149-10 モッテングラーチャ
「お待たせいたしました。
どうも、第二王子のアルンストです。
エドさんと言われましたね。
確かケモミミ園、いやグランバースト公爵家警備主任の。
本日はグランバースト公爵からの御使いなのでしょうか」
「え、ええ。
そうなのですが……そのう、なんといいますか……」
その珍しく落ち着かない様子のエドを、アルンスト第二王子は訝しんだ。
彼エドは、アルンストの知る限り冷静沈着な人物で、他国の王族を前にしても気後れなどする人物像ではなかったはずだ。
となると問題は。
「もしかすると、エレーミアの件で何かありましたか?」
「え、ええ。
実は、どうやら彼女が、御茶会にてモッテングラーチャ狩りをしたいと言い出したようでして」
「ぶははははははは」
その途端、アルンストは大爆笑した。
初めて会う人物の前で、このような狼藉は王子として非常にマズイ事であった。
だが、いけないいけないと思いつつも、笑いを抑えられなかったのだ。
彼は、ついには膝を着き、床に蹲り、片手で上体を支えながらも頭を床に擦り付け、ネコミミを震わせる事になってしまった。
もう一国の王子にあるまじき醜態だった。
しかも、この国の諜報責任者である彼ともあろうものが。
しばしの間、彼は体を震わせて蹲っていたのだが、ようやく起き上がるとアルンストはエドに謝罪した。
「い、いや失礼。
あまりにもツボに入ったものでして。
そうですか、それはあの子も里心がついたというか、嫁ぎ先で安心出来たというか。
そんな事を言い出したという事は、そこを正式に巣として認めるという事なのです。
それは我々家族にとっても朗報ですね」
「ああ、いやその……」
まさか自分のチームに『不吉な四行詩』を唱える要注意人物がいて、そいつが前代未聞の十二行も喋ってしまったなどとは、他国の王族に向かって説明出来やしない。
件のモッテングラーチャ狩りが、相手にとっては特別重要で神聖な儀式であるやもしれないのだから。
「おや、そちらで何か問題でも?」
「はあ、何かグランバースト公爵御本人が大変ビビってしまわれているようでして。
それで、この私が勅命を帯びて派遣されてきたという次第でございます。
あの、失礼ながらモッテングラーチャは我々冒険者の間では畏怖の対象となっており、かつその実態を知る者がロス大陸には碌にいない状況でございまして。
正直、私もビビっております」
それは納得いったという顔で何度も頷くアルンスト王子。
だが目は笑っている。
そのアルンストの様を見て、特に危険はないとみて少し安心したエド。
「そうですか。
ああ、そうかもしれませんね。
我々にとっては只の楽しい風習なのですが、人族の方にはその風習に馴染めない人も多くて。
それに、雇い主の代わりに無理やり参加させられる冒険者の方も少なくなくって。
なるほど、なるほど」
そのように納得されているのを見て、よけいに不安そうにしていたエド。
だがアルンスト王子は笑いながら軽く手を振って言った。
「モッテングラーチャ狩りは我々の方で準備を整えておきましょう。
グランバースト公爵にはそう御伝えください。
日程は追って御連絡いたしますので。
ああ、その内容は当日の御楽しみという事で内緒にさせてください。
まあ、あのグランバースト公爵の事です。
きっとモッテングラーチャ狩りを思いっきり気に入ってくださることでしょう」
「はあ」
結局、碌に調査はできなかったため、首を振り振り空中庭園へ帰還するエド。
「おお、エド。
帰ってきたか。
それで、どうだった?」
楽しそうな様子で、彼女のために作られた真新しい居住区を子細に検分しているエレーミア。
だが、それを横目で見ながらエドも浮かない顔だ。
「はあ、先方は何かこう思いっきり笑い飛ばしてしまっていまして、そう深刻なものではないようなのですが、それでも油断はできませんねえ。
どうやら、ケモミミハイムに雇われたり人族に雇われてあの国へ行った冒険者が大嵌まりしたりするような案件らしくて」
「む、むう。それで?」
「結局、詳細は教えてくださらなかったのです。
内容は当日の御楽しみにしてくださいとの事で。
その準備は先方が全て整えてくださるそうでして。
あと、彼女がそういう事を言い出すというのは良い傾向だとも」
「へ、へえ。
そうなのかあ。
しかし、気になる」
「ええ、気になりますねえ」
「「ロイスがねえ!」」




