中で行き倒れて生存を諦め、この街へ辿り着く前に異世界の大地に還っていたかもしれん。


「そ、それはありがたいのですが、よろしいので?

 一緒に御家族の方とかも住んでいるのでは」


「まあ、うちの子にも稀人なんていう奇天烈なものを見せてやろうかと思ってな」


 どうやら今夜は泊まれる当てが出来たようだ。

 助かった~。

 この人って凄く強面っぽい感じなんだけど、案外と子煩悩なんだな。


 でも俺は見世物なのかよ。

 料金は思いっきりぼったくるからな!


「すいません。御世話になりまーす」


 俺は調子よくそう言って、彼に深く頭を下げた。


「そういう訳だ、ベローニ。

 とりあえず、こいつは俺の家に泊めて、明日もギルドに連れてくるからよろしくな」


「かしこまりました」


 彼女はあまり感情を出さずに、ただそう言った。


「あのう、そちらの方は?」


「こいつは、このギルドのサブマスだ。

 安心しろ、少々不愛想だが信頼出来る人間だ。

 口は岩よりも堅い。

 絶対にお前の秘密を漏らしたりはしないさ」


 だが彼女は溜息を吐いて言ったのだ。


「ギルマス、相変わらずトラブルを自ら背負い込みたがる悪い癖が直りませんね。

 まあ、あなたがそれでいいというのであれば、私は別に構わないのですが」


 う、この俺がそのトラブルのネタでございます。

 いや、大変御手数をおかけいたしますね。

 どうやら稀人というのは、フィーが懸念するように、やはり少々マズイ存在らしいな。


「じゃあダイゴ、一緒についてこい。

 ベローニ、後は頼む」


「かしこまりました」


 まだ店仕舞いには少しばかり早いだろう時間に、冒険者ギルドのギルマスなるものに引き立てられていく俺は、ギルドの一階にて少しばかり注目を浴びた。

 どうか鑑定なんかされていませんように。


 だが俺は知らなかったのだが、この世界でやたらと鑑定をする人間は、そいつにイチャモンをつけていると同義語なので、バレると怒鳴りつけられて痛めつけられても文句は言えないらしい。


 俺なんか、相手を鑑定する事すら思いつかないほどのモブさ加減なのだが。


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