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143-9 親善大使のおしごと

「やったあ、新しい王国だーっ」


 当然のようにメリド王子を連れて御一緒しているレオン。

 ちゃんとアレーデを連れてきているだけ良心的だな。

 いや、より阿漕になったというべきだろうか。

 なんとなく、俺がレオンの親父アントニオをギルマス対策で連れていた日々を思い出した。


「ははは。レオン、ここはエルドア王国だぞ」


「あれえ、プリティドッグの王国じゃあなかったの」

「そんなもの、連中が勝手に住み着いているだけだからな」


「でも、そんな些細な事はドワーフの親方も気にしないよね」

「まあな」


 それから母親に手を繋がれた瑠衣は、きょろきょろして辺りを見渡した。


「あれえ、王宮はどこ?」

「この大自然全てが、偉大なるプリティドッグの王宮さ!」


「「えーっ。そんなの詐欺だあ」」

「ばぶーっ」


「やかましい。

 お前ら、勝手についてきておいて文句を言うんじゃないの。

 犬ならいっぱいいるからさ」


「どこに~」

「きっと、お前らの後ろだろ」


 慌てて、さっと体ごと振り向いた三人。

 そして、その背後にぴったりと大量のプリティドッグが貼り付いていた。

 全頭もれなく、にやにや笑いを浮かべながら。


 その可愛らしい様を見て、思わず笑ってしまう大人達。

 レミも楽しそうにその様子を見守っている。

 今日は公爵家御令嬢として親善大使を務めるのだから、「おチビさんたちとあそんでいるわけにはいかないわ」という面持ちなのだ。


「さあ、レミ行くよ」

「はーい」


 俺は、うちの可愛いネコミミ公爵令嬢の手を引いて歩き出した。

 向かう先は前方のテーブル席にいる『御爺ちゃん』が手(前足)を可愛く振っているところだ。


 こいつら普段は四つ足立ちしているけど、ちょっと気を抜いていると二本足で立っているんだよな。

 あの姿も凄く可愛いからいいんだけど。


「やあ、国王陛下」


「はじめまして~。

 アルバトロスおうこく、しんぜんたいしのレミです!」


「おうおうおう、これはまさしくケモミミハイムの姫に相違ない。

 その美しいオッドアイ。

 あのエレーミアにそっくりな目をしておるのう」


「おうさま、おかあさんをしっているの?」


「おう。

 あの子が生まれた時に御祝いもやったのだぞ。

 そういや、お前さんも夏には節目の五歳になるのだな。

 これは何か御祝いをしてやらんといかんのう」


「ほんとう~、わーい」


 いいな、夏にはこういう感じでガーデンパーティを催すか。


 そして可愛い犬の国王を抱き締めて振り回すレミ。

 おいおい、自分ちの犬との区別がついていないみたいだな。

 向こうも特に気にしちゃあいないみたいだが。


 まあ、この国王も若干貫禄はあるものの、思いっきり可愛いの範疇に入っているのだけれど。

 親善大使様も、先方の王族と十分に親睦を深められているようで何よりだ。


「皆様、御会食の御支度ができましたので、こちらへどうぞ」


 人化した状態でやってくる女性が案内を申し出てくれる。

 そういう話は聞いていなかったな。

 うっかりと遠足気分で弁当を用意してきてしまったのだが、そういや普通だったら御飯くらいは出してくれるよな。


 どんな飯が出るのだろう。

 き、気になるぜ。

 木の枝に差したカタツムリとか?

 芋虫だけは勘弁してほしいのだが。

 こいつらの趣向からすると、パリパリした歯ごたえのあるバッタ類なんかを好みそうだ。


 うちの親父は終戦を小学生の時に迎えた田舎育ちで、戦時中は昆虫食など日常茶飯事だったのだが、俺はちょっとな。

 俺と親父は食い物の好みこそ非常に似ているのだが、昆虫食という一点についてだけはどうにも同意できない。

 親父って蝗はどうだったんだろうなあ。


 俺はだんだんと顔色が悪くなってきた。

 こいつは考えていなかったな。

 親善大使の御本人様は、そのような物は軽々とクリアしちまいそうな勢いなのだが。

 い、一応、自前で弁当の用意は出来ていますのよ?


「こちらでございます」


 用意されたのは、なんと普通の飯だった。

 肉は入っていないのだが、パン・果物・スープ・野草サラダ・球根の焼いたもの、木の実といったあたりか。


「へえ、いかにもっていう感じの食事だね」


「まあ、肉が無いのは勘弁してほしい。

 日頃食べない物だから、扱いがのう」


「いやいや、どうぞ御構いなく」


 俺は芋虫さえ出なければいいのだ。


 レミも最近はシェルミナさんの躾が行き届いているので、大変御行儀よく食べられている。

 まあ昼食会というよりは野外御飯といった趣なので難易度はかなり低いのだが。


 レオンは貴族家の子だし、ワイルド系貴族家の跡取りなので、こういうスタイルも余裕で楽しめる。

 瑠衣も高位貴族家相当である家の子で、しかも両親が日本人なのでしっかりと躾けられているから御行儀はいい。


 うちの他のケモチビどもは駄目かもしれない。

 今も朝飯時は運動会状態なのだ。

 真理が回収してきたばかりの野生児も常時存在するしな。


 カミラ以外の小学生は大丈夫じゃないか?

 あとマリーなんかは、この程度は余裕でクリヤ出来るだろう。

 あの子は本当にたいしたもんだ。 

 あのリサさんとポロの娘なんだから、それも当然か。


「ん、この球根、実に美味いな。

 いい香りがしてシャキシャキしているし。

 みるみるうちに体中の血液が綺麗になっていくようだ。

 こいつはまるでスッポン並みの威力だな」


「ああ、そいつは凄まじく滋養があってな。

 その代わり滅多に手に入らん代物でな。

 今日は数を揃えるのに苦労した」


 だが、俺はそんな事とは知らずにパクパクと食べていた。

 おまけの人間も大勢連れてきちゃったしな。

 それは普通の王宮だったりしたら大顰蹙物なのだが、まあここではな。


 後で調べたら、この球根は冒険者ギルドでも高額報酬で採集の依頼が出るが、まずクエストをクリア出来ないという、プリティドッグ並みに珍しいアヤルドという食い物だったらしいのだが。

 クエストで失敗した場合でも何もペナルティがないという、いわば駄目元依頼なのだ。

 無事に採集出来たら儲けものという代物であるらしい。


 御土産として、そいつの大袋を貰えたのだが、帰ってからケモミミ園や離宮のみんなで遠慮なく食べてしまって、あっという間に無くなってしまったな。

 そんな凄い物だとは思っていなくて。

 ギルドで写真を見せたら、現物がないので物凄くがっかりされたな。

 結構、常時高額依頼が入っている希少品であるらしい。

 ジョニーなら余裕でクリヤ出来そうな依頼だけどね。


 まあ、うちは食い盛りが大勢いるからね~。

 一応、国王夫妻向けには別で用意してくれてあったからいいんだけど。


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