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12-5 逃亡の果てに

 奴らはまだ王都の中にいた。

 あの二人には、しっかりとマーカーが付いているのだ。

 だが子飼いの奴が厄介だな。


 強面精霊共が「俺にやらせろ、いや俺が」と、これがもう五月蝿い。

 ギャアギャア、うるせえぞ。

 五月の蝿どもは、すっこんでいやがれ。

 こっちゃ、それどころじゃねえんだ。


 奴らが潜んだのは、おそらく公爵家のセーフハウスか。

 へえ、王都内のスラムにあるのか。

 なかなか気が利いているじゃないか。


 もしかしたらヤバイ商売をやっていた時の名残なのかもな。

 そいつは今もまだやっているのかもしれない。

 だがその狼藉も今日限りだ。


 しかし、やたらと近づけないな。

 あいつの方も俺を感知出来ないといいんだが。


 近くまで転移して、少し離れたところからそっと様子を窺う。

 こんな事もあるかもと、暇があると目視で地道に転移ポイントをこつこつ増やしておいたのだ。


 なんていうか、子供相手の仕事なんてしていると、時々は開放された自分だけの時間が欲しくなる。

 そんな時にこうやって王都で地道な転移MAPの作成作業とかをしているのだ。

 若者にはあまり向かない仕事なのだが、俺は人一倍孤独耐性の強いおっさんだから大丈夫。


 そうしていると無性にまたケモミミ園が恋しくなり、帰ってむしゃぶりついてくる子供達の頭を撫でていると、また頑張ろうという気になれる。


 さて、そういう事なので、俺や子供達の安全を脅かすものは例え髪一筋といえども容認出来ない。

 俺は中に感知無効を付与した最新型の超小型カメラポッドを送り込む。


 奴には転移魔法があるわけじゃない。

 逃げる最中も結構目撃されている。

 王族のみが知る、王宮からの秘密の通路みたいな物を使って逃げたらしい。

 そういう事もあって、最早あの連中を生かしておく選択肢はアルバトロス王国にはない。


 子飼いの男の姿を確認できた。

 いかにも狡すっからそうな感じの男だ。

 あの苟もSランク冒険者であったリックよりは遥かに小物なのだが、俺やケモミミ園にとっての驚異度はこいつの方が上だ。


 俺は自分の魔力を込めたカメラからも、リンクを通して鑑定やアイテムボックスを使える。

 そいつを鑑定してみたが、転移はおろかフライすら持っていないようだ。


 万が一逃走されたケースを考え、念のためにカメラ越しで野郎へマーカーだけは付けておく。

 いざとなったら公爵親子を置いて一人だけ逃げそうな、小狡(こずる)そうな面をしている。


 野郎は色々な装備を持っていたので、こそこそとカメラ映像を通してアイテムボックスで剥ぎ取って回収していく。

 目立つ腰の剣だけは残しておいてやったので、男はその事態には全く気が付いていないようだ。


 ここで殺すのはこいつだけだ。

 俺は理由があって、そう決めた。


 作戦スタート!

 俺はカメラ映像をナビにして、そのスラム街へ見事に溶け込んでいる建物の中へ瞬時に転移する。

 まずその場で男の剣を収納で取り上げた。


 慌てて他の武器をまさぐる男。

 だが虚しくその手は空を切り、男の額に玉のような汗が浮かぶ。

 俺がそいつを睨み付けているので奴も逃げられない。


 もしこの状況から逃げられるとしたら、それは世界で後三人しかいない転移魔法能力者(俺と俺の仲間を除く)だけだ。


 公爵親子には、前回リックの時に活躍したカスミ網をくれてやっておいた。

 その間も俺は対峙している男から目を離さない。


「この稀人風情が、冒険者崩れめがあ!」


 バイトンの奴は見事にサンドイッチ状態になって、俺の事を口汚く罵っているが無視だ。

 生憎な事に、俺は『冒険者崩れ』なんていう怪しげな者ではなく、今も立派な現役の冒険者だよ。

 お前と同じ貴族なんかに扱われてたまるものか。

 一応は『名誉』侯爵なんだからな。


 こんな奴は黙らせるために一発くらい殴っておいたってバチは当たらないのだが、ここは大事な局面なので馬鹿は捨て置く。


 俺はそいつに逃げられないうちにピストルタイプの魔法銃で、そいつが未だ混乱中で些か対応が遅れているのをいい事にあっさりと射殺した。

 今までにないくらい淡泊に。

 高速で猛烈な螺旋を描いて二十ミリ口径のライフル・ストーンバレットが奴の心臓をぶち抜いた。


 もたもたなんかしない。

 どの道、こいつだけは絶対に逃がすわけにはいかないのだから。


 胸に魔法弾による大穴を開けて骸となり果て、大量の血潮を噴き出して無様に転がったそいつを見ていると、初めて槍で倒した盗賊の事を思い出して俺の顔も少々歪む。

 だが情けは無用だ。

 帝国とやりあうようになってから、こういう時につまらない事は考えないようにしている。


 もしこいつに逃げられたら、うちの子達の方が骸に変わる。

 万が一、俺のくだらない感傷のせいでそんな事にでもなったら、その時俺は自分で自分を許せないだろう。

 死体は収納で回収して、捕縛した公爵親子をひっつかみ転移魔法で王宮へ戻った。



 そして王の面前に奴らを突き出す。

 先程、切り札だった男が目の前であっさり殺されたのを見ているので、二人は脅えきっている。

 最早助かる道が無いのを知っているのだ。


 国王陛下にはわかっているのだ。

 殺しのライセンスの有無の確認を済ませた筈の俺が、何故この二人を生かしたまま連れて戻ってきたのか。


 陛下は少しだけ目を瞑っていたが、目を開けるとハッキリと告げた。


「王国を存亡の危機に落としいれ、尚且つその罪に対する判決を受け入れずに逃亡した。

 もうお前達を庇う事は、最早身内である儂にも叶わぬ。

 バイトン公爵家は取り潰し、お前達二名は明日の明朝に斬首刑とする。

 公爵家の他の者の処分については、鋭意取り調べの上決定する。

 ジョリー殿、これで宜しいか?」


「兄者!」

「叔父上!」


 二人は国王陛下に縋るような声を上げたが、陛下はもう頑ななまでに無表情を貫き通し、沈黙している。

 これが王というものなのだ。


「離せ、平兵士風情が!」

「おのれ、平民め。呪われてしまえ!」


 二人は口汚く喚きながら、今度は王国騎士団ではなく只の国軍兵士に二人がかりで無理やり引きずられていった。

 もはや彼らは王族ではなく、ただの賊扱いであったのだ。


 ジョリーはこの決定に満足そうに頷いていた。


「これで王国も安泰ですな。

 くれぐれも神聖エリオン様に対して粗相のないように」


 国王陛下もホッとした様子で、ちらとこっちを見て「任せたぞ」とでもいうように目線を送ってきた。

 へいへい、こちらはミルク(魔力)の御世話から、下の世話(浄化魔法)まで頑張っているんだから。


 だが当のエリオン様と来た日には威厳もへったくれもない。

 おやつ会場にて鼻の穴までクリームを詰めてふんすふんすしているし。

 トーヤはそんな妹の世話を熱心に焼いている。


 エリは王女様方に、どこかへ連れていかれたまんまだ。

 まあ、そんな事はいつもの事だけど。

 新作の調理器や菓子も持っているし、葵ちゃん謹製の絵細工やラッピング見本なども持っているから王族を退屈させる事もあるまい。


 そいつは今日も王宮でバラまいて、オルストン家の宣伝をする戦略だったのだ。

 だから丁度いい按配だ。

 どうせエリのいるところへ王妃様もやってくるのに違いあるまい。

 そういう事は、まず王宮のファッションリーダーから攻めないとな。



 俺は、今さっきピストル殺人を犯し、加えて少なくとも二人の人間を意図的に死刑台へと送った。

 公爵家の他の人間にも内容によっては極刑が待っているかもしれない。

 その割には、自分でも淡々としていると思うくらい穏やかな気持ちだ。

 きっと俺の大切な物を守れたから。


 たぶん、これからもやらねばならんシーンでもあるのだろう。

 俺の手によって人が血を流すシーンには未だに慣れない。

 だが無理に忌避しようとは思わない。


 人は大切な物を守るために古来から戦い続けてきた。

 その過程の中で凄まじい感覚も磨かれてきた。


 狩る者にも狩られる者にも等しくリスクがある。

 それのやりとりで、少しでも相手より有利になった者が生き残る。


 俺の場合は祖父からの遺伝で受け取った能力や、その恩恵で縁あって共にいてくれた『者』がベースだけど、それを磨き抜いたのは自分の努力だ。


 これからも俺は戦い続ける。

 俺の大事な物のために、大切な人を守るために。


 匪賊(ひぞく)溢れる満州国を商売で巡り、戦前の試される大地で一人開墾に邁進し、何度も死にかけながら生き延びた祖父。


 第二次大戦の米軍大空襲の中、防空壕の中から他の人達が出て行ってしまう中でセブンスセンスのような能力を発揮し、厳しい家長としての指導力と特殊な能力による力業で家族の命を救った祖父。


 その気骨も能力も俺の内にある。

 失ってはならない大切な物を守りながら、これからもここ異世界で生き抜いていこう。


 主人公の祖父は、私が生まれる前に亡くなった祖父がモデルです。


 親族から話に聞いただけの人ですが、うちにある仏壇の上に置かれた写真は正に気骨の人というイメージです。

 作中にあるような能力を本当に発揮して、うちの親も含む家族を守りました。


 本作の主人公は作者をモデルにしており、主人公設定は一文字も存在しません。

 主人公周りの登場人物は基本的に私の実在の関係者ばかりで、半ば私小説のような物です。


 普通のなろう小説に比べると、かなりノンフィクション設定が多めに混じっていますが、作品中の表現のために誇張した表現を使用している場合も多々あります。


 そういう事情でしたので、あまり変な事を書いてもなんなので、当初は設定をかなり抑えて普通のファンタジー作品っぽく書いていましたが、何度も書き直しましたので、今はやっと本来の形に書けているのかなと思います。


 もちろん、異世界周りの事は完全にフィクションでありますが、半世紀以上に渡る長い人生の間に私が実際に体験した不思議な事象などもそのまま書いてあります。


 ノンフィクション部分であっても、私の勝手な解釈や考察を加えてある部分も多くあります。


 また作者の年齢的に昔の考えや表現で書かれてある事も多いでしょうから、共感しかねるというか、若い方にはわかりづらい話も多めかもしれません。 


 今回はまるで第1部完みたいな終り方をしていますが、全くそんな事はないです。

 明日からも続きますよ。

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