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146-8 ゾンビ軍団王都を行く

「ひゃっは~」


 王都の大通りを楽し気な足取りで、揺らめくような感じに万歳をしながら弾け捲った子供のように駆け抜けていくアルフォンス。

 なんというか、王都学園の学園長先生をかなり陽気にしたような雰囲気だ。

 学園長先生の先祖である船橋武が発症した時には、おそらくこんなものだったのではないかという感じで。


 共に行くエリも一緒に、非常に楽しそうな有様だ。

 園長先生の愛猫であるショーも飛び跳ねながら彼らの後をついていく。


 そして内側より開け放たれた門から突入してきたアドロス多幸軍団の面々。

 王都の大通りを歩いていた人々は一体何事かと思い目を瞠ったのだが、次の瞬間には襲ってきた彼らの軍門にあえなく下り、同じような笑顔に包まれていった。


 なまじゾンビのように怪しげな動きをするのではなく、笑顔で普通に近づいてくるので始末に負えない。


「あれ、この笑顔はどこかで見た事が」


 そう思った時には既に手遅れなのである。


 次々と仲間を増やしながら突き進むニコニコゾンビ軍団。

 その様は、まるで蝗の群れか、はたまた軍隊蟻か。

 きっと本物の蝗や蟻すらも、感染させられて御仲間になってしまうのに違いあるまい。


 そして、その前に立ちはだかった者がいた。

 それはもちろん、王都冒険者ギルドの主たるギルマス・アーモンその人である。


「こら、アル。

 いい加減にせんか。

 アドロスの中だけの狼藉なら勘弁してやるが、この俺の管轄である王都アルバでこのような狼藉は……  ああっ、貴様何をするのだ。

 う!

 お、お前は~」


 そのギルマスを後ろから羽交い絞めにしているのは、なんとエドであった。

 もちろん多幸感いっぱいの表情で。


「この大馬鹿者。

 エド、正気に戻れっ」


 だが叱り飛ばすギルマスを歯牙にもかけず、彼は幸せいっぱいであった。


「いやあ、ギルマスをこうして羽交い絞めにできるなんて、私は本当に幸せ者ですよ」


 そして、もう一人がギルマスを抑え込みにかかる。


「まあまあギルマス。

 そう堅い事を言わないで。

 あなたも仕事柄、日頃から苦労が絶えないのですから、ここは一つみんなと一緒に幸せになりましょうよ。


 ほらほら眉間に皺を寄せたりして。

 まだまだ御若いのに、いけませんな。

 そんな顔をしていると幸せが逃げますよ~。

 そーら抱っこしてあげましょう」


「う、ロイス。

 お前が四行以上も喋るなんて。

 ああっ、やめろ」


「ロイス、その役はアーモンの相棒たる私に譲っていただきましょうか」

「うお! お前までもか」


 それはもちろん感染済みであるサブマスのレッグさんだった。

 元々彼は体格が良く力もいいので、本気で抱き締められたらアーモンでは逃げられない。


「さあ、ギルマス。

 私の愛の抱擁を」


 だが、現役冒険者時代からの長年の相棒たるレッグに抱き締められてなお、彼は激しく発症に抵抗した。


「ぐぬぬぬぬ」


「おや、アーモン。

 そんなに幸せになりたくないのですか?

 しょうがないな。

 どこかが悪いのでしょうかねえ。

 そうだ、これを食べればきっと幸せを受け入れられるようになりますからね。

 はい、あーん」


「や、やめろ。それだけは!」


 それはレッグの実家であるウイルストン家特製の青鰭蜥蜴の干物である。

 世界三大激マズ食材と謳われたこの蜥蜴は、干物にした物が一番マズイと言われるのであるが。


「ほらほらほら」

「んぐぐぐ」


 頑なにそれを口に入れる事を拒んでいたが、いきなり現れたエリーンが不意打ちで鼻を摘まんで、強引に口を開かせた。


「はーい、ギルマス。

 アーンして。

 美味しいですよ~」


 そんなに美味けりゃ、お前が食え!

 アーモンもそう言いたかったのであるが、むぐむぐ言う事しかできなかった。


「ぐぐぐぐ、ぐもーっ‼」


 滝のような涙を流しながら呻くギルマス。

 せめて粉にした物にしてくれよと言いたいが、どっちみち粉も激マズなのであった。

 効果は非常に高い薬なのであるが。


 一応は相当高価な良薬なのであるが、これを貰っても貴族は誰も喜ばないというアレな代物なのであった。


「あれえ、ギルマスってば、なんかあまり幸せそうじゃないなあ。

 よし、みんな。

 ここは三位一体の抱擁で我らがギルマスを幸せにしてあげようよ」


「エリーン、貴様~」


 だがギルマスは、もうそれ以上何も言う事は出来なかった。

 アル・グランド王国で仕事(だいじん)をしているデニスを除いたチームエドの手により、彼は幸せの国へと旅立ったので。


「いやあ、俺はなんて幸せな男なんだろう。

 お前達、本当にありがとう!」


 そう言って彼らの労を労うギルマスなのであった。

 そして依然として監視任務を続けている、ミハエルと真理の二人組も頭を振った。


「うっわー、ドン引きねー。

 あの強面のギルマスが」


「なんという事だ。

 親方といいアーモンといい、本来ならアルを止めてくれるだろう者達が次々と奴の毒牙にかかっていく」


「もうこうなったらバルドスでも呼んでこようかしら」


「やめろ。

 あの爺さんに暴れられても困るし、多幸竜になられても困る!」


「それはちょっと見てみたい気もするわね」


 あの園長先生の強烈なウイルス? が、あの千年来の友人に果たして通用するものなのかどうか、若干気になる真理なのであった。


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