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14-2 競技開始

 入場行進が終り、第一プログラムが始まった。


 まずは徒競走だ。

 これも、この世界ではあまり馴染みがないようだ。

 チビ達が五人ずつスタートラインへ並ぶ。

 園児だから、もちろんクラウチングスタートではない。


 号砲は、地球と同じ火薬式のピストルスターターだ。

 大きな音がするので、最初はみんなピギャアーっていう感じでパニックになってしまったのだが、まあすぐに慣れるもんだ。

 獣人は聴力も凄く、感覚器全般が皆敏感だからなあ。


 実況のエリ-ンが解説の葵ちゃんに聞いていた。


「どうもー。

 実況のエリ-ンです。

 解説の葵さん、この徒競走というのは?」


「はい。

 初代国王ヤマトさんの故郷である日本では、こんな感じで予選で数人の組で走って順位を決めて、更に決勝を行って勝者を決定するんですね。

 ただ、特に獣人の子供達なんで種族特性もありまして、年齢や体の大きさなんかでは決まらない面白さがあるんですよねー」


「それは楽しみですねー。

 あ、園長先生は何か?」


「元気があって大変宜しい!」


「あ、始まりましたねー。

 早い早い。

 トーヤ選手、日頃のおっとり分解小僧の面影もなく素晴らしい走りで、ぶっちぎりです」


 色々と地球の走法みたいなのも見せてやったのだが、みんな地球の食い物の映像の方が興味あったみたいで……。


 せんしょ小僧トーヤの勝ちだったか。

 足の速い狼獣人も同じ組にいたんだが。

 カミラは負けてしまって滅茶苦茶に悔しそうだ。

 仰け反って揺れるケモミミと尻尾が見応えあった。


 例の映像技術で、今の組の走っていた映像が空中にスクリ-ン投影されている。

 競馬中継のように違うアングルからの映像も用意した。


「続いて次の組は……」


 なんか結構チビどもが真剣になっている。

 声援がくるのは力になるのかもしれない。

 今までの人生で、きっとそういうものは無かったんだろうから。


 一応白組と赤組に分けておいた。

 白組大将がトーヤで、赤組大将がカミラだ。

 カミラはさっき徒競走でトーヤに負けたので、少々むきになっているようだ。

 ファルやおチビ猫も頑張って走っていた。


 しかし、段々とみんな食い物の匂いに気もそぞろになってきており、特にちっちゃい子はその傾向が強かった。

 ここは集中した奴の勝ちである。

 最年少であるレミたんが小さな一等賞の旗を振り回していた。


 ファルは食い物の誘惑に勝てずにリタイヤして、ファルス形態でスイーツに鼻面を突っ込んでいた。

 神聖エリオン様……。


 徒競走決勝レースを制したのはトーヤだった。

 地球の走法を熱心に研究し尽くした、御狐様の勤勉さの勝利であった。


 優勝賞品として最新工具セットを進呈した。

 そいつはミシン屋親父謹製の最新データから作った特別な奴だ。

 トルク補助の魔法を付与してある物なので、子供でも比較的楽に使用できる。

 悪戯には使わないように申し付けておいたが、はてさて。


 もう観客達も楽しみまくりだ。

 屋台で食い物を買い込んでは、それを食いながら見物といった感じで、まるで相撲見物か何かのようだった。


 この世界ではやられないような競技ばかりだからな。

 ちゃっかりと観客からおやつを貰っている子もいる。


 第二種目は玉入れ。

 幼稚園の子供用に小さく作ってあるが、みんな結構力があるので十分届く。


 籠を持っているのは盾役の冒険者だ。

 結構強烈な流れ弾に当たったり、玉を拾いに来た子供の体当たりを思いっきり食らい続けるので、ここは体格のいいタフな奴を中心に選んだ。


 勝負は意外と指揮能力で差がついたようだ。

 白組はトーヤがリーダーシップを発揮して声をかけまくっているので、着実に玉が積み上がっていく。

 対して赤組は、カミラがむきになっているので全員の動きが見事にバラバラだった。


「おーっと、トーヤ選手。

 さすがは日頃幼稚園のリーダーを勤めるだけあります。

 沈着冷静に指揮を執っていますねー。

 対する赤組のカミラ選手ー。

 これはちょっといけません。

 狩りも熱くなりすぎては獲物も逃げてしまいます」


 ピーっと笛が鳴り、タイムアウトとなった。

 カミラが見事な負け犬の遠吠えを披露した。

 うん、なかなか迫力があるな。


「がんばれー、狼っ子。

 まだ次があるぞー」


 ちゃんと負け組にも声援も飛んでくる。

 白組の子達には賞品の蜂蜜菓子が配られた。


 第三種目は大玉転がし。

 紅白の大玉はおっさんがパパッと作った奴なのだが、いかにも手作りっぽい感じに見せるべくデコボコな作りにしてある。

 こういうところ、おっさんは無駄に芸が細かい。

 玉自体はかなりでっかいのだが、かなり軽く作ってあるので大丈夫だ。


「さあ、大玉転がしです。

 葵さん、一体どちらが勝つと思いますか?」


「そうですねえ。

 冷静な指揮官のいる白組に分があると思いますけど、それだけで勝負が決まらないのが、この競技の醍醐味です~」


 そして始めは白組優勢だったが、途中でアクシデントが起きてしまった。

 一匹、白組の猫耳幼女が玉に張り付いてしまって、そのままぐるんと転がっていく。


「おおーっと、やっぱりこうなりましたね。

 まあこの競技でアクシデントはよくある事なので」


 葵ちゃんも楽しそうだ。

 まあ色々な方向へ転がってしまうように非常に軽く作ってあるので、たいした被害は無いのだが。


「にぎゃー」


 たまに悲鳴が上がる度におっさんのヒールが飛ぶ。


「にぎゃー」


 まただ。

 結局五回転してしまった。

 仰向けの体勢で玉の表面に張り付いてしまっているのだが、どうやってくっついてるんだよ、あれ。

 本物の猫なら爪が引っ掛かっちゃう事もありそうだが。


 救助活動をしている間に赤組がゴールして、カミラが可愛くガッツポーズだ。

 サーキットじゃないので、イエローフラッグとかは振られないからな。

 こっちは賞品にカスタードクリームの使われたクッキーを配布した。



 第四種目はスプーンレースだ。

 卓球用に作ったピンポン玉を運んでいるのだが、玉が軽いので早く走ると空気抵抗にすら抗えずに吹き飛んで行き、こういう種目に慣れない異世界人達が次々と脱落していく。

 ピンポン玉なんて、ちょっとバランスが悪いだけで飛んでいくからな。


「この競技は少し難しいんですよね。

 その分景品は豪華なんですが」


「そうそう、このレースは来賓からも参加があります」


 王子様・王女様は全員参加だった。

 公爵令嬢や侍女達も参加している。

 競技に出たくて、うずうずしていたのだろう。

 とっても嬉しそうだ。


 一人アワアワ言いながらやっている奴がいるな。

 もちろん、すぐに玉は明後日の方向へ飛んでいったのだが。


 ルーバ爺さんも参加したのだが、最初の一歩でピンポン玉は転がっていった。

「儂とて若い頃は~」と無念そうな叫びが木霊している。


 うん、その気持ちはよくわかる。

 ここだけの話、俺も自分が初めてやったらそうなった。

 軽くて空気の塊のようなピンポン玉は、あっさりと走る時の空気抵抗と慣性の餌食と化した。


 これ、俺は地球じゃ一回もやった事がなかったんだよなあ。

 小中学校で採用していなかったし、親戚の仕事関係でやっていた組合の運動会でも見ていなかった。

 結果だけは、やる前から予想はついていたのだが。


 最後に残ったのは、なんとレミとファルだった!

 意外な結果だったのだが、二人にはベルギー製の高級チョコが与えられる。

 二人とも一瞬の躊躇いも無くパクっといく。

 そして、すげえ嬉しそうな顔をしている。


 それって、とっても高い奴なんですけど。

 せめて、もっと味わって食おうよ。

 まあ嬉しそうなので何よりだ。



 第五種目はパン食い競争だ。

 チビ達はみんなこの競技がある事を知って狂喜した。

 午前の部の最後となる、一番腹が減っている時間に持ってきてあるし。

 みんな徒競走よりも晴らしいスピードでパンを目掛けて突っ走る。


 パンはやっぱりアンパン。

 パンの種類はアンケートをとって、来年はリクエストに答えてもいいかなと。


 まあやるとは思ったが、一人で全部取っていく奴がいる。

 他の子が怒って、それを追いかけ回す。

 競争とは全然関係ない、ケモミミの乱舞が繰り広げられて、見物人が楽しそうだ。


「おおーっと、これもよくある光景ですね。

 運動会の風物詩といってもいいでしょう~」


 この組は競争やり直し。

 もちろんパンをみんな取った奴は発走除外だ。


 チビ達も見物人も楽しそうだ。

 一番楽しんでいるのが、園長先生なのだが。


 これで午前の部は終了だ。

 これから、みんなお待ちかねの昼御飯タイムなのだ。


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