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13-1 お姫様に拉致されてしまいました

 こんにちは、エリです。

 今日はアントニオさん達の結婚式なの。

 私はスイーツ担当の調理人として参加しています。


 本日の目玉は大きなウエディングケーキで、自分で作っておいてなんなのですが、とても綺麗な出来栄えなので見ていてうっとりします。

 自分の結婚式にも、こんな素敵なケーキをを出したいですね。


 はっ。

 もしかして自分の結婚式のケーキを自分で作るの?


 それは絶対に無理。

 王宮で結婚式をやるからかもしれないけど、花嫁であるマルガリータさんは目を白黒しながら引き回されていました。

 でも平民の花嫁さんだって結婚式の時は大変です。

 ケーキを作りながら当の花嫁をやるなんて絶対に無理です。

 あ、エリーンさんなら自分の結婚式でも余裕でプリンを食べていそうですが。


 絶対にちゃんとウエディングケーキを作れる弟子を育てよう。

 そう決意した初舞台なのでした。


 大変な舞台ではありましたが、今までも色々な事をやってきたので今更です。

 そんなに苦にはなりませんでした。

 それよりもケーキの出来や御客さんの反応の方が気になりました。

 御兄ちゃんはよくやったと凄く褒めてくれました。


 私はまだ十一歳ですが、案外と図太いところがあるのです。

 九歳からダンジョンへ潜り始めましたが、他人を押しのけてアピールしていかないと御仕事は取れません。

 頑張らないと生きてこれませんでした。

 病気の御母さんと小さな弟妹がいたのです。


 あの日、ダンジョンでスライムに襲われた時、痛くて苦しくて気が狂いそうだったけど、心の中で助けを求めていました。

 今私が死んでしまったら、誰が家族の面倒を見るの。

 借金取りがあの子達を連れていって、隣国の人買いに売ってしまうかも。

 御願い、誰か助けて。

 そう願わずにはいられませんでした。

 そして、私はアル御兄ちゃんと出会ったのです。


 アル御兄ちゃんは凄い人でした。

 普通は火で焼かないと剥がせないスライムを、魔法であっさりと剥がしてやっつけてくれたそうです。

 私もその魔法で気を失ってしまったそうですが、御蔭で痛みは感じなくなりました。


 気が付いた時には、魔法で体を治してくれた後でした。

 思わず涙が出てしまいそうになりましたが我慢しました。


 涙を流すのは身内が死んだ時だけ。

 ダンジョンに消え、遺体すら戻らなかった御父さんの御葬式の時にそう決めました。

 だから泣きませんでした。


 まだ頑張れる。

 まだ家族のためにお金を稼ぐ事が出来る。

 それが本当に嬉しかったのです。


 私の服がボロボロになっていたので、御兄ちゃんはTシャツという物を出して着せてくれました。

 御兄ちゃんの物なので、おっきかったですが、それは凄く上等な物でとても嬉しかったです。


 スライムには頭から食いつかれてしまったので、もし助かっても凄まじい傷跡が残り酷い事になっていた筈です。

 残りの一生、いつも頭から布を被るような生活になっていたのに違いありません。


 傷一つ無い顔に戻してもらえて凄く嬉しかったのです。

 なんといっても、御転婆の私だって女の子なんですから。


 御兄ちゃんはダンジョンの外まで一緒に行ってくれたので、とても安心でした。

 外へ出たら、私が初めてみるショートケーキというものを食べさせてくれました。

 それは甘くていい匂いがして。

 こんなに美味しいものを食べたのは生まれて初めてです。


 その美味しさに、私は思わずボーっとしてしまいました。

 さっきスライムに襲われた事なんか、すっかり忘れてしまったくらいです。

 もうまったく痛くありませんでしたしね。


 御兄ちゃんはケーキの御代わりも出してくれました。

 今度はさっきよりもじっくりといただきました。

 だけど、あのエリ-ンさんの視線が少し気になりました。

 もちろん、それはケーキというその一点に向けられたものでした。


 私が気にしていると、リーダーのエドウィンさんがエリーンさんの頭をポンっと叩き、ゆっくり食べなさいと言ってくれました。

 今ならエリ-ンさんの人となりはよくわかっているのですが、当時はとても気になりました。

 エリ-ンさんには、後でとても御世話になりました。

 そして、あんなにも人が執着を見せるケーキという物に対して物凄く興味が湧いたのです。


 御兄ちゃんは帰り際に色々な食べ物やお金をくれました。

 とても嬉しかったのです。

 今までにこんな事をしてくれた人はいませんでした。


 アル御兄ちゃんは若いのに物凄く成功した商人さんで、おまけに凄く優しい人だからとエドウィンさんが言っていました。


 家に帰ってから、御腹を空かせていた兄妹のために野菜と干し肉がたっぷりと入ったシチューに上等なパンを食べさせました。

 こんなに贅沢出来たのはいつ以来だろう。


 みんなゴメンね。

 私がもっと稼げたらよかったんだけど、この街には私のような子供が満足に稼げる場所なんてなかったの。

 今は御兄ちゃんの御蔭で変わってきたけれど。


 そして私達は初めてシュークリームというものを食べたのです。

 今は自分でほいほいと作れてしまいますが、あの時は凄く良い匂いのする魔法の食べ物のように感じました。


 不思議な透明の容器に入っていて、御兄ちゃんは開ける時に手を切らないように気を付けてと言いました。

 どうやら御兄ちゃんは切ったことがあるようです。


 私はケーキを食べてきたので、みんなで二個ずつ食べてと言ったんだけど、「駄目、御姉ちゃんが貰ってきてくれたんだから、御姉ちゃんも」と。


 みんな優しい、とてもいい子です。

 私がこの子達を守らないと。


 なんとか御母さんに二個食べてもらって、三個をポールとマリーが半分こにしていました。

 ポールは一個を半分にして、大きい方をマリーにやりました。

 この子はいつもそうです。


 もし私が今日死んでしまっていたとしたら、この子は死に物狂いで働く破目になっていたでしょう。

 そして文句一つ言わずに頑張る事でしょう。

 この小さな子が。


 私は思わずポールを抱き締めてしまいました。

 ポールは不思議そうな顔をして私を見上げていましたが。


 御母さんの病気にはたくさんお金がかかります。

 そのためにした借金の金利が馬鹿みたいに増えて、お金を借りてすぐに借金なんてしなかった方がマシなほどになってしまいました。


 でも、もう手遅れです。

 お金を払っていかないと弟妹が売られてしまいます。

 私は売られないのです。

 働かせて金を稼がせようとするから。

 本当に悪辣なやり方でした。


 ある日、御兄ちゃんに貰ったお金も底を尽き、御母さんの病気が凄く悪くなりました。


 あれから私は……ダンジョンに入ろうとすると足が震えて動かなくなります。

 それは一種の心の病気なのだと言われました。

 荷運びの元締めである親方からは、「もうお前は使えない」と言われてしまいました。


 私はまだ子供なので、娼館のようなところでも使ってくれないのです。

 この国の初代国王様がそういう事は厳しく定めたのです。


 お金を借りようとあちこち駆け摺り回りましたが、誰も相手にしてくれませんでした。

 この街では当たり前の事です。

 そんな時、偶然アル御兄ちゃんと再会したのです。

 御兄ちゃんは御母さんを診てくれると言いました。

 色々と食べ物もくれて魔法で治療してくれたので、御母さんも少し具合が良くなってきました。


 ですが、その日また借金取りが来て、こう言いました。


「なんだ顔色がいいじゃないか、いい物を食っているんじゃないのか?

 そんな金があるんなら金利を払え」


 せっかく病気が良くなってきていた御母さんの顔色がどんどん悪くなっていきました。

 私は泣きたくなってきましたが、絶対に泣きませんでした。

 私が泣いていたら、誰が御母さんを、幼い兄妹を守るの。


 そんな時、御兄ちゃんが戻ってきてくれて、状況を見るなり借金取りを引っ掴んで、凄い力でぐいぐいと引きずって出ていきました。

 そしてすぐに、これ以上はないような爽やかな笑顔で帰ってくると、あの男はしばらく来ないだろうといい、また御母さんの治療をしてくれました。


 御兄ちゃんはAランク、いやSランクの冒険者になろうとしていました。

 そのくらいになれば、王都の貴族と結託しているこの街の悪党をやっつけても問題なくなるからと。

 でも話を聞くと、Sランクの冒険者なんていう凄い人達は、世界でも今三人くらいしかいないそうです。


「御兄ちゃんは強いけど、本当にそんな凄い階級になれるの?」


 私は不安げにそう訊ねましたが、「さあな」と御兄ちゃんは笑っていました。

 そうしているのを見ると本当にSランクになってしまうような気がしました。

 今はそれすらも通り越して、世界でただ一人のSSランクまで行ってしまいましたが。


 御兄ちゃんは、エドウィンさん達を私達の護衛につけてくれ、自分はAランク試験の準備をしていました。

 そして、こう言ったのです。


「お前達も自力で借金を返して、ちゃんと生活できるようになっていかないといけない。

 俺が助けてやるのは簡単だけど、誰かに頼る癖がついてしまったら、その人間はもう一人で人生を歩いていく事が出来なくなってしまうだろう」


 私もその通りだと思ったので一生懸命に頑張りました。

 御兄ちゃんは食い物屋がいいと言って色々な食べ物を作ってくれました。


 ポールとマリーは大喜びでした。

 あ、もちろん私も。


 御母さんの具合もすっかりよくなって。

 私は不覚にも涙を流してしまいました。

 御母さんは私の頭を撫でながら言ってくれました。


「本当に嬉しい時は泣いてしまってもいいのよ。

 それはいい涙なんだから」


 私はあれから色々と頑張って、いろんな料理や御菓子を作っていきました。

 

 御兄ちゃんはおかしな人です。

 物凄い知識があって凄い材料や道具も持っているのに、手先は結構不器用なの。

 ボロボロにしてしまった御蕎麦の時は悪いけど笑ってしまいました。

 魔法や魔道具作りは、あんなに物凄いのに。


 結局、料理部門は私が担当する事になりました。

 商業ギルド関係も私が指導する事に。

 おかげで、たくさんお金がもらえて嬉しいです。

 御兄ちゃんは料理のための道具を作る係に専念する事に決めたようです。



 そして、今私はここにいます。

 この王宮に。

 数々の御姫様や貴族の御令嬢方に囲まれて。


 今は御仕事が終ったので王女様達に拉致されたのです。

 前に一緒に遊んでから凄く仲良くなったので。


 どうして、こうなった。

 私は元はアドロス、神様の晩餐という名を持ちながら神にさえ見捨てられた棄民の街の、只の貧民街の子に過ぎないのに。


 アル御兄ちゃんと出会ってから、私の運命は少し変わったものになっていったようです。


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