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149-11 その正体は!

 そして、その三日後の御茶会当日と相成った。


「タランラン、ララン」


 実に楽し気に、彼女の居住区にて軽やかな足取りでくるくると回り、鼻歌と共に一人ステップを踏むエレーミア。

 あれから、ずっとここにいるのだ。

 かなり気に入ってもらえたのは頑張った甲斐があって嬉しいのではあるが。


 そこへ、とことことやってくるレミ。


「ママー、きょうはすっごく、たのしそうだね!」


「そうよー、楽しいのよう。

 だって御茶会よー。

 モッテングラーチャ狩りなのよー」


「それ、おいしい?」


「うーん。

 人族の人には、そう格別に美味しくはないかもしれないけど、とっても楽しいわよ。

 私達獣人にとっては堪えられない風味だし、きっとレミも気に入るわ」


「わーい」


 それを見ていた俺とシルは顔を見合わせた。


「特に美味しくないんだって」

「楽しいんですってね」


 俺達夫婦は二人とも首を傾げて、もう一人の夫婦仲間である彼女の楽し気な様子を見ている。

 一応は狩りという事なのでエリーンの奴を待機させておいたのだが、奴め、俺の足元で座り込んでいじけていた。


「そうかあ、美味しくないのかあ。

 あーあ、ちょっと期待していたのになあ。

 く~~。

 何かこうやる気ゼロパーセントねえ……」


「おい、気持ちはわかるが、一応は仕事時間中だぞ。

 お前、得意の御愛想でエレーミアから何か聞き出してこれないか?」


「それはもうとっくにやっていますけどね。

 いやあ、それが何かこう、まったく話が噛み合わなくって全然さっぱりですわ。

 彼女、本当に浮かれています。

 これがケモミミハイム人っていう奴なんですね」


 一を聞いて十を知る女エリーン。

 もう仕掛けていたか。


 しかし彼女がトライしても口を割らないのか。

 なかなか容疑者の口は堅いな。

 ここはヤマさんとかチョウさんとかを連れてこないと駄目なヤマなんだろうか。

 ニューヨークの迷探偵では駄目そうだ。


「うーん、言われてみれば、まさしくそうなんだった」


「まあ焦らなくてもすぐに判明するわよ。

 エドの話だと危険な催しじゃないみたいだけど。

 でもハードな何かなのは予想がつくわよ。

 あと、あなた向けの催しというのが引っかかります。

 私は遠慮しておきますので、夫婦代表として、ここはあなたが頑張ってください」


「お、おう。

 それはやるしかないないんだがなあ。

 あまり気が進まないねえ」


 そんな俺達を尻目に、エレーミアはレミの手を持って回り、ぐるりんっと振り回して楽しそうにしている。

 レミも実の母親である彼女からこんな風にしてもらえるのが初めてなので、実に素晴らしい笑顔を見せていた。

 もちろん新家族の肖像として撮影だけはしておいたのだが。


 この笑顔をもたらしている物がモッテングラーチャなる何かなのだから、それはある意味では我が家にとって福音と言えない事もないのだが……それが何なのか、この目で見るまでは絶対に信用できねえ!



 そして御茶会当日と相成り、彼らがやってきた。

 アルンストの他に爺もいれば、王太子殿下に、細身の短毛種っぽい感じのネコミミ獣人である王太子妃殿下もいる。


 皆、一様に楽しそうにしているのはいいのだが、かなり大きな籠というか葛籠(つづら)というか、そういう物を幾つも持ち込んでいるのが気になる。

 かなりの数があるな。

 

 おまけに何故かそれらがガタガタっと動いた!

 やはり狩りというだけあって、何か生き物を扱うのだろうか⁉


「よお、魔王様よ。

 実によいモッテングラーチャ日和じゃのう」


「おっす、爺さん。

 そんな日和があるのかい?」


「ふっふっふっふ。

 それがまさに今日なのじゃ!」


 この爺さんにしては珍しく、豪くテンパってやがんなあ。

 その浮かれまくっている爺様の様子に、俺はまた顔を顰めた。


「やあ、グランバースト公爵。

 これは本当に素晴らしいものですね。

 消滅してしまった千年の遺産を更にパワーアップして再現しまうなんて。

 如何にも貴方らしい仕事だ」


 少し『艦内』を見学してきてからやってきたので、そのように空中庭園を絶賛してくれるケモミミハイム王国の王太子殿下。

 温厚そうで、アルンストよりも少し歳が離れているような印象を受ける。

 若いアルンストが、逆に歳の割に落ち着いた印象があるのだが。


 次期王太子の子も来ている。

 どうやらレミに会えるのが嬉しいようだ。


「御褒めに与りまして、大変光栄です。

 この空中庭園エレーミアパレスへようこそ」


 実に丁度いい、嫁さんの実家への離宮の御披露目になった訳なのであるが、まったく安心は出来ない情勢だった。


「ここなら広いですし、十分モッテングラーチャ狩りが楽しめそうですね」


 むう。

 広い方がいいのか。

 さっぱりわからん。


 ふと見ると、ジョゼの犬達も集まってきている。

 ジョゼの奴め、ここが相当気に入ったとみえて学校をサボって居座っているのだ。

 何しろ広いからな、ここは。

 犬どもも弾けてしまっているし。


「園長先生、今から何が始まるの?」

「さあ、何か御茶会のイベントが始まるらしいのだが、俺も特に内容は聞かされておらんのだ」


「何それ」


 だがジョゼも好奇心が鎌首をもたげたものか、全員で見学する事にしたらしい。


 彼女の犬達も、リラックスして横に寝転んだり伏せの姿勢になったりして尻尾も御機嫌そうだ。

 やはり犬の鋭い感覚にも特に危険は感じられないらしいな。

 大好きな御主人様が一緒なんだから、危険があれば連中が真っ先に騒ぐはずだ。


 そして国王の爺自ら開幕を宣言した。


「よいか、皆の者。

 我らがエレーミアの新しい人生の門出を祝って茶会の開始を宣言する。

 さあモッテングラーチャ狩りの始まりじゃあ!」


 そして開けられた『大きな葛籠』の中からは、なんと多数の化け物が飛び出してきた。

 まるで日本の昔話に登場する、大きな葛籠と小さな葛籠のような有様だった。


「な、な、なあにいー」


 飛び出してきたそいつらは、黒っぽい感じのまるで昆虫のような手足を振るい、直立に立ち上がる。

 体全体は濃い色合いの緑で、何かこう全体的にわさわさしている感じだ。

 もふもふなのではない。


 まさかあの連中が、このような狼藉に(はし)ろうとは、さすがの俺も予想していなかった!


「なんだ、これは。

 動物でも昆虫でもなさそうなのだが。

 魔物の一種なのか⁉」


 体長は一メートルから一メートル五十センチといったところか。

 その見かけは、まるで昔の特撮番組に出てきた奇妙な宇宙怪獣のようだ。


「シル、レミ。

 俺の後ろに!

 こら、このネコミミ爺。

 いきなり何をさらすんだあっ‼」


 ジョゼの犬達が、そいつらの異様な雰囲気にビビって一転して慌てふためき、尻尾を巻いてフェルドの後ろへ固まって隠れた。


 ただ一匹グレートデンのアキレスは、主人であるジョゼを守るように勇ましく前へ立ち、激しく吠えまくった。

 他の犬達もそれを見て、再びジョゼの傍に集まってきて守るようにして吠え出した。


 だが、奴らケモミミハイムの王族は皆笑っている。

 エレーミア本人も。


「レミー、こっちへおいで。

 一緒にモッテングラーチャを狩りましょう。

 美味しい御茶が採れるのよー」


「はあっ!?」


 そして娘は嬉々としてそいつらを捕まえにいくが、さすがに身長差があるためか大きめな奴に反撃され見事に倒される。

 いきなり大物を狙いに行くあたりは、トーヤ達の影響なのかね。


「レミ!?」


 俺は娘を助けるために魔法を放とうとするが、いつのまにか後ろにやってきていたミハエルが俺の手を押さえて制止した。

 そして目が合うと左右に首を振られた。


 その直後、むくっと起き上がったレミは目をキラキラさせて立ち上がり、またそいつらを追いかけ始めた。


「あー、自分達だけで楽しい事やってるー。

 駄目だよ、園長先生。

 獣人国の集まりなら僕らも呼んでくれなきゃあ」


 背後から御馴染みの奴らの声がして、そして一緒に混じっていく二人の御狐王子達。

 他の御狐チビ達も一緒だった。


 その怪物達は岩山を素晴らしい速度で駆けのぼり、縦横無尽に散らばって、てんでバラバラに駆け巡った。

 それを獣人達が目をキラキラさせながら追いかけていく。


「ミハエル、あれは一体何だ?」


「ああ、あれがケモミミハイム名物であるモッテングラー茶の木だ。

 この大陸では獣人向けにマテグール茶として流通しているぞ。

 お前の商会でも扱っているだろう」


「うおう、あれが⁉」


 ど、どう見ても怪物にしか見えんのだが。


「ああ、捥ぎたてを淹れるのが一番美味いんだとさ。

 美味しいというか、独特の風味なのだがな」


 まあ、いくら美味しい御茶といえども、いわゆる『旨い物』の中には入れないよなあ。

 たぶん、俺達の世界でいうところのウーロン茶あたりに該当する『美味しいというと微妙なのだが唯一無二で有用』といった感じのポジションにある御茶ではないのだろうか⁇


「我々にとっては微妙な味わいなのだが、獣人にはあれの風味がまた堪らなくいいらしい。

 しかも、ああやって活動的に走り回らせた奴を収穫するのが最高らしいぞ。

 この行事は王族のレクリエーションを兼ねていてな。

 平民に参加は許されない代物らしい」


「ああっ! すると、まさか」


 奴は苦々しく頷くと言った。


「接待された人族も、獣人並みに走らされるからなあ。

 王家の好意でもてなされる物だから、皆さすがに断り辛くて。

 そういう訳で、貴族なんかの代理として冒険者に御鉢が回ってくる事も多いらしくてなあ。


 これがまた延々とやらされるんでなあ。

 国民に分ける分まで毟るんだとさ。

 何故接待される者が、そんな事をしなければならないものか。

 だがまあ、向こうは楽しんでいるんだから仕方がない。


 自分達の好きな事を好意で御裾分けしてくれているだけなのだ。

 また特に悪気はないのが大変に困り物なのだよ。

 王族行事への部外者の特別参加が許されるのだから、これはもう大変な栄誉であり、もう諦める他はない。


 量を確保するために延々と行事が続くから、まるで騎士団の地獄の訓練のようなものでな。

 引退間際の歳を食っているようなロートル冒険者がやらされたら堪らんよ。

 代理で走らされる冒険者にとっては非常に嫌がられるイベントなんだ。

 口にするのも嫌なくらい嫌われているよ」


「なんじゃあ、そりゃあ」


 ええい、こんな事なら始めからミハエルに訊いておけばよかったな。

 そういや、メリーヌ王女の侍女が向こうの大陸に関しても事情通なのだった。


 他の御狐チビどもは『ドワーフ王国王子付き』という事なのだろう。

 平民の冒険者もいるんだから、それでも特に構わんよな。


 最初は嫌がっていたジョゼの犬どもも、今では元気に走り回っている。

 生憎な事に、体力に乏しい主の方は少し走っただけでもう諦めたようで、ポンっと両足を前に投げ出して地面に座ってしまっていた。

 まあ犬は平民の内に入らんだろうし、ジョゼに至っては地球のチャライ貴族王族なんかよりも遥かにランクが上といってもいいくらいだ。


 アキレスとかいう忠犬グレートデンも主のその様子を見て、彼女のために勢子というか猟犬の役割を演じるのは止めにして、自分が楽しむ事にしたようだった。

 今は甲斐甲斐しく娘の御手伝いをして、走り回る獲物を見事に追い込んでくれている。


 うちの娘はラグビーのタックルのように腰を落として飛びついて、奴らを引き倒し茶葉を毟りまくっていた。


 よく見れば、あの腕のような物はどこかで見た事があるような茶葉が生えた枝だわ。

 日本では、愛知県の御隣の静岡県が茶の名産地だったしな。

 御茶の葉毟りの写真は社会の教科書にも載っていたっけ。


 バタバタと(せわ)しく生き物のよう走り回っていると、ちょっと御茶の木だとは気が付かないぜ。

 足が生えて走っているし、パッと見た全体のフォルムが全然違う。


 日本の御茶の木は刈られたように形が整えられていると思ったが、こっちの奴は『狩られて』いるのだ。 

 走る植物というか、走る御茶の木なのかよ。

 そういえば、確かに似ている印象である昔見た特撮宇宙怪獣も、わさわさな植物系だった!


 ええい、紛らわしい!


「よおし、じゃあ俺もレミと一緒に狩るか!

 ミハエル、お前もどうだ」


 奴は手の平をヒラヒラとさせて見送った。


「よーし、レミ。

 パパと一緒に毟るぞー」


「わーい」


 横目で見ると、エレーミアが楽しそうにモッテングラー茶を追いかけながら毟っていた。

 いつの間にか、なんだかんだ言ってシルも混ざっていた。


 エリーンも、一応は飲食物の範囲だとして追う事に決めたようだった。

 その頭の上には、ちゃっかりとミニョンが乗車していて実に楽しそうだ。


 こうして新しい家族の団欒は、体力の限りをもって深まったのであった。


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