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147-2 衝撃のゴースト

 俺はベル君に呼ばれて、王宮東隣にある総合庁舎区域にいた。

 家に帰ろうと思っていたところ、スマホで呼び出しを食らったのだ。

 そこはベル君の職場だが、本日は人払いされており他には誰もいなかった。


「やあ、久しぶり。

 何かあったのかい」


「いえ、実は奇妙な出来事が多々ありましてね。

 あなたの御耳にだけは入れておこうと思いまして」


 へえ、何だろうな。

 ベル君の管轄という事はダンジョン絡みなのか?


「実は最近、アドロスのダンジョンにて奇妙な噂がありましてねえ」

「奇妙な噂?」


「なんでも、ネコミミ獣人で若い十代くらいの女性の幽霊が出るのだそうです」

「幽霊……ねえ。アドロス領主である俺もそのような話は聞いた事がないのだが」


 俺は思わず顔を顰めた。

 実を言うと、俺はその手の物が非常に大嫌いなのだった。


 UMAやUFOなどは、これまたそれ以上は無いというくらいはっきりと目撃した事もあるが、幽霊だけはまったく拝んだ事はない。

 幽霊って本当に存在するのだろうか。

 あれは霊感の強い人と一緒に見ると自分も見えるようになってしまうと言われていて、それだけは真っ平御免だと思っていたのだが、幸いな事に今の今まで幽霊なんていう胡乱な存在は拝んだ事がない。


 この異世界ではいろいろな怪異に出会ったし、それっぽいような感じの見えない代物である顕現していない精霊なんぞには(レーダー感知にて)遭った事はあるが、地球でも超有名な幽霊様を拝見した事はない。


 そういう事は是非ジェシカあたりにでも任せておきたいものだ。

 もっとも、この俺こそが彼女の上司に当たる役職であるのだが。


 そう思いながらも俺は彼の次の言葉を待った。


「実は……」


 彼は声を潜めながら少し顔を近づけてきた。


「その女性、オッドアイなのですよ」


 思わず沈黙する俺。

 しばらく沈思黙考してから、そのまま口を開かずに待っているベル君に訊いた。


「もしかして、レミと同じ色の?」


 彼は黙って頷いた。


「え、え、ええっ」


 俺の驚愕と戸惑いを他所に彼は言葉を続けた。


「事が事だけに、上へ報告書を出す前に、あなたにだけは御報せしておこうと思いまして。

 場合によっては、今は友好的な関係であるケモミミハイム王国との外交上の問題も生じますので」


 そして彼はもう一言だけ、さりげなく爆弾を放った。


「アルさん。

 レミちゃんの御母さんは、本当にアドロスの街で亡くなったのですか?

 本当に死んでしまわれたのですか」


 俺はアムネジアにかかったかのように言葉を失った。



 ベル君の話を総合してみると、以下のような話だった。


「ダンジョンの底で、冒険者達が誰かに見られているような気配を感じて魔物かと思って振り向くと、寂しそうな表情をした件の女性がいるのだそうです。

 そして近づくと、悲しそうな顔で何かを伝えようとしながら消えてしまうのだそうで。

 もし、それがレミちゃんの御母さんだとすると、五歳の子供の母親にしては容姿が若過ぎます。

 それとも本当に幽霊なのか。


 そういう報告が何件か上がっていましてね。

 王都やアドロスの冒険者ギルドに問い合わせてみましたが、目撃者は皆しっかりとした冒険者達で、悪戯や妄言で人を惑わすような人間ではないそうです。

 ギルドにも正式な報告書が上がっております」



 俺はその件について、おそらく最も詳しいのではないかと思われる人物を訪ねる事にした。


「ただいま」


「あら、お帰りなさい。

 嫌だわ、父上ったら御説教が長いのね。

 病気なんだから仕方がないのにね」


 そう言って笑う奥さんに帰還の挨拶(キス)をしてから訊いた。


「真理を見なかった?」 


「真理さん?

 幼稚園の方で新入りの小さい子の面倒をみているんじゃないかしら」


「また新しい子を拾ってきたのか。

 来年の子供の日は、五チームで鯉のぼり争奪戦をやる事になりそうだな。

 数が多くなり過ぎて大変になってくるから、いっそ新競技で総当たり戦かトーナメントでもやるか」


 御姉さんは相変わらず子育て道に邁進しているようだ。

 ずっとアドロスに一人ぼっちで寂しかったのだろう。

 だが、今日はそのアドロスの千年女王たる彼女に用があるのだ。


 幼稚園の方へ行くと、真理が嬉々として五人ほどの子供の面倒をみていた。

 俺が子供達の頭を撫でながらそっちへ行くと、真理が振り向いて言った。


「あら、お帰りなさい。

 御説教が長かったわね」


「どうして女はみんな、そういう風に言うのだ。

 男には付き合いというものがあってだな」


 そう言いながら笑いかけると、彼女はころころと楽しそうに笑い返してきて、それを見上げていた子供達は同じように嬉しそうにしながら彼女にきゅっと捉まった。


「ちょっと悪いんだが、少し話を聞かせてほしいんだが」


「あら、それって先日のあなたの痴態についてかしら」

「ちがーう!」


 だが、子供達は嬉しそうに大好きな副園長先生の真似をした。


「ちたい」

「ちたーい」


 本日、子供達は「痴態」という言葉について学んだ。

 このケモミミ園においては、多くの人がそれを晒す重要単語なのかもしれないが、入園初期の段階で幼稚園児が覚える言葉としては如何なものであろうか。

 しかも園長先生たる人物の痴態について。


「じゃあ、今行くわ」


「ふくえんちょうせんせい、いっちゃいやー」

「いかないでー」

「まりちゃーん」


「ふふ。みんな、また後でね」


 彼女は彼らの頭を撫で、優しく宥めてから俺についてきた。


「君も毎日楽しそうで何よりだ」


「いえいえ。

 それで話というのは何かしら」


「アドロスの迷宮で、エレーミア王女らしき人物の幽霊を見たという複数の確かな報告があるそうだ。

 何か心当たりはないかな、アドロスの女王様」


 彼女も驚いたような顔をしていたが、すぐさま訊き返してきた。


「ねえ、園長先生。

 ずっとあそこにいた私にも特に心当たりはないのだけれど、レミちゃんの御母さんは本当に亡くなったの?

 確認というか、裏は取れているのかしら。

 そのあたりも調べてみる必要がありそうね。

 もしかしたら、彼女はまだ生きているのかもしれないわ」


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