145-4 番長の季節
「「「オリハラばんちょう~」」」
「おおー」
今年もケモミミ園の子供の日に、慰問のために彼女連れで異世界へやってきた魔法番長織原。
織原組の子供達も、新しい子が増えてその勢力を増やしている。
度々イベントにやってきては披露してくれる、その魔法の威力(もっぱら御遊びに関しての)にメロメロな子供達。
すでに信者といってもいいような多数の園児達の手により、一大園内勢力に成長したのであった。
もとより、それは園長先生が施す日頃の教育の賜物なのであったが。
副園長先生の日々のたゆまぬ努力により、ケモミミ園児は順調にその数を増やし、今では第四勢力(第四幼稚園)を生み出すに至るまでになった。
というわけで、今年もまた莫大な量の柏餅や粽が順調に消費される予定なのである。
もちろん、山本さんがたくさん作ってくれるのではあるが。
彼もスキルを使えば柏餅くらいなどいくらでも出せるのに、「子供にあげるなら手作りの方がよい」と言って、わざわざ手間暇をかけて手作りにしている。
いかにも子煩悩な彼らしい話だ。
確かにスキルで出したのでは安直過ぎて、子供達に愛情が伝わりにくいかもしれない。
という訳なので、魔法番長は今年も彼女と一緒にボランティアで柏餅作りに精を出していた。
そして飾られているあいつ、特製五月人形。
ずんっと聳えるその様は異様な雰囲気を放っているのだが、子供達には大人気だ。
この五月人形も、日本では雛人形ほど子供に人気ではないはずなのだが、ここでは大人気だった。
主に『大』な部分が人気なのだろうが。
そして奴も今年はこのように呼ばれている。
『陸の五月人形』と。
実を言うと、あの海の五月人形とほぼ基本的には同じ仕様なのだ。
単に向こうが二号機なだけで。
海とか陸とかついてはいるのだが、どっちも陸も歩ければ海も泳げるし、やろうと思えば空も飛べるのだ。
ただ、海の五月人形の方がいろいろと海での御遊びに特化した装置がついている。
そのために作られたカスタムモデルの人形なのだから。
強いて二体の相違点を上げるならば、同型機種における空軍陸上基地用の戦闘機と海軍の空母艦載機との違いくらいだろうか。
まだ見ぬライバルに刺激されたものか、その顔は凛々しく陽光と五月の風に戦いでいた。
どの道、彼は現在栄えある鯉のぼり争奪戦の景品として鎮座ましましているのだ。
こいつは甲子園優勝旗と同じで、次の大会には返納され、またどこかの勝利チームの拠点にて飾られる。
大人しく、その威風堂々と自らを展示する姿に園児達の熱い視線を一心に集めていた。
今年は例の『グリモワール』の投入も予想されているため、去年とはまた趣の違った魔法合戦が繰り広げられるのかもしれない。
「五月人形、一年間どうもありがとう。
僕、小学校に上がったんだよ」
そう誇らしげに、可愛らしい青を基調とした男子用のセーラー服とセーラーズボンの制服姿で、くるりっと回ってみせたのは、去年は鯉のぼり争奪戦優勝チームのリーダーだった子だ。
五月人形は、その厳つい骸骨面の中に柔らかな光で瞳を表して、そっと巨大な手を伸ばして優しくその子のネコミミ付きの頭を撫でた。
少年は嬉しそうに、そのごつく太い指を両手で握り、それから春の陽光が煌めく中で彼の名を呼んでくれた可愛らしいネコミミ少女の方へと駆けていった。
五月人形はそれを満足そうに見送ると、まだ見ぬ同型のライバルに向かって熱く闘志を燃やし、そして深く瞑想に耽るのであった。
ほぼシリアルナンバーとオプションパーツだけが異なるような同型の兄弟機。
まさにライバルと呼ぶのに相応しい相手だった。
後は己の魂、それを賭けた勝負を残すのみなのだ。
もっとも相手は、彼の存在すら知らないのであろうが。
向こうは各幼稚園持ち回りの優勝機などではなく、たった一人の主専用なのである。
相手は王族なのであるから仕方がないのであるが。
どちらの五月人形が幸せとか一概には言えない。
片や次期国王たるスーパーベビーと共に海の覇者として在る物、片や多くの園児に囲まれて過ごす子供の日のメインイベンター。
愛されずに呪いの雛人形と化す奴らもいるのであるから、少なくともあれよりはマシな人形生なのかもしれない。
そして今年もケモミミ園の鯉のぼり争奪戦が厳かに始まったのであった。
だが織原の元には今年も集まってくるケモチビの群れがいた。
「オリハラばんちょう、ヘルプー!」
第三幼稚園の子達織原組から救援要請が来たのだ。
「おやおや、さっそくピンチなのかよ」
「いってらっしゃい」
笑顔で遥に送り出されてきた織原。
だが彼が向かった先にいたのは。
「ふっふっふ、来たね。
織原番長」
「何をやってるんですか、エリーンさん」
「いや、この子達に助っ人として呼ばれちゃってさ」
その足元には、子守歌で轟沈させられた第三幼稚園オフェンスチームが死屍累々で転がっていた。
「やれやれ。
それで、俺と勝負するんですか?
ドートンボリーの女魔王エリーン閣下」
若干呆れた様子の織原に対して、満面の魔王笑みを浮かべたエリーン。
「ふふ。
一度は君の実力を測ってみたいと思っていたところよ。
かつては魔界の鎧に憑りつかれ、ここケモミミ園へ攻め込んできた事もある君の。
稀人さんの力は侮れないですからね。
いざ勝負よ、魔法番長織原」
「やれやれ、俺はあんたみたいな冒険者と違って実戦的な男じゃあないんですがねえ。
魔法もあんまり好きじゃあないんだから」
「ええい、問答無用。
織原組の子達が見ているわよ」
はっと振り向けば、キラキラとした瞳で彼を見詰めている多数の園児達の姿があった。
みんな大好きエリーンと我らが魔法番長の対決。
この大一番だけは絶対に見逃すわけにはいかないのだ。
魔王エリーンの子守唄に倒されて、グラウンドで気持ちよさそうに寝ている子供達は実以って御愁傷様という他はない。




