147-15 猟犬のお散歩
俺達はアドロスのダンジョンで、その光の聖霊の後をついていった。
まるで猟犬のように、匂いを辿るかのように規則的な動きをするかと思えば、ふらふらと酔っぱらったような動きを見せる事もある。
「なあ、フランネル。
何かそれの動きがおかしくないか」
「何、ここはダンジョンの中だ。
魔素も濃い。
元々は地球にはない魔法要素の中で、地球魔法準拠で作成された聖霊を使用しているのだ。
誤作動していない方がおかしいさ。
だが性能は発揮出来ているようだから安心するといい。
なんというか、海外旅行へ行って正式な電圧ではない近似電圧の電源で動かしている機器のようなものだと思ってくれればいい」
「えー、それは大丈夫なのか?」
「何、私の魔法がこの世界でも通用するのは今までに確認済みだからな。
さして問題はない。
性能がまるで発揮出来ないとなれば困ったものだが、そういうわけではない。
何気に探知出来てはいるようだ。
だが動作的には若干心許ない状況ではあるかな」
うーん、微妙だなあ。
だが、こっちの関係は御手上げの難しい案件なのだから、そのあたりはいたしかたあるまい。
いかにも頼りなげな動きを見せるそいつの後ろを辛抱強く追っていく俺達。
既にファルは、いつもの如くにグスタフの腕の中で鼻提灯の生産に入っている。
そして、そいつは下へ向かっていこうとしては床にぶつかるのを繰り返していた。
「魔王様よ、どうやらこいつは下へ行きたがっているようだ」
「そんな感じだな。
じゃあ下の階へ転移」
そいつが下へ行く度に同じ動作を繰り返すので、とうとう最終の五十階まで辿り着いた。
そして幸いな事に、それ以上下へ行きたがる素振りは見せなかった。
それだと完全に誤作動の判定になっちまうからな。
相も変わらず、ふらふらとした動きで漂っていくそいつの後を皆でついていくが、真理が首を傾げた。
「ねえ、このまま行くと、あたしの家まで行ってしまうのだけれど。
あの辺りは他に何も無いはずなんだけどなあ。
今はもうドラゴンすら沸かないのだし」
真理も少し自信なさげに言った。
かの錬金魔女の力をもってしても察知できない者、それが今俺達の前に立ちはだかっているのだから。
「あら、とうとう家に着いちゃったわ。
ちょうどいいから中を覗いていこうかしら。
って、あなた一体何をやっているの。
そこは私の家よ」
その聖霊は、なんと真理の家の中に入ろうと苦心しているのだ。
だが無駄だな。
霊的防御も施してあるだろうドアを突破する事も出来ずに、そいつは地団太を踏んでいるかのよう奇妙な挙動を見せた。
この期に及んで妙に人間臭い奴だな。
「なあ、魔王様?」
「なんだい」
「どうやら、そこにいるんじゃないのか、探し人は」
「馬鹿な事を言うなよ。
そこは初代国王が作った真理の隠れ家だぞ。
そんな場所にエレーミアがいるわけがないじゃないか」
「そうかな?」
そう言うと、フランネルはまた呪文を唱えながらさっと杖を振った。
すると、そこにはまた同じような聖霊が一つ生まれた。
そいつはすっとそのドアを潜り抜けた。
「あれっ。
一体どうなっているんだ」
だが魔女は俺の問いには答えずに、真理に向き直った。
「この中には何がある?」
「えーと、大型の魔力コンバーターがあるわ。
御主人様、この国の初代国王が私のために残してくれたものよ。
もしも、このダンジョンの魔素が薄くなって、私に搭載されている魔力コンバーターでは活動する事が出来なくなったとしても大丈夫なようにと」
「そいつだな。
魔王、間違いなく奴らはここだ。
ただし、彼らは位相が異なる世界にいるのではないか?」
「位相?」
「なんというかな。
この場合は、例えばだな。
そう、このカボチャ」
そう言ってフランネルはアイテムボックスからカボチャの飾りを出した。
そして地面に置いたスチロール製のカボチャにナイフで切れ目を入れて中心まで切り、また違う角度から切れ目を入れて同じく中心まで刃を入れると切り取った。
そして、その断面を指し示した。
「こちらのA面を今我々がいる場所だとしたら、エレーミア王女はこちらのB面にいる。
どこで切っても無限に少し位相が異なる空間があるという概念だ。
パラレルワールドのような多重世界の概念ではない。
強いて言うならば、この世界でいうところの異空間のように局地的な存在か。
そして同じ場所に重なっているが、決して共有はされない世界。
イメージで言うと、周波数が異なる帯域に在るようなものか。
そのような場所だ」
「そ、そんな無限に存在している世界の中からどうやって探すんだよ」
「だから、そのように作った物が先程の聖霊だ。
場所を移動するのではなく、位相を移動する性質を持ったものなのだ。
元々は神隠しに遭ったような子供を探すための術なのだがな」
そんな世界、特殊な位相空間や、それを探すための技術が地球にあったとは。
「それで、その位相が異なる空間とやらは見つかったのかい?」
「ああ。
そして今、あの聖霊は敵に発見されて攻撃を受け消滅した。
通常ならば、あれはそう簡単にやられてしまう物ではない筈なのだが……やはり完全な動作が出来ない空間ではきつかったか。
あるいは敵が超強力な相手で、素で瞬殺された可能性もある。
これはまた面倒な。
奴が来るぞ、魔王よ」
「なんだと!」
そして俺達は強烈な気配に飲み込まれていった。




