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143-13 至福の宇宙

「おい、お前ら。

 いい加減にしておけ。

 この血統書が目に入らんかあ」


 そう、それは俺が『ファルとフィア』に書かせた、ミニョンのための『不思議空間血統書』なのだった。

 素材は俺が徹底吟味して作り上げた、聖なる祝福素材なのだ。

 本当は、こんなアレな事のために作った物じゃあないのだが。

 そしてフィア本人も呼んでおいたのだ。


「ファル、フィア。

 用意はいいか?」


「大丈夫でーす」

「いくよ、おいちゃん」


 ファルは何も問題ないが、もう一人の方が心配だな。

 もちろん先に、ベル君と織原はしょっぴいてきてあるのだ。


『発動フィア時空・血統の力』


 そして展開される、異世界犬王国の血の系譜。

 ミニョンは不思議な力に包まれていって、その魅力を超全開にした。

 正確には、その空間に触れた人間がその魅力を完全に体感できる、不思議なフィアの空間なのだった。


 俺はパワーに任せ、そいつを地球全土へと展開していった。

 全世界の犬好きが、その世界へ完全に取り込まれていったのだ。


 特に地球全土へ展開する必要は無いのだがな。

 だが俺は二つの世界に跨る、自他ともに認めるケモナーの中のケモナーなのだ。

 問答無用!


「わあ、可愛い~」


「おー、なんという事。

 ワンダフォー」


 全ての感覚が犬のそれと繋がり、あのプリティドッグの至福の世界を、全地球の犬好きな人が体験していた。

 時差の関係で寝ながら夢の中で体験している人達もいた。


 中には砂漠で行き倒れになりながらも、至福の宇宙に包まれて恍惚の輝きに包まれながら最期を迎えようとしていた人なんかもいたのだが、物好きなプリティドッグと担当のゴーレムが一体感のある感覚を元にそいつを発見して、この会場へ連れてこられていた。


 もう、お前らって本当に。

 そんな緊急な奴は、こんなところへ連れてこないで最寄りの病院へ連れていってやってくれよ。 

 とりあえず、そいつは回復魔法でリカバリーしてやって、そいつの目的地まで搬送させておいた。


 皆、幸せそうな、もうこれ以上どうしようもないのではないかというような、そのような至上の至福に包まれていた。

 後にある聖人はこう言ったという。


「犬というものが、人間にあれほどの祝福を与えてくれるものだなんて。

 彼らこそが神の御使い、あるいは天使であったのだ」と。

 何か物凄く勘違いしてらっしゃるようだった。


 まあファルに『フィーア・ルゥアー・オースリー』を繰り返し歌わせて、精霊達にバックダンサーを務めさせ、面白がったアエラグリスタにあっちの世界から魔素を供給させて、俺が精霊の鎧の祝福パワーを全開にしてやったのだが。


 神と神の子にも一枚噛ませてやったのは否定しない。

 これで、ありがたくないなんて言ったらバチが当たるぜ。


 そして巧遅は拙速に如かずと言わんばかりに、俺はルールや基準など完全に無視して、その場で強引に宣言してやった。


「ドッグコンクール優勝、ミニョン!」

「やったー!」


 こいつは、ただ思いっきり可愛くしていただけなのだがな。


 そして強引に、うやむやのうちにその宣言は有効とされ、係の人はゾンビのような挙動で立ち上がると、恍惚の表情でメダルをミニョンの首にかけてやった。


 そいつは、ただ紐が付いただけの奴ではなく、ベルトにも立派な装飾のついた奴だ。

 まるでスポーツの国際大会なんかで貰う奴みたいだ。

 くっそ、この俺だってあんな立派なメダルは一度も貰った事がないんだぜ。


 もうとても嬉しそうなミニョン。

 そして立ち上がり、その可愛い肉球を打ち鳴らしミニョンを称えるプリティドッグの群れ、いや大群衆(犬群衆)。


「おめでとう、ミニョン」

「やったわね、ミニョン」


「ありがとう、御父さん、御母さん。

 あたし、やったよ」


 いや、まあいいんだけどな。


 そしてミニョンは、ふと、人には見せられないような歓喜と恍惚に満ち溢れた表情でその辺に転がっているジョゼに気がついた。

 駆け寄ったミニョンが一生懸命に揺り動かすが、奴が現世に復帰するのは無理なようだった。


「起きて、ジョゼ。

 ねえってばあ。

 あたし、ドッグコンクール優勝だよー」


「うーん。

 ミニョン、可愛いわあ。

 ああ、幸せ」


「もう」


「はっはっは。

 しばらく幸せに浸らせておいてやれよ。

 この子は地元の子なんだから、放っておいても家に帰れるさ。

 だが」


 俺はそこで語気を強め、会場の床にて幸せそうに転がっていた奴らにこう言った。


「とっとと起きんかい、おばはん!

 それにそっちの犬公爵も」


「うーん、プリティドッグ万歳」

「うおおお、プリティドッグ~」


「まったく。

 エーデルワイス伯爵夫人。

 あなたが連れてきたのですか」


 彼女は頷き、犬王妃様の頭の傍にしゃがむと、幸せそうな彼女のほっぺをつんつんと突いた。


「ええ。

 混ぜてやらないと、どうせまた拗ねて、後で豪い事面倒ですから。

 そこのスカポンタンは私が連れて帰りますので、もう少し寝かせてあげておいてくださいな。

 私は、彼女の正式な護衛だったのですから大丈夫ですわ。

 そいつが世話を焼かせるのは毎度の事ですもの」


 彼女らの面倒は、沖田ちゃんがみるつもりのようだ。

 そこで寝こけている王妃自身を含め、相手がピストル強盗だろうが、ライフル乱射犯だろうが、爆弾テロリストだろうが、絶対に遅れを取るような面子じゃないから安心だな。


 やれやれ。

 他の物見高い連中も、皆満足そうな顔をしている。


「じゃあ南の公爵、俺達も帰りますよ。

 ほら起きて」


「むにゃあ、犬の王国万歳~」


 このー、弱サンダーでも食らわせてやろうか。

 まあ別にこの人は寝ていたっていいんだけどな。


 俺は長方形の団ボール箱(少し横に太目)を取り出して、てきぱきと犬公爵を梱包すると犬達に担がせた。

 こんな仕事は昔ながらの作業なので手慣れたものだ。


『空気穴』の効果は付与してあるので息はちゃんとできる。

 俺って、そういう物なんかも普通に穴を空けないで魔法でやる習慣がついているのだ。

 こういう事も魔法の鍛練になるのさ。


「よし、お前ら。

 ニューヨーク・プリティドッグ祭りの最後は『犬公爵神輿』で締めるぞ。

 それを担いでアルバの王宮まで頼む」


 俺はもう面倒なんで、犬達に任せる事にしたのだ。

 こういう遊び仕立てにしてやると働いてくれそうだったので。


 案の定、犬どもは大喜びだった。

 我先に担いで楽しんでいる。

 これなら楽しまれている奴も本望だろう。


 映像は梱包段階から撮らせてあるので、後でプレゼントしてやるとしよう。

 それを見て本人が喜ぶかどうかは知らんけどね。


「それ、わっっしょい」

「わっしょい」


 二本足で立った可愛らしい犬の大集団に担がれて、犬公爵(おみこし)は無事に異世界へ旅立った。

 先頭にいるのはもちろんジョニーの奴で、子供達がビデオに撮っている。

 旗を持って先導しているのは斎藤ちゃんだ。 


 公爵たる者を詰めておくのに段ボール箱もなんだったのだが、棺桶に入れておくのはさすがにマズイかなと思って。


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