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146-6 無敵のアルフォンス

 もう誰も彼を止める事はできないのか。

 思わず頭を抱えるミハエル。


 なんと、あのエリなども一緒になって『幸せを振りまいている』のだ。

 まるで地球の吸血鬼の伝説か、ゾンビ映画の如しだった。

 ゾンビは幸せを振りまいたりはしないが。


 彼らの進軍の前に、もうアドロスはかなり汚染されてしまったようだ。


「まるでウイルスの感染ではないか。

 一体どうなっているんだ」


「私にもわからないわ。

 でも一つだけわかっている事があるの。

 それは、これが致死性の病気を感染させるようなものではなくて、なおかつ期間限定でしか猛威を振るわない只の無害な風土病に過ぎないという事よ」


 あっさりと言い切った真理。

 確かにそうなのではあるが、街はほぼゾンビに占領されたが如くだ。


 だがハリウッドのB級映画などのように街が荒廃する事はない。

 だってそんな事になったら、人はそれを幸せとは決して言わないからだ。

 彼らは、にこにこと多幸感に溢れる笑顔で人に近づき、きゅっと抱き着くだけなのだ。


 可愛い女の子に抱きつかれた男などは、にへら~っと幸せそうな表情を浮かべたまま感染していき、今度は彼自身が汚染元になるのだ。


「しかしな、国家がこのような有様では」


「どうせ、この状態になっていても、今この国へ攻めてくるような危ない国は園長先生がとっくに駆逐しちゃったんだから関係ないわ。

 周辺国家も大概は時を同じくして発病しまくるのだし。

 もう諦めましょう。

 皆さん、それはもう楽しそうよ。

 いっそ、あなたも御仲間に入ってきたら?」


「馬鹿を言うな。

 この私だけは最後の砦としてだな」


 憤慨し、右手をぶんぶんと振り回すミハエル。

 だが、それを見ながら真理は思った。


『そんな事を言ったって、例年あなたが真っ先に発症しているじゃないの』


 さすがにそれは口に出来なかったのだが。


 いつか人は、今のこの街の事をこう称するかもしれない。

『微笑みの街』と。


 それが素敵な笑顔だったらよいのだが、あの多幸感あふれる独特の笑みを街中の人間が浮かべているかと思うと、やはりちょっと怖い。


「ほう、御困りのようだな」


 背後から彼らに声をかけた人物の方に目を向けると、そこにはにやにや笑っている親方とドワーフ軍団がいた。

 明らかに感染した連中のそれとは違うのだが、これはこれで向けられると少し頭に来そうな笑顔だ。


「あんたか。

 何の用だ。

 祭りの準備なら母上が執り行っている。

 王都アルバへ行ったらどうだ」


「まあ、そう邪険にするな。

 お前はどうも堅物でいかん。

 本当にあの王妃の息子なのか?

 少しは、あの魔王を見習ったらどうだ」


「喧しい。

 あの男と一緒になんかされて堪るものか。

 大体、あんな緩い奴が何故発症しているんだ」


「それは自分の胸に訊いてみるがいい」

「ぐむっ」


 確かに去年は、あいつに負担をかけ過ぎた嫌いはある。

 そう自覚しつつも顔を顰めながら訊き返した。


「じゃあ、あんた達にはあいつを止められるとでもいうのか?」


「ふっ、任せろ。

 この漢ハンニバル、その名の如くハンニバル病に負けた事など只の一度たりともないわ」


「その名の如くって……」


 そして親方達は陽気にアルフォンスに声をかけた。


「よお、大将。

 御機嫌だな」


 すると、彼は嬉しそうに子供のように両手を振って、子供のように一生懸命に挨拶してくれる。


「親方~!

 元気~?」


 その幼気といっても過言ではないような様を見て、豪快な、そして慈しむような笑みを浮かべた親方。


「おう、お前も元気そうじゃないか。

 で、お前は幸せなのか?」


 自分のお株を奪われて彼は一瞬驚いたような顔で呆けたが、次の瞬間には素晴らしい笑顔(ウイズ多幸感)で駆けてきて、子供のように親方に抱き着いた。


 次の瞬間である。

 親方も、また同じく多幸感溢れる笑顔でアルフォンスと抱き合っていた。


 さすがは国親方であった。

 猫なんぞと同じ無様な悲鳴などは一切上げずに即感染していた。


「お、親父?」

「国王、どうしたというのじゃ」

「馬鹿な、こんな馬鹿な」


 動揺するドワーフ達。

 ミハエルも驚愕を抑えきれない。


「こ、これは。

 こんな馬鹿な。

 あの親方に限って、こんなこんな。

 あいつめ、一体何をやらかした」


 しかし、次の瞬間には虐殺、いや激笑シーンが待っていた。


 ドワーフ達に襲いかかる親方。

 国王として、この幸せを皆に分け与えないでは済まされない。

 そのような決意が読み取れるかのような、凄まじい形相の多幸感に溢れまくるタコ笑顔。

 赤銅色の肌に禿げ頭なので、余計にタコっぷりがいい。


「うわあ、凄まじい修羅場ね。

 これだけは見たくなかったわー……」


「ありえん。ありえない光景だ……」


 しかも、エリまでがドワーフに襲いかかって抱き着いている。


「ぎにゃあああああ」

「ぎにゃあああああ」

「ぎにゃあああああ」


「なぜ、何故みんな悲鳴が『ぎにゃあああああ』なのかしら⁉」


 それは誰にもわからないが、あのドワーフ軍団が微笑みのゾンビ軍団側に回ったのだ。

 これはもう違う意味で、あれこれと不幸が始まる先ぶれなのに違いない。


 まだエリやアルフォンスに抱き着かれていた人は『幸せ』だったのだ。


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