14-1 開幕
いやあ、色々とイベントが集中して実に大変だった。
だが学芸会の準備も練習もバッチリだ。
来賓に来てくれる人達も無事に押さえたし。
本日は街の人達も来てくれている。
参加人数が多いので警備はアドロスの冒険者ギルドに御願いし、王都の冒険者ギルドからも応援がきた。
相当忙しいだろうにわざわざ来てくれた、ギルマスのアーモンも来賓席にいる一人だ。
アドロス冒険者ギルドのギルマス・ケニーもその隣にいてくれる。
解説は葵ちゃん、そして実況はエリーンで、放送設備もバッチリだ。
帝国だのなんだのと色々あったのだが、園長先生もあれこれと小まめに準備を頑張っていたのだ。
園長先生は実況席にいながら、色々なフォローをする係だった。
王家からは下の王女様二人とエミリオ殿下、さらに公爵令嬢のベルベット嬢が来てくれる。
それに、その侍女連とルーバ爺さんは当然の如く。
このメンツであるから護衛の王国騎士団が来ていた。
その数は、ざっと五十人といったところか。
こいつらだけで運動会が出来そうな数だ。
そのハードさには誰もついていけそうにないがな。
今日のところは大人しく警備に専念していてくれ。
バザーでは御手頃価格で色々な食い物を売っている。
だが、そっちに気を取られているチビが多過ぎだ。
これは誤算だった~。
なんだかんだ言って園児の数も五十人に達した。
増えた分は、中には噂を聞いて自分からセーフハウスに辿り着いた奴もいるのだが、概ね真理が熱心に収集してきたようだ。
プログラムも配られて、御客さん達も興味深々だ。
異世界においては、こういうものはあまり見かけない代物らしい。
エリは立ち話で貴賓席の御姫様方と喋っている。
騎士団も、あの子の事は王女様の友人枠として顔パスで通している。
それがどれだけ凄い事なのか、エリ自身はまったく自覚が無いようだが。
「ふふふ。今日は御飯・おやつ関係の責任者として頑張るのです。
なんたって運動会は、この世界初の行事なんですから~」
「まあ、それは楽しみだわ」
「エリちゃん、頑張ってね」
エリも、今日はバザーの総責任者なので張り切っている。
アドロスの商業ギルドから来てくれた応援の人達も、みんなあの子が牛耳っているのだ。
王宮結婚式の成功もあって、彼女の名声もまた高まっている。
アントニオの結婚式に招待されていた外交官が報告したので、諸国にもその名声が鳴り響きつつある。
ただし、それらの報告書にはエリがあの爆炎の精霊魔王の妹分という事も付け加えられていた。
「非常に要注意人物。
決して手を出してはならない。
出したが最後、我が国は全ての精霊から見放されるだろう」と。
まさに滅亡へ一直線。
その前に、あの魔王が滅ぼしにやってくるだろうと。
そして彼女はアルバトロス王家の面々と非常に仲が良いとも書かれていた。
そんな事になっているとは露知らず、ガールズトークというか、王女様達と子供トークに花を咲かせている奴がいた。
まあそのような雑事を本人に知らせるつもりはないのだが。
俺はさりげない風を装いながら、魔法PCやスキルの警戒はMAXに上げてある。
まだ帝国が滅びたわけではないのだから。
一応マーカーをチェックしたが、皇帝も皇太子もまだ生きてはいる。
皇帝の病状は悪く、王家の話によると年越しは無理との分析だ。
おそらく帝国は冬の前に電撃戦をしかけてくるはず。
そう遠くはない時の回廊にて、戦の匂いがキナ臭く立ち上っている。
だが俺が精霊魔王などと呼ばれているような現状なのだ。
もし、あの皇太子が親玉なら絶対に攻めては来ない。
むしろ俺との友好を深め、反対側へ領土を広げていくだろう。
帝国の、アルバトロス王国の反対側は草原の国で、当然守りは手薄だ。
勇猛な騎馬の民だし、決まった場所に定住していないそうだから、今まではなんとか無事だった。
都を定めていたら、とっくの昔に焼け野原にされていたかもしれない。
というか、そういう状況だからこそ敢えて定住しないようにしているのかもな。
だがアルバトロス王国とベルンシュタイン帝国が手打ちとなれば、あの国では手の施しようがない。
当座は帝国の矛先はそちら側、西へ進むだけだ。
帝国に版図を広げられるのは厳しいものがあるが、こちらとしては当座の安寧は手に入る。
痛し痒しである。
そんな駆け引きも、あの国の皇太子が帝国の頭にいればこそ可能な事だったのだが。
あの馬鹿な第二皇子には力押しの一手しかないのだろう。
自分だけが世界の中心なのだ。
これだから自分の事を偉いとか勘違いしている奴らは困る。
あのバイトンではないが、きちんと義務を果たさない王族など国にとって邪魔なだけだ。
あんな駄目王子は、いつか必ず排除される運命なのだ。
ああいう奴って大概は息子なんかに背中から刺されるのだろうが、今回は俺が退治してやろう。
ありがたく思えや。
さぞかし帝国民からも喜ばれそうだ。
もう油断はしない。
帝国にはまだ瞬神とSランクのバランがいる。
他にもこの間の感知無効の工作員みたいな奴がいるかもしれない。
少なくとも表立って存在する転移魔法持ちを始末出来ているのが心の救いだ。
だが、今まで帝国が行ってきた蛮行や狼藉が頭を離れない。
いくら帝国内での事とはいえ、アントニオのAランク試験の時は閉口した。
両国が真っ向から火蓋を切っていない以上、王国軍でも騎士団でもない、正規の貴族ですらない俺が手を出すのはさすがに筋違いだし。
逆に手を出したりしたら、この俺が国家紛争の原因になってしまう。
こそこそしたって、さすがにそこまでやってしまうと俺の仕業だとすぐバレるだろう。
尋常ではない方法を使うから、第一容疑者として真っ先に俺の名が上がる。
もう国っていう奴は色々と面倒臭いな。
ここにも何時ちょっかいをかけられるかわからないので、検索条件を厳密にしてレーダーで監視しまくりだ。
もう、これが日常の習慣になってしまっている。
とはいえ、今日の行事は俺だって楽しみにしていたのだ。
この運動会は必ず成功させてみせる。
侵略者なんかに邪魔はさせんぞ!
そしてプログラムがスタートした。
入場行進である。
「チャチャ、チャチャチャチャンチャンチャーーン、チャチャ、チャチャチャ、チャンチャンチャーン……」
日本人なら割と御馴染みの、運動会での行進のテーマが流れ、園児達が並んで行進してくる。
ここで、ほおっと感嘆の声が観客席から発された。
幼稚園も義務教育も存在しないこの世界。
通常なんの教育も受けていない幼子が、こんな整然とした立派な行進をやってのける事自体が奇跡なのだ。
ましてや、それをやっているのが通常の孤児院に収容される事さえない獣人の元浮浪児なのだから。
それは人によっては、いたく驚愕する対象となる。
だいぶエサ(おやつ)で釣ってやらせたのは秘密だ。
それが一番効果的だったんでねえ。
そして整列。
うん、上手に出来たね。
次に、大きく前へ習え。
ほおー、と騎士団から感嘆の声が上がった。
今度は小さく前へ習え。
ピシっとね。
そして一気に列が半分に縮む。
またしても感心する声が上がった。
そして宣誓の挨拶。
こいつはトーヤくんに任せた。
「せんせー。
ぼくたちは、せいせいどうどうたたかって、だいうんどうかいをいっぱいがんばります!」
パチパチパチパチと盛大に拍手が沸いて、俺の顔も思わず緩む。
殊に貴賓席と騎士団から大きな拍手が贈られた。
(素晴らしい。
我が騎士団に勝るとも劣らん。
いや、彼らの生い立ちを鑑みれば……)
騎士団長ケインズは、そう独り言ちた。
そして、おっさんの出番がやっときた。
そういや、こんな事は日本でやったことがないな。
「えー、みんなよく頑張りました。
素晴らしい行進でした。
宣誓の挨拶も元気いっぱいで素晴らしかったです。
御来賓の皆さんや街の人達も、みんなの応援に来てくれています。
精一杯頑張りましょう。
皆さん、子供達にたくさんの声援と拍手をお願いいたします」
するとたくさんの拍手が巻き起こり、観客が手を振ってくれた。
子供達もそれに向かって手を振り返した。
そして、おそらくはこの世界初であろう、記念すべき幼稚園の運動会が始まったのであった。




