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142-3 桜の枝を折らないのは花見の最低のルールです。守らないと恐ろしい事が起きます

 とりあえず、女子高生の集団には『屋台お買物券』を与えて買収し、この場は事無きを得た。


 そして彼女達もドワーフ団子に対して、大いに興味を持ったようだ。

 すでにドワーフの裸エプロンには耐性がついたらしく、周りを取り囲んで興味津々の様子だ。

 若い子は順応性が高いな。


「おじさん、それ何の団子?」


「何のと言われてもな。

 わしらドワーフが作るドワーフ団子だ。

 まあ、もう少しだけ待っておれ」


「というか、確かドワーフって『小さき者』という意味なんじゃないの。

 恒星の残骸である体積が縮んでしまった白色矮星もホワイトドワーフっていうよね。

 おじさん達ってさあ」


「まあそう細かい事を言うな。

 大体、小さき者などにパワフルな鍛冶が出来るものか」


「それは理屈に合っているよね!」


 彼女達も細かい事は言わずに、ノリで親方の団子を楽しみに待つ事にしたようだ。

 エリのアスベータ産フルーツの入った特製クレープを食べながら雑談しているが、うちの子のミミも楽しまれていた。


「ねえ、この子の耳、超かわいいよー」


「この子って外人さんなんだねえ。

 見て、この綺麗なオッドアイ。

 凄い美猫ちゃんだ~」


「よく見たら屋台のエリちゃんだって金髪と青い目の外人さんだよ。

 日本人っぽい名前だし、日本語が自然過ぎて、うっかりとスルーしていたけど」


「というかさあ。

 周り中なんかこう、みんなケモミミの子ばっかりだよ。

 どの子も皆外国人っぽいし。

 もしかしたら外国人コミュニティの子供会コスプレイベントか何かなのかな?」


 馬鹿な。

 ハロウイン・イベントじゃあるまいし。

 そんな珍しいような行事が、この限りなく田吾作ムードに溢れる西三河の田舎町なんぞに存在するものか。


 だがいい。

 細かい事を気にしない事は結構な事さ。


 そこへまた、さっきのあの連中がやってきた。

 チッ、案外としつこいな。

 今度は、若い連中を一緒に十人くらい連れてきている。


「おい、貴様ら。

 さっきはよくもやってくれたな。

 ちょっと御話に付き合ってもらおうか」


「嫌だな」


 俺は、あっさりと拒否した。

 俺はこれから公爵家当主として大勢の賓客を迎えねばならんのだから、そんな暇はないのだ。


 親方は横目で連中をジロっと見たが、既に団子を作り始めていたので無視した。

 命拾いしたな、お前ら。


「なんだとっ‼」


 さて面倒だから新選組の連中でも呼んで、などと思っていたら、粋がった若干チンピラ風味の男の一人が声を荒げて、傍に立っていた桜の枝をへし折った。


「あ、お前ら。

 なんという事をっ」


 止める間もなく、その桜の木はみるみるうちにズボっと抜けて立ち上がるや、『青筋を立てて』ドスを利かせた。


「われ~、一体何を晒しとるんやあ!」

「おい、みんな。そこの阿呆ども、いてまえ」


「「「おー!」」」


 次々と抜けた桜の木が根っこの足で歩き回り、ヤクザのような口調で喚きながらズンズンと馬鹿どもを追いかけていく。

 連中は腰を抜かし加減に、半分転がるようにして手足を面白いくらいにバタバタさせながら逃げ出していく。


「うわあ、化け物桜だあ」

「ど、どうなっているんだ」


 悲鳴を上げて逃げていくチンピラ達。

 それを横目で見て楽しそうにしている親方。


 レミとファルも、いつも見慣れたような騒動に対して楽し気にしていたが、団子製作中の親方の傍は絶対に離れない構えだ。

 だが女子高生達は目を丸くしてそれを見送った。


「な、何あれ」

「歩く桜、いや怪奇植物だー」

「ヤクザみたいな喋り方で喋ってたよ」


 やれやれ、まったく最低限のマナーも守れない奴らっていうのは困ったもんだ。

 あの連中も桜の御蔭で商売のネタである露店を仕切れてきたんだろうに。

 その恩を仇で返すから、ああいう事になるのだ(違う)。


「まあ、細かい事は気にするな。

 あれも一応は桜の木、という事にしてある。

 ちょっと趣には欠けるかもしれないが、なかなか便利な連中だぞ。

 いつもの場所に生えているのは普通の桜の木だから安心しろよ」


 それもドライアドの力と俺の魔力の御蔭で咲いているだけだけど。

 あのほぼ枯れ切った老桜も、嬉しそうに花弁を舞わせている。

 肉体というか、体組織が若返ったにも関わらず、桜の季節が過ぎたら自力では花を咲かせられないようだった。


 まあ普通はそうなんだけどなあ。

 でもこの西三河辺りって、例年になく暖かいような年だと十一月くらいでも桜が少し咲いてミツバチが飛んでいたりするんだよな。


「あんたら、一体何者?」


 地球の一般市民からみて、その疑問はもっともな物なのだが、そこへその答えの一つがやってきた。


「アル、今年も盛況のようね!

 あら? ちょっと人が少なくないかしら」


 言わずとしれた王妃様だ。

 相変わらずジャージ姿で子犬の群れを抱き締めているが。

 よく見れば、一緒に来ているのはマクファーソン、南の犬公爵だった。

 当然こっちも子犬塗れになっている。


「いらっしゃい。

 実はもう桜のシーズンは終わっちまっていてな。

 仕方がないから強引に咲かせたんだ。

 噂を聞きつけたら、そのうちに一般市民も集まってくるんじゃないのかな。

 あんたらが来るのが少し遅かったんで、そこにいた桜の木がいなくなっちまったが」


 俺は、そこにある木の抜けた穴を指差した。


 遠くで「まてや~、このアホンダラども」と叫ぶ桜の木に追われ、「お助けー」と叫んでいる奴らの悲鳴が風に乗って来た。

 物見高い子犬達は、さっそくそれを追いかけ回しにいっている。


「そう、やっぱり祭りにおいては人が多くないとね。

 今年の花見も盛況になりそうね」


「おう、もうすぐ特製のドワーフ団子も出来るぞい」


 そう返す、裸エプロンの正装で決めた国王様の笑顔が眩しい。

 そして、それを見上げるうちの可愛い娘の笑顔もまた眩しいのであった。 


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