143-6 おもてなしの心?
「いやあ、失敬失敬」
人化して、そう言いながら御茶を勧めてくれる犬の王。
出るだろうと予想していたミルクは出てこなかったようだ。
この茶目っ気たっぷりの王様も、人間体形はどっしりとした風格がある感じだな。
まだまだ壮健といった按配だ。
体付きは筋肉質なのだが、極単にゴツ過ぎたりはせずに、ちょっと英雄戦士っぽい雰囲気がある。
何かのサーガ的な物語の主人公のような感じで、犬の時とのギャップが激し過ぎるな。
人化した見かけはまだ若そうに見えるが、絶対に妖怪のように長生きしているはずだ。
案外と日本の妖怪と呼ばれる存在の中には、その正体が次元を超えて地球へ行ったこいつらがいる可能性すら考えた。
あのポロが向こうへ行っていたくらいだから、それも十分に有り得る話なのかもしれない。
もし、昔から向こうで大量繁殖されていたのだったら、どうするかな。
一国の国家元首にさえなっているかもしれない。
いや、国会のようなものを占領して、そこで乱闘して国民を呆れさせているとか。
もし、あの日本の狸総理とかがそんなんだったら、もうどうするかね。
あまりに怖いので、その件についてはもう考えないようにしよう。
まあ向こうには魔素もないから、さすがにそれはないのかもしれないがな。
そういや、俺だってジョニー達にも異世界転移の腕輪を持たせておいたんじゃないか。
「いやいや、あんたらの事だ。
こんなもんだと思っていたよ。
このシュテルン公爵は例外臭がプンプンするしね」
「はっはっは。
そいつはプリティドッグにしては妙に堅苦しくていかん。
本当に困った奴よ」
「父上、御戯れを。
まったくもう」
いやあ、いかにもという感じの出だしだよな。
まあこれならレミちゃんが少々腕白しても大丈夫だよな。
あるいは、それを考慮してくれたとか?
いや、それは無いな。
こいつらに限って絶対に無い。
わかる。
俺には理屈でなくわかるぞ。
というか、それ以前の問題だ。
「一つ訊いてもよろしいかしら」
「おや、なんだね。
勇敢な『御嬢さん』」
それを聞いて、少し沈黙してから御茶を啜ったエンデ。
「という事は、やっぱりあの時に、貴方もあの場に居たんですね?」
「はっはっは」
彼はそのような感じで豪快に笑う。
それが答えらしい。
「何の話?」
「いや昔の事ですが、私とロッテが彼らプリティドッグと出会って、おちょくられまくっていた時に少しね」
「ああ、そう」
「その時は、そこに居るジョニーも一緒だったわ」
「おっと、居るのはバレていたのかい」
そう言って現れたジョニー。
子犬どもも一緒だ。
相変わらず物見高い連中だな。
いや、ここは子犬達から見れば、ただの親父の在所だよな。
こいつらがいても当然なのか。
「おお、ジョニーか。
やっと最近生まれた孫の顔を見せに来たのか。
もう一組生まれるまで連れてこないとは」
「ああ、悪いな。
そこの魔王のところに居ると、あれこれと飽きなくてね。
他にもいろいろあったのだし」
そういや、こいつと一緒にゲルスとやりあったりしたんだったな。
俺にとって本物の戦役みたいなものは人生において、あまりウエイトが高くない。
毎朝の朝飯時の戦争の方が激しく問題なので。
絶対にまた子供の数が増えているのに違いない。
もう新しい子供の顔が覚えきれないぜ。
大規模な小学校の校長先生が二学年分の子供の顔を逐一覚えているようなものだから。
最近のケモミミ学園は、うちの近所にある小さめな小学校の全校生徒の一・五倍ないし、二倍くらいの人数がいる。
そしてエンデは、ほくそ笑みながら、いけしゃあしゃあとジョニーに向かってこうのたまった。
「ふふ、何を言っているの。
あなたの事だから、どうせその辺にいるだろうと思ってカマをかけただけよ。
あなたの場合は大概それでいけちゃうしね」
「ちっ、そいつはまたしてやられたぜ」
ちょっと舌打ちして悔しそうなジョニーの様子が笑いを誘う。
プリティドッグには、こういう感じの攻撃が案外とクリティカルで通るんだよな。
うっかりと奴らのペースに嵌ると、楽しまれまくって碌でもない目に遭うのだが。
「御父さん!
あの女の人、出来るね」
「大物だー」
「御大尽~」
エンデは、あの辛口な子犬達の審査も無事通過し、見事御気に入りに登録されたようだった。
「どうでもいいけど、ここは一体何なんだい」
「ふふ、わからんのかね」
「さあね」
そう、ここは岩山に設えられたオープンテラスというのか、そのような場所だ。
背後には大草原が広がっていて、犬が駆け回るのに適している。
趣味のいい、雰囲気にあった木製のテーブルに、これまた少しクラシカルなデザインのテーブルクロスが敷かれている。
この世界でも日頃王宮のような場所で暮らしているような人間は、休暇などではこういう場所を選ぶと聞いた事がある。
俺なら山奥の渓流にあるような趣のある場所がいいな。
キャンプ場みたいなところじゃなくて、大富豪の別荘地の一部みたいな感じで。
前にネットで見た事があるが、英国の大富豪が自宅の敷地内に在る凄いオフロードコースで、自動車雑誌か何かの超高級オフロード車のインプレッション用の試乗をさせていた。
当の御本人様は気取った格好ではなく、ゴム長靴なんか履いちゃって、これまたいい笑顔なのだ。
ああいう在り方には非常に共感を覚えるな。
「なあ、この国には王宮って在るのかい」
「在ると思うのか?」
「ないと思うから訊いているのだが」
「なら良いではないか」
「しかも、ここって他所の国だよね」
「わっはっは、バレておったか。
それは人間の敷いた国境だ。
我らには関係のない事よ」
やれやれ。
そう、ここはなんと『エルドア王国』の中だった。
こいつら、よりにもよってあのドワーフ達を盾にしてやがるのか。
それは安泰なはずだわ。
それに、あいつらなら犬なんかいても特段気にもしないからな。
試し斬りの相手にするのには物足りないのだろうし。
そもそも斬られるまで大人しくしていない連中だしな。




