144-5 初めての挨拶
「おーい、プリティドッグやーい」
「ねえ、御腹が減ったからおやつの時間にしようよ」
そう言われてみると確かに御腹が減っている。
こんな小さな子があれだけ歩き回ったのだから無理もない。
他の子の提案にエルシーも勇んで同意した。
「しょうがないね、いったん帰ろうかー」
だが帰るもへったくれもない、今いるその場所こそはエルにとっては自分の部屋に過ぎないのだが、「おやつはみんなで」というルールなので。
おやつを食するために大広間にあるテーブルのところへ集まるだけだ。
「さあさ、坊ちゃん達。
今日のおやつは、みんなの大好きな揚げパンだそうですぞ」
「やったー」
そんな彼らだったが、ふいにエルシーのモチモチなほっぺたを突く何者かがいた。
くるっと振り向いたエルシー。
だが当然の事ながら誰もいない。
だって、その時にはもうエルシーから見えない場所へ回っているからである。
そんな彼に仲間が声をかける。
もちろん、その時には当然のように誰もいない訳なのであるが。
「エル、どうしたの。
早く行こうよ」
「ああ、うん」
若干首を傾げ気味に、後ろを振り向き振り向きしながら歩いていくエルシーであった。
そして、おやつ会場の大広間で揚げパンを食べていたら、何故か最後の一個がない。
「あれ? もう無いや。
知らないうちに、もう全部食べちゃったのかな」
「はっはっは。
エルシー様も育ち盛りでございますからな。
どれ、御代わりを頂いてくるとしましょうか」
微笑ましそうにその様子を見ると、騎士エグゼーは大皿を持って立ち上がった。
この国では護衛の騎士がそういう配膳のような仕事をするのか。
というか、肝心の護衛の仕事はいいのだろうか。
だが、この緩い国ではそれでまったく問題はないらしい。
他国から間諜として潜り込んでいるような奴も、この国のまったりムードを満喫しており、少なくとも王族の子供に要らんちょっかいをかけてきたりなどしない。
それをやるのは、まさに今この王宮内を跋扈している怪しい生き物の仕事なのだから。
やがて御昼寝に入った子供達。
そうやって体を成長させていくのだ。
それを微笑ましそうに見ていたアルマとエグゼー。
そして彼らが僅かに目を離した一瞬の隙に堂々と姿を現し、子供達の寝顔を余裕で楽しむジョニー。
やがて起き上がってきた子供達は、再びプリティドッグ捜索に行くのだった。
今度の探索場所は、またいつもの花畑だ。
「ここが第一発見場所なんだから、やっぱりここだね!」
「最初からここに来ればよかったのにー」
「いや、ここで遊ぶのならおやつの後がいいかなと」
「結局、遊びに来たんじゃないの」
だが、そのような幼馴染の幼女様からの突っ込みには笑って取り合わないエルシーと仲間の男の子達。
とはいうものの、それが別に嫌な訳ではないパルマ。
そして楽しく遊ぶため、今日は首飾りを作り始めた。
「サクーアは次の王様になるんでしょ。
あなたには、お花で冠を作ってあげるわ」
「ありがとー。
じゃあ、僕はパルマに大きな首飾りを作ってあげるよ。
エルシー、材料集めを手伝って」
「うん」
そして花集めに夢中になっていたエルシーの前にそいつは現れた。
毛だらけの茶色い二本の足が目の前にあって、思わず顔を上げたエルシーにそいつは言った。
「お花集め、手伝ってやろうか、エルシー。
いや、エル」
だが突然に話しかけられて、びっくりして持っていた花を取り落としてしまったエルシー。
「おーい、エル。
何やってるのさ。
って、あれえ!」
「うわあ、もしかして、その子は」
そして若干にやにやした表情のジョニーは言った。
「俺はプリティドッグのジョニーだ。
よろしくな、チビ達」
「喋った~」
「プリティドッグって喋るの⁉」
「か、可愛い!」
「うわあ、本当にプリティドッグがいたのね~」
何事かと駆けつけてきた護衛のエグゼーも驚きの声を上げた。
「うお、これぞまさしく言い伝えの中にあるプリティドッグの姿。
ここに本当におったのかい。
わしはただ、それをダシにして子供達を楽しませようとしていただけなのに」
「いやあ、騎士の爺さん。
あんたのホラの吹きっぷりも相変わらずだねえ。
いつも、ここへ来る度に楽しく拝聴させていただいているよ」
それを聞いたエグゼーは目を白黒させて驚いた。
「なんと、あのプリティドッグがわしの独演会を聞いておったとは。
いやはや、なんともはや」
だが子供達は、もうそいつに夢中だ。
もうキュっと抱き着いたり手(前足)を握ったり。
「ねえ、名前は?」
「ジョニーだ。さっき言っただろう」
「どこから来たの」
「内緒だ。俺は流離の犬なのさ」
「一人でなの?」
「正しくは一匹だね」
「御母さんに紹介してあげる」
「それは犬にとっては最大の難関っていう奴だな」
ここの子供達はそれほど言われないだろうが、普通の御家庭では犬を飼っていいかどうかは、偏に御母さんの管轄なのだから。
もっとも、プリティドッグは人に飼われるわけではないのであるが。
いつの間にかいなくなり、何処へと流離っていくものなのだから。




