149-7 未来都市・イン・ディファラントワールド
空中庭園の土台の上に、みるみるうちに大きな街が出来ていった。
まずは入り口の、外から見えるような部分から構築していく。
空中庭園は、まるでSFアニメに出てくる未来都市のように、真っ白な湾曲した造形の丸みを帯びた花器のような土台から出来ており、その上が街並みに覆われている。
あちこちに前衛的な塔が立っていたり、SFチックで如何にもアトランティスといった趣の建物が立ち並んでいたりする。
イメージカラーは特殊な、深海を思わせるような深みのあるブルーを基調としてみた。
空の蒼とのコントラストが、くっきりと判別可能なようになっている。
土台の下面は、これまたSFチックな建造物のように外見はメカニカルなパーツが組み合わさったような感じに仕上げられている。
それらは下方へと開く事も可能で、地球のヘリコプターなんかを、そこから収容するなどの演出も可能だ。
また下面の一部は、下の景色が見られるようにグラススクリーンになっている。
もちろん、その強度は最強に仕上げられている。
地面に置いて高度二万メートルの高さからバンカーバスターを食らったとしても、皹が入るどころか傷一つ付かない。
そして内側へと続いていく拡張空間の街並みへと連続して建設されていくのだ。
このあたりはフランネルの大学が、これでもかというくらいに詳細なデータを作ってくれてあったので、それを立体造形に起こしていくのだ。
これがまた普通に作成するのならとんでもなく労力がかかるのだが、各デザインの建物を俺がイメージ作成で作っていくので、あっという間にデータバンクにあった『二万種類』の建物を現物の立体造形として創り出してしまった。
やはりAIという物は大したものだ。
最新科学の産物と俺の能力が合体すると、こんな事も容易に出来てしまうのだ。
これはドンガラだけなので中身はエルフさん達に御任せかな。
むろんドワーフ達もやりたがるはずだ。
この空中庭園は、比較的ネイチャー志向であるブラウンゴブリンの作風とは少し異なるので、彼らには今回はオブジェとか意味ありげなレリーフなどをメインで担当してもらうとしよう。
この珍しいデザインに彼ら異世界の人外達も大喜びだった。
さすがにあれこれと数が必要なので、それらは『サンプル』を作成してもらい、後は俺がコピーするようにした。
それでも膨大な種類の内装品が必要になる。
それらは間もなくゴーレム作業員の手によって据え付けられていき、その造形の造物主達による監修を受けるのだ。
その結果、彼らの御眼鏡と感性に叶わなければ、それもまた素材の内装品の製作からやり直しと相成る。
そしてOKが出たら、ゴーレム達の手によって、それが同じタイプの建物に水平展開されていく。
素材は基本的にオリハルコン筋を持つ魔法の船橋コンクリートで作り、それらも強化魔法で加工される。
また表面を魔法素材で覆って、いかにもといった風情を再現する。
その、まるで早送りの映像のように大要塞のような未来都市的な巨大な物体が出来ていくのを、国王陛下も王太子殿下も唖然として見ているだけであったが、王妃様だけは「もう。まだ出来ないのかしらね」といった感じの催促するような目線を送ってくるのだ。
あのなあ、おばはん。
スイッチポンで一瞬にして料理が作れるような、昔のSF映画に出てくるような未来調理器じゃないんだからさ。
電気炊飯器や、材料を入れてスイッチポンの電気圧力釜だって、その前にちゃんと手間暇をかけているんだよ。
そして、一応今回はこれくらいにしておくかという、決められた範囲の都市設計をフランネルのところでやってくれてあるので、その通りに大小のゴーレム作業員がまるで玩具のブロック・パーツのように土台に組みつけていき、大まかに街は完成していった。
各層が、およそ300平方キロメートル、つまりパリ二つ分の広さを誇る王都アルバと同じサイズとなる大きさの拡張空間として作成してみた。
だから、ここには未来タイプのデザインのバスや魔法で空を飛ぶ自動車なども走らせる(飛ばす)予定だ。
ここから主に景観的なミスマッチがあれば変更を加え、また広場などが欲しい場合は変更を加えていく。
そのデータは随時大学の方のデータベースに情報共有され、すべてのバージョンが切り替わっていく。
そして地球サイドにおける3D映像によるヴァーチャル探索のMAPが随時更新されていくのだった。
「こ、これが稀人世界の力か。
なんという凄まじさだ。
あの伝説の空中庭園を遥かに凌ぐ怪物が、こんなにも短期間で作られていくとは!」
国王陛下が畏怖の念でそれを見上げていたのだが、俺は笑って言って差し上げた。
「あはは、陛下。
いくらなんでも地球でもこんな真似はできませんよ。
これをやっているのが私だから、そしてこの異世界だから出来ているだけです。
また私の能力だけでも出来ません。
地球の天才的な頭脳の持ち主が最新のテクノロジーを用いているから、このようなデータがあるだけで。
ただそれも、ビジネスにはならなかったにも関わらず面白いからというだけで、この膨大なデータを作り上げてしまった奇人というか天才というか、そういう奇特な方がいた御蔭なのですがね」
「なるほど、稀人のやる事だからのう」
そう俺の方を見て言わんでくださいな。
地球で、この手の天才的なおたくという人種には、俺なんか問題にもならんくらいの変人が多いのですから。
このような無限のデータの集積を、ただ面白いからというだけの理由で、息を吸って吐くかのように作り上げてしまうのだから。
おそらく寝食を忘れ、時間と予算の許す限り。
「うん、あいつは変人で変態で天才だ」
あのフランネルという現代の魔女をもってして、そう言わせる人物なのだから。
今回のプロジェクトは大きな利益を生むだろうから、開発者の彼も大いに潤うだろう。
だがフランネルは言う。
「ああ、あいつは金なんかに興味はないのさ。
口座に放り込まれたら、税金は税理士に任せて口座から天引きされるだけに任せる。
節税なんていう言葉は、奴に関わる全ての辞書に一文字もない。
大学が給料をくれて研究資金も出してくれるしな。
もちろんアトランティス関連の研究なのだから、ハンボルトも金を出してくれているんだ。
何しろ、ハンボルト家はアトランティスが大好きな一族だからな」
そうだったのか。
そういや、あの英国ハンボルト本家の御当主はジェリーフィッシュ号で一緒に海底遺跡を見に行ったよなあ。
なんか凄く楽しそうにしていたし。
もしかして米国ハンボルトもそうなんだろうか。
一応ニューヨークも太西洋側なんだしな。
もしかしたら、そういう加減でニューヨーク郊外に本宅を構えているのかもしれん。
今度訊いてみるかな。
もうじき夏休みに入るだろうし、ジョゼなんかも空中庭園の杮落としに招待してやるとするか。




