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142-2 花街開設

 強引に臨時花祭り会場と銘打ち、山本さんに頼んで書いてもらった『花街サロン』と墨字で書かれた看板を掲げてみた。

 例によって、いつものなんちゃって工作だ。


 あらかじめ準備していたわけではないので、それはまあしょうがない。

 だが即興にしては中々の代物にはなっている。


 なんというか、本来は着物を着た女性が室内にて和菓子などでもてなしてくれるイベントのようなものだと思うのだが、まあここでは屋外なのだし桜の花が主役だな。


 ドライアド達に、その手の仕事をやらせるのは無理だしなあ。

 そういう仕事もエルフさんに頼んでやっていただいてもいいのだけれどね。


 現地日本にて本物の屋台業者の手配をやるのは絶対に間に合わないので、もう急遽呼んできたエルフさん達の屋台を強引に並べてみた。

 エリも応援に来てくれて、弟子と一緒に屋台を並べてくれている。


 彼女が最近使っている屋台は一見すると普通の移動式屋台にしか見えないのだが、収納も合わせて使い、なんでもやれるスーパー屋台と化していた。

 こいつは俺渾身の作なのだ。


「あれー、桜がまだ咲いてるー」

「本当だー、屋台も出てるし」


 学校帰りに公園をぶらぶらしているらしい女子高生が十人くらいの集団でやってきた。

 よく制服で御花見をやっているみたいだしな。


 駅に近い河川敷公園なのでよく来るらしいが、うちの街は何故か高校生が集団で御花見するのは女子高生ばかりだ。


 日頃は皆で一緒につるんでいても何故か男子は集団でやらないし、男女混合の花見もやらないし、カップルの子も少ない。

 まあ、そういうものなんだろうけど。

 そういや俺も、高校時代に野郎で集まって花見なんてやった事がねえわ。


 女の子は集団で遊んだり、御喋りしたりするのが大好きだしね。

 シーズン中は、圧倒的に親子連れや大人のカップルなんかが多いのだ。


「ねー、こんな河川敷のど真ん中に、桜の木なんて前からあったかしらね」


「さ、さあ。

 でも実際に目の前にあるよね」


「あったんじゃないかな。

 そうじゃなきゃあ、これは一体なんなのよ」


 桜の木を撫でながら、彼女達も皆一様に首を傾げている。

 無論それを聞いているドライアド達は、思いっきりニヤニヤしながら、すっとぼけて桜の木になりきっている。


 ふっふっふ。

 人は、かくも目の前にあるものだけしか信じないのだった。

 そうなるのは知っていたけどね。


「ねー、見てー。

 屋台のお姉さん達、綺麗。

 エルフさんがいっぱいだよ。

 えーと、コスプレ屋台?」


「うわあ、なんか凄く安いし。

 季節外れの大サービス?」


「美味しそう~。

 食べていこうよ」


 かくも女の子達は食い気が優先するものらしい。

 あまり、この事態の異常さが問題にされていないようだった。


 ドライアドどもときたら、もう辺り一面に好き放題桜を生やしているからな。

 もうそのままにしておいてある。

 真面な御花見企画を失敗して、俺も半分ヤケなのだ。


 屋台の値段は控えめにしてある。

 日本円表示だし、もう適当適当。

 はっきり言って半額以下だな。


「よし、わしらもドワーフ団子の店を出すか」

「いいわね、あなた」


 ドワーフ団子?

 それを聞いたレミとファルがピクっと反応する。


「おやかた、それおいしい?」


「おう、美味いぞ。

 レミ、すぐに食わせてやるから待っていろ」


「ファルもよろしく~」

「意外だな、おつまみ屋台じゃあないんだ」


 単に酒飲みというにはあまりにも浴びるように飲む、どちらかといえば人間よりも妖物である八岐大蛇に近いような方々が、いきなり団子屋台なのか。

 まあ花見に団子は付き物なのだが、それはきっと絶対に花見団子じゃないよな。


「ふふ、アルよ。

 ドワーフ団子を舐めたらいかんぞ」


 そう言って親方が取り出したものは、なんと。


「おいおい、それって魔法鍛冶炉じゃないか」


 この人達はドワーフ鍋でも作る気なのか?

 そういや海鮮団子も作っていたし。

 やはり、おつまみ系なのかな。


「うむ。

 最近、料理専用に作ってみた魔法鍛冶炉マリーブ1号だ。

 非売品だぞ」


 マリーブ。

 確か、それはドワーフの言葉で『料理』を意味するんだよな。


 非売品って、親方。

 そんな物を欲しがる奴がドワーフの他にいるのかね。

 扱い切れずに大概の料理が一瞬にして炭になるんじゃあないのか。


 そして親方達が支度をしていると厳つい感じの妙な男達がやってきた。

 なんだ?


「御兄さん達、これは一体どういう集まりなのかね。

 この辺りの屋台なら、うちを通してもらわないと」


 ああ、そっちの関係だったか。


「何、我がグランバースト公爵家の公式な花見だ。

 総理大臣の許可はもらってあるぞ。

 ここの与党関係の市長からの許可もな。


 それに、もうすぐ各国の国王夫妻がやってくるんだ。

 ついでに地獄の王国騎士団達もな。

 だが、その前に気を付けるがいい。

 そこにいる親方の機嫌だけは損ねない方がいいから。

 一応警告はしたぜ」


 そいつも最初はポカンとしていたが、急に険しい顔になってドスを利かせ始めた。


「おい、兄さん。

 たわけた事を言っていちゃあいかんぜ。

 見たところ、あんたらは素人さんのようだが……」


 ぷふっ、たわけた事だと。

『親切に』本当の事を教えてやったというのに。


 だが、残念な事にそいつは最後まで台詞を言い終えられなかった。

 身長二百五センチで巨大な横幅も誇る親方が、そいつの目の前に『怒気を持って』立ち塞がったからだ。


 しかも、例の裸エプロン姿で。

 それも凄まじくごつい魔物革のエプロンで、手にも同じ材質の手袋を嵌めた姿は圧巻だ。


「ほお。

 こいつはまた面白い事を言う小僧だな」


 そして、すっと目を細めた親方。

 あっちの世界の強面な盗賊ギルドの幹部連中も、これをやられると思わず後ずさるのだ。


 あの世界では、ロス大陸に名を馳せた大国でもドワーフと戦をしたがる国などはない。

 一度訊いてみた事があるのだが、うちの王国騎士団の連中だって非常に嫌な顔をするくらいだ。


 そいつも途端に挙動不審になり、あっという間に逃げ腰になった。

 だから気を付けろと言ってやったのに。


「ふ、ふざけるな。

 脅したって無駄だぞ。

 俺達は」


 その台詞をすべて言い終える事無く、奴はその場で一気に三百メートルほど投げられて、少し遠くの川の中央あたりで水飛沫を上げた。


 よかったな、ちゃんと水深があって。

 ここの川は二級河川で支流のくせに割と深さがある大きな河川なんだ。

 たまにカヌーで川下りををしている人がいるな。

 広くてゆったりとした一級河川である本流の方が浅くて水量が少なく見える。

 伏流水の方の割合が圧倒的に多いんだよな。


 他の一緒についてきていた奴らが、真っ青になってそいつを追いかけていった。


「社長~」

「野郎、覚えておけ!」


 お前らなあ。

 親方に覚えておかれたら、それは凄く大変な事だよ?

 親方は酒に関係ない事はすぐに忘れてくれるのがいいところだと思うのに。


「おやかた~」


 ドワーフ団子の幻想に憑りつかれたらしき、うちの娘がエプロンに縋って叫ぶ。


「わかった、わかった。

 待っておれ、すぐに作ってやるから。

 まったく、要らん邪魔が入ったわい」


 慣れっていうものは恐ろしいものだよな。

 皆、この迫力のあるドワーフ達の裸エプロンにも、いつの間にか耐性ができているようだ。


 だが、その辺の女子高生にはインパクトがあったようだった。

 あ、そこの子。

 通報するのは、ちょっと待ってくださいね!


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