149-4 高貴なる物
「テーマは高貴な、かな」
俺は気軽に旅行などに使える『大勢で住める乗物』感覚でいたのだが、日本での御披露目と王太子殿下を乗せるという観点からそう考えた。
実際、どうしようかと思っていた部分もあったのだ。
卑しくも大国の王女であったエレーミアの名を冠するエレーミア離宮なのだから。
とはいえあまり変な風にすると、うちの風習に慣れていない彼女が大混乱するだろうし。
それもあるので離宮をどうするべきか、結構色々と悩んでいたのだ。
アルバトロス王国・ケモミミハイム王国の両国は準備を急いでほしいようなニュアンスだし、特にケモミミハイム王国はエレーミアに不遇を強いてしまった経緯があるため、余計に良くしてほしいという意思入れがある。
「空飛ぶ神殿タイプにするか。
古代ギリシア風のような。
それとも荘厳な佇まいにするか。
あまり厳めしくてもエレーミアのイメージにそぐわないし、うちとしてもな」
高貴なもののイメージ。
犬のアフガンハウンドとかか。
いや違うかな。
不思議と世界一の大富豪の家であるドッグハウスにはいないんだよな、あれ。
例えば雅楽みたいなもの。
うーん、あれはもっと違うな。
「やんごとなき」もの、というのもどうだろうか。
まあ、そんな事を言ってしまえばその頂点こそは、この世界で言うなら己が契約者たる、あのロス以上の者は存在しないわけだが、別に神の社を作りたいわけではないのだ。
それを日本人がやったら、究極は神社になってしまう。
空飛ぶ神社は少し微妙だ。
だからアニメのような物語などでは採用されない。
絵的に映えないからな。
今回作成する空中庭園の場合、巨大建造物であるが故にそれは致命傷になる。
ええい、あまり考えすぎるのはよくない。
どうせ、やたらな物は出せないのだ。
よし、ここは一つ専門家に聞いてみるかあ。
という訳で、その場で転移する俺。
「よお、プロフェッサー・フランネル。
ちょっと、お話を聞かせてくれよ」
俺は、彼女の著書を片手にウインクしてみたのだが、そこは大学の教室だった。
いけねえ。
地球は俺のスキルに制限がかかるので困る。
仕方がないから奴の居所を千里眼でイメージしてきたら、ここに出ちまったわ。
よく考えたら、まだ夏休み前だよな。
千里眼って、はっきりとした映像で視えないんだよな。
研究室かどこかの雰囲気だったのだ。
やけに広そうな感じはしていたんだが。
講義を受けている学生達が、こっちをガン見している。
そりゃあ、突然講義中に教授の後ろにテレポートしてきた奴がいたら驚くわなあ。
だが彼らはすぐに授業に集中しだした。
魔女の周囲で起きる出来事に慣れているのだろうか。
さすがは魔女の教え子だけはある。
それに、こいつの成績評価は物凄く厳しいからな。
外国の大学は入るよりも無事卒業する方が難しいのだ。
そして気配を感じ取ったらしい魔女様が言った。
「なんだ。
うちの大学は魔王の留学なんか受け付けていないぞ」
「本物の魔女が教授なのに?」
「いいから、そこの隅っこで大人しく聴講していろよ。
すぐに本日の講義は終了だ」
そして俺は生まれて初めて、大学で講義を聴講する事になった。
「やあ、待たせたね。
それで何の用なんだい。
どうせまた碌な事じゃないんだろう」
「もちろんだとも。
こいつの件さ」
「ほう、それは私の著書だな。
それが?」
「空飛ぶアトランティスの大神殿みたいな物を作りたい」
一瞬、奴は馬鹿を見るような目で俺を見ていたのだが、少し思い直したらしくこう訊き返してくる。
「何故、空を飛ばすんだ。
あれは海の物だよ?」
「何を言うか。
俺は海の五月人形に空を飛ばせる男なんだぜ」
そう言って、海の五月人形の飛行モードの映像をタブレットで見せてやる。
「そもそも、海の五月人形という物自体が私には理解できんのだが。
それって、いわゆる日本の侍人形なんだよね」
「子供の御祝い用だから、必然に従ってアレンジしたまでだ。
この空飛ぶアトランティスの大神殿もそうさ。
浮遊島・空中庭園といった類の物を作らないといけなくてね。
しかも、うちの独特で高貴な雰囲気を持った王太子殿下を、こちらの世界で移動させるものだ。
言ってみれば、日本の皇族を乗せて異世界を旅するような飛行タイプの大型ホテルみたいなものさ。
これが英国なら女王陛下の乗る空中島かな。
しかも、思いっきり高貴でなければならない」
「どんなシチュエーションなのよ、それは。
大体、アトランティスって海のイメージなんだけど」
「知らない。
そうなっちゃってるんだもの。
それでギリシアのパルテノン神殿みたいな感じがいいのかなと思っていたんだけど、あれも何かありきたりなデザインだしねえ。
一応着水させて巨大豪華客船のような感じに、海に浮かぶホテルとして使ったり、必要なら水中に潜航させたりすることも可能だ」
「あのう、アニメに出てくる宇宙戦艦とかじゃないんだからね?」
「初代空中庭園は『フライングフォートレス』とか呼ばれ、かなりの戦闘力もあったらしいがな」
「あんたんとこの国、そんなんばっかりじゃないの。
確か、あんたんちの本宅って要塞化していたよね」
「いかにもな。
だから離宮の方は優雅に作ったんじゃないか。
アルバの王宮はイギリス風だったけど、うちの離宮はフランス風味の世界遺産だよ。
正しくはチェコの宮殿だけど」
「あはは、魔王城のくせにねえ」
「大きな御世話だ」
「とりあえず、デザインを検討しましょうか。
空を飛ぶとなるとねえ。
実際の神殿風よりはSFアニメ風に振った方がいいわよ。
まずコンピューターでデザインして、実物大のモックアップを作って、それから本物に取りかかった方がいいかな。
普通はそこまでやらないけど、あんたならそれくらいは余裕で出来るでしょう。
中身は魔導技術を使ったりして好きに弄ればいいのだし。
どうせイロモノなんだしさ」
「そうかあ、やっぱりそうだよなあ」
こうして英国魔女プロフェッサーによる監修の元、空中庭園Ⅱエアリアルガーデン・エレーミア離宮は基本デザインを決定される運びとなった。




