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12-4  反逆者

 国王陛下からの呼び出しという事で俺は出向いたのだが、陛下はそんな話は知らないという。

 王様の御前であるにも関わらず、俺は思わず大きく舌打ちしてしまった。


「どうした?」


 それを聞き逃さなかった陛下が聞き咎めた。


「多分、バイトン親子がファルに手を出そうとしているのでしょう。

 例の御約束が生きる事になるようです」


「あの馬鹿、またとんでもない事を!

 この王国を滅ぼすつもりか!

 全世界の精霊を敵に回してしまうぞ。

 そんな事にでもなれば、我が国は……」


 国王陛下は少し思案し、手早く兵を動かした。

 国家の非常事態には必ず動く王国騎士団にも出動を命じた。


 俺はそれを確認してから、兵は拙速を尊ぶという事で、速攻でファルのところへ転移魔法で跳んだ。

 もう既に、部屋へ公爵の兵が入ってきていたところだった。

 トーヤが椅子を振り回してファルを守ろうとしている。


 アルスは頭がいいので、自分で手を出さずに子供達を庇いながら念話で連絡してきていた。

 俺の突然の出現に相手はギョッとしたようだが、すぐに立ち直り居丈高に叫んだ。


「バイトン公爵閣下がその子供を連れて来いとの仰せだ!」


 そして俺に剣を向けてくる。 

 ほお、これはまた強気な若造だな。

 この大年寄り様に向かって生意気な!

 

 だが次の瞬間に、その強面な顔が泣きっ面へ変わるぜ。

 年の功を甘く見るなよ!

 俺はスパっと転移して、すぐその場に戻ってきた。


「その剣は一体何のつもりか」


 国王陛下がそう仰った。

 そう、これが保険。

 いざという時になったら、御大の御出馬を御願いしておいたのだ。


 公爵の兵の顔が驚愕に歪む。

 今自分が剣を上げている相手が一体誰なのか。

 それを理解した瞬間に体が凍りついたようだ。


 こんなとんでもない形で転移魔法を使われるような事態を予想し、事を計算して喧嘩を売ってくるような奴はさすがにいまい。

 というか、もしそんな事を予想していたとしたら俺に向かって喧嘩なんか売れないわな。


 相手は剣を仕舞う事さえ出来ずにフリーズしている。

 その場に、アルスが王太子殿下を、真理が宰相を転移魔法で連れてきた。


 その自国の国王に向かってバイトン公爵の兵が剣を振り上げた格好となる光景は破壊力抜群で、場に国家運営に携わる方々の怒号が渦巻いた。

 傍から見たらクーデターにしか見えん構図だわな。

 おまけに奴らのターゲットがファルだと言う事を二人も知らされているのだ。


 我に返った公爵の兵達は言い訳も出来ずに、剣を仕舞う事さえも忘れて逃げ出そうとして……逃げられなかった。

 そこへ精霊達が具現化して立ちはだかったからだ。

 見るからに強面なスタイルである武闘派系精霊どもの、怒りの波動が公爵の兵達を横殴りにする。

 連中の足は止まり、再度凍りついた。


 奴等に対して最初は手を出すなと言っておいたのだ。

 連中も不満そうな様子で豪い事俺を睨んでいたのだが、俺の機嫌を損ねてはいけないと思っているらしく不承不承で承知した。


 だからここに来て凄まじい怒りが爆発した。

 味方としてその場に駆けつけていた国軍の連中までが震え上がるほどに。


 とりもち銃を使うまでもなく、凍りついていた連中を駆けつけた王国騎士団が捕らえた。

 さすがに、あの激烈な訓練を行っている連中だけはその空気の中でも余裕で活動している。

 乗客がほぼ全員死亡した大惨事となった凄惨な航空機事故の現場で、警察や消防が身動ぎ一つも出来ずに立ち尽くす中、自衛隊だけはなんとか活動出来ている的な光景だった。


 国のトップ達が見ている前でやらかしたのだ。

 今度こそ、あの豚公爵親子はただでは済むまい。


 陛下がトーヤに御言葉を賜った。


「トーヤといったか。

 偉いのう。

 よく精霊エリオン様を、いやお前の妹を守ったの」


「だっておれは、おにいちゃんだから」


 少し照れくさそうに笑うトーヤ。

 みんな、それをほっこりした表情で見ている。



「バイトン公爵の兵が国王陛下に剣を向けた。

 宰相と王太子殿下もそれを見ておられた」


「あの貴族殺しや神聖エリオン様も御一緒だったそうだ」


 瞬く間に王宮中に噂が広がった。

 一部内容は事実と違うのだが、まあ結果的にみれば同じという事で。

 俺が策を弄して、わざとそのように仕向けてやったのだから。

 少なくともファルに手を出そうとした事自体は間違いない罪状なので、そこはどの道仕方があるまい。


 見方によっては、一介の国王よりも神聖エリオンに手を出した方が罪が重い。

 たとえるならば、たかがアメリカ大統領風情と『神の子イエス・キリスト』と、どっちがよりVIPかっていう話だよな。


 そして裁きの場である謁見の間に、縛り上げられたバイトン公爵親子が引き立てられた。


「お前が何をしたかわかっているか」


 しんと静まり返ったその場にて、目を瞑り静かな声で陛下は御尋ねになった。

 だが、弁えない奴が濁声(だみごえ)で喚き散らす。


「兄者!

 わしが何をしたというのか!

 離せ。えーい、離せ。

 王国騎士団風情が公爵のわしに触れるな!」


 その王国騎士団の連中は自嘲気味に嗤った。

 これは前回の時にケリを付けておくべき問題だったのだ。

 それが、ここまで引っ張ってしまう事になった事を彼らは恥じていた。

 彼ら王国騎士団の手を離れた後の事だとはいえ、前オルストン伯爵には本当に申し訳ない事をしてしまったと。


 そして当代のオルストン伯爵にも。

 それもよりにもよって、こんな祝いの日に。

 彼らの公爵を締め上げる手には更に力が篭った。


(おーおー、貴族殺しの出る幕がないじゃないの。

 やるねえ、王国騎士団も)


 そして俺が呼んでおいたジョリーはその場に顕現し、前へ進み出て宣言する。


「人の子の王よ。

 私は精霊の森の大神官を務めておるものだ」


 その子供姿の精霊に目を瞠った国王陛下は大神官のジェシカに目線をやるが、彼女は軽く頷いて肯定した。


 次の瞬間に些かも逡巡する事もなく国王陛下が膝を落として敬意を表すと、ジョリーは厳しい表情で彼を詰問する。


「此度の件は容認ならざるものだ。

 我らが神聖無二な存在であるレインボーファルス、お前達人の子の言うところの神聖エリオンに対する無法はどのように詫びるつもりか。

 場合によっては、この国が全世界の精霊を敵に回す事になるが」


「はっ。

 その件につきましては、かの下手人の家であるバイトン公爵家については取り潰しの上で爵位も剥奪、親子共々修道院にて幽閉をいたします。

 御不満も御有りの事とは思いますが、どうぞ寛大な御処置を」


「兄上!

 ふざけているのか。

 このバイトン公爵家を潰すだと!

 兄者の即位がスムーズに行ったのも、全てわしが自分を支持する貴族を説得して諦めさせて、王位継承権を放棄し自ら公爵家入りを表明したからではないか。

 それを!」


 屈辱に体を震わせながら、声を絞り出すバイトン公爵。


「黙れ!

 お前の御蔭もへったくれもない。

 今までもお前の狼藉は色々と大目に見てきた。

 だが、それはお前を増長させる結果にしかならなかった。

 全ては肉親に甘すぎた儂の落ち度よ。

 以前にもっと厳しく反省を促しておけば、こんな無様な事にはならなかったものを!

 そう、あの先代オルストン伯爵家の騒動の時にな。

 だが、もう今更遅い!」


 親族に向かって振り絞るように叫ぶ国王の声に、あたりは再び静まり返った。


 だがその時、ガンっという音と共に公爵達を捕縛していた王国騎士が倒れた。

 そして辺りを煙幕が立ち込める。


 俺は急ぎ風魔法で煙を払ったが、公爵親子の姿はもうなかった。

 ちいっ、ぬかった。

 国王兄弟のやり取りに気を取られていて、つい周囲への警戒を怠ってしまった。


 だがレーダーは警戒モードにしておいたはずなのにな。

 アルスを見ると、なんと彼も首を振った。


 くそ、まさかと思うが、バイトン公爵の子飼いの奴があれを持っていやがったのか。

 俺と同じ感知無効のスキルを。

 その意味を悟って思わずゾッとする。


 あのリックがそいつを持っていなくて助かった。

 あいつのスキルは似て異なる代物だったが、これは危険過ぎる。

 いけねえ、こいつは見つけて必ず殺しておかないと、後でうちの子供達が危ない。


 あいつはおそらく帝国の手の者だ。

 理屈でなく、そう感じるのだ。


 公爵も帝国にでも亡命されると厄介だ。

 今の状態なら、その可能性は高い。

 しかも、まずい事に息子の方はまだこの国の継承権を持っている。

 こんな状態でも、正当な理由をもって継承権を剥奪するか、または本人が放棄しない限り継承権っていう奴は生きているらしい。


 生憎な事に今回は神聖エリオンを狙ったわけで、直接王国に反旗を翻した訳ではないのでキルミスの王位継承権は残ってしまうはずだ。

 絶対にあの親子を帝国へ渡してはならない。


「国王陛下」

「なんじゃ?」


 少し気落ちしたような力無い声で訊き返される。


「俺の殺しのライセンスはまだ生きていますか?

 たとえ相手が公爵であろうと」


 たとえ、あんたの弟だろうが俺は殺す。

 国王陛下は俺の揺ぎ無い意思を酌んでくれたのだろう。


「あ、ああ。

 生きておるよ。

 ああ、馬鹿な奴だ。

 逃げねばよいものを」


 もうどうしようもない方向へと決定してしまった親族の運命に、肩を落とし力なく答えてくれる国王陛下。


 アルスは二人のチビの護衛のために残った。

 狙われていた当人であるファルもいるからな。

 真理は他の子供達の様子を見にいってくれている。

 あっちにはチームエドがいるから特に問題は無いはずだが。


 さあ、狩りの時間の始まりだ。


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