13-3 着せ替え人形エリちゃん
おやつタイムを終えると、今度は御着替えタイムになりました。
皆様と一緒に第三王女ハミル様の御部屋へ向かいます。
彼女は私と歳が殆ど変わらないので体格が合うのです。
景気よく侍女さん達に服を引っぺがされた私は、既に着せ替え人形状態です。
自分で着せ替え人形すら持っていないんですがね。
御兄ちゃんが超合金ロボとかを作っていましたが、あれはちょっと。
それを貰ったポールは大喜びしていましたが。
あと、アントニオさんがモデルの変身魔道鎧シリーズとかも作っていたような。
それは見なかった事にしました。
アントニオさんの人形も、髪の毛が癖っ毛というか縮れ毛なので、よく特徴を表しています。
多分、彼に男の子が生まれてきたらプレゼントするつもりなんじゃないかと思うのですが、貰った時のアントニオさんの微妙な表情が思い浮かぶような気がします。
御兄ちゃんが持ち込んだりネット知識から再現したものは凄いと巷では大評判です。
ただ、あれは御兄ちゃんでないと作るのは難しいので、王宮と出入りの業者さんしか手に入れる事が出来ません。
御兄ちゃん相手に無理を押し通そうという馬鹿はいないでしょうし。
(私は、今まさにこの王宮で現在進行形である出来事には気が付いていなかったのです)
後、ネットの知識と葵さんの裁縫技術が王宮に齎されました。
あのミシンという素晴らしい機械と共に。
「本来、あれはこの世界においそれと流してはいけないもの!」
そう言い放ちながら、それを平然と垂れ流すアル御兄ちゃんの、あの極太ロープのような神経がよくわかりませんが。
そのミシンも、今は御兄ちゃんしか作ることは出来ません。
加工も無理だし、材料すら作る事が不可能なようです。
その昔外国で発明されたミシンは、日本へやってきた外交使節が当時の日本のトップである将軍様に献上したのが日本におけるミシンの歴史の始まりだといいます。
だから、これは日本人の子孫であるこの国の王様に献上されるのが正しいんだって。
その謁見の風景を、ミシンを作るのに全面協力してくれた日本のミシン屋さんに見せたら泣いてしまわれたらしいです。
王様も感激のあまり、そのミシン屋さんにまで勲章を授与したらしいので。
実物を渡すのは無理なので、写真という物だけミシン屋さんに送って、いつか御兄ちゃんが向こうの世界へ帰れたら勲章を御渡しするようです。
彼には王様の御言葉までビデオメールという奴で送られたらしいのです。
そして大変丁寧な御礼状が返ってきたそうです。
それらの技術が王宮御用達の服飾店に齎されて、あれこれと形になった物達。
そして様々な素材が、信じられないほどの種類の織り方をされ、とてつもない種類の色で染められた布地。
ファスナー・ゴムベルト・ホックボタン・ベルクロ・色取り取りのプラスチックボタン。
貴族の方々も色々と欲しがって大変だそうですが、その源は……精霊魔王・爆炎・竜の首狩り師・貴族殺しなどの数々の異名を取るアル御兄ちゃんなので、無理が言えなくて悶々としているようです。
そんな最新ファッションや技術で武装された最新ドレスとかが、次々と私に着せられていきます。
その姿を、御兄ちゃんから借りたカメラというタブレットに付属している魔道具で写真を撮ってもらい、タブレットの中へ落としていきます。
スライドショーというのをやると、様々な写真が次々と映し出されていき、皆目を奪われます。
羨ましがられましたが、これは御兄ちゃんから商品開発のための道具としての貸与なので、と言ったら諦めてくれました。
王子様方もそうですが、御姫様方も皆素直でよい方ばかりです。
でも公爵令嬢であるベルベット様はおっしゃいます。
「同じ公爵でも、バイトン公爵家には気を付けるようにね
特に、あの我侭小僧の跡継ぎに目をつけられたら、豪い事だから。
さっきも父親の方が結婚式でやらかして、物凄い事になっていたのよ。
でも、それ以上の事が起こったので、それすらも霞んでしまったけどね」
それはきっと……御兄ちゃん絡みの事件ですね。
「まあ、貴女の場合は『御兄ちゃん』がついてるから心配ないのでしょうけどね。
何か困ったら私や姫様達を頼ってくれてもいいわ。
でもその前に相手が絶対ボコボコにされているのでしょうけど」
そう言ってベルベット様は、手の甲を口元の下あたりへ持っていく、いわゆる御令嬢笑いで高らかに御笑いになった。
他の姫様も追随して自然な笑顔で笑っています。
私もつられて一緒に笑ってしまいました。
まさにその通りなんでしょうから。
後で知ったのですが、件の公爵達の一件については、それそのものだったのです。
私ではないけれど、あろうことか神聖エリオンたるファルちゃんに手を出そうとして、ボコボコにされるどころか親子揃って処刑台に上がる破目になったのでした。
そんな、女の子なら誰でも夢に見るような着せ替えごっこを終えて、今は御姫様が宮殿内を歩く時に着る普段着みたいな感じの比較的ラフなドレスで、みんなで練り歩いています。
姫様方と一緒なので、あちこちで多分貴族らしい女の人や、宮殿内で働いている人達が恭しく挨拶してくれます。
うーん、これでいいのかなと思ってしまいます。
毎度そうなのですが、皆さん不思議そうに私を見て、どこの御嬢さんだったかしら? みたいな顔で見ます。
多分、王宮内で不審な者を見かけたら知らせる義務などがあるのでしょう。
私はまだ子供だし、姫様達と一緒なので何も言われたりはしませんが。
もう、なんとなくこういう事には慣れてしまいました。
今日は滅多にない、王宮での結婚式。
しかも長年王国に鬱屈していた案件が晴れやかになる、まさに晴れの日。
多くの貴族の皆さんの顔も少し明るいような。
まあ、いつも見ているわけじゃないので、そう感じるだけなんですが。
あちらこちらで楽しげにしている人を見ると、こっちまで楽しい気分になってきます
それと華やかな結婚式の蔭で、あちこちで忙しく働いている人達の姿も見せていただきました。
姫様方は、「王宮は一見華やかな所ばかりが目に付くけれど、こうやって影から支えてくれる方々がいらっしゃるから国が上手く回っているのよ」と仰います。
ここの姫様達って凄くレベルが高い。
ただの御飾りのような事は絶対にない。
髪一筋も驕ってなんかいないし、日頃からこういうところもしっかりと見て頭に入ってる。
これも稀人の血というものなのでしょうか。
御兄ちゃんがよく言っていました。
映像を見せてくれながら新幹線という物のお話をしてくれて、日本ではこういう華やかな舞台の裏で、それを支えるために地味な仕事だけれども一生懸命に働いている市井の人がいる事が重要視されると。
それが日本の高い技術を支えてくれているんだと。
王家というものが、必ずしもそんな立派な人達ばかりでない事は知っています。
隣の帝国なんて酷いものらしいし。
この国でも、さっきの公爵みたいな人もたくさんいるのでしょう。
それに私の住むアドロスの街だって、アル御兄ちゃんが大掃除するまでは……。




