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1-9 襲撃

 よし、爺さん達から仕入れた話の内容から当座の目標は決まった。

 どこかで、この世界の身分証を手に入れる。

 出来れば便利そうな冒険者資格がいいな。

 そして王都までなんとかして行って、そこで文化的な生活をする、と。


 スキルを磨こう。

 あと身体強化とかも。

 諸々レベルを上げてMPも増やす。

 命あっての物種という格言を地でいくような世界だからな。


 そして魅力的な商品も開発しよう。

 とりあえず金も稼がないと生きていけないしなあ。


 それから、あわよくば日本へ帰る方法を探すとするか。

 そいつに関してはまた、今の時点ではえらく望み薄なんだけど。


「あ、そういえば魔法は?」


「基本的に魔法は御貴族様のものだ。

 ただ貴族の三男以降や、あるいは没落したりして平民になる者もいるので、平民にもそこそこは魔法を使う人がいるが、まあそれも珍しい。


 中でも収納の能力持ちは引っ張りだこだな。

 王都の商人なら雇いたがるだろう。

 あと貴族なんかもな。

 だがまあ、そういう優秀な人間も、おかしな奴らに目を付けられると大変らしいがのう」


 それは良い事を聞いた。

 それも一つの案ではある。

 倉庫・運送会社みたいなものか。


 あるいは、あれだな。

 日本でよくある月極レンタル収納ボックスのような『人間収納コンテナ』みたいな物。

 だが油断も隙も無い異世界では、大いに用心は必要というわけか。


「いやあ、叔父様方。

 色々と有益な話を聞かせてもらってありがとう」


「なんの、なんの。

 わしらは、もうそういう事くらいしか楽しみが無くてな」


「あ、御姉さん、御勘定」

「銅貨五十枚よ」


 少しでっぷり太った、一昔前の御姉さんが支払額を教えてくれた。

 俺は御姉さんに虎の子の銀貨一枚を渡して頼んだ。


「これで頼む。

 残りの分で叔父様達にたっぷりと飲ませてあげて」


 それから俺は、爺さん達に礼を言って席を立つ。


「じゃあ良い夜を!

 色々といいお話をありがとう」


「おお! 若いのに気が利くな!」


 俺は物知り爺さん達に見送られて部屋に向かった。


 凄い情報ばかりだった。

 今の時点では俺にとって値千金の価値があるな。

 これで銀貨一枚は安かった!

 とりあえず明日は次の村を目指すかな。



 そしてその夜、村は盗賊団の襲撃を受けた。


 夜更けに激しく叩かれる耳触りな鐘の音で、唐突に目を覚ます。

 その鐘の示す狂乱も、夜闇の圧力に負けたかのように不意に途切れた。

 これは!


「盗賊だー!」


 遠くで叫び声が響く。


「なんだと!?」


 俺は慌てて飛び起きる。

 急いで服を整えながら窓から見たら、あちこちから火の手が上がっている。


 おい! こいつは洒落にならん。

 ヤバイ、これは凶悪なタイプの無法ガリンペイロ・クラスによる襲撃なのではないか。


 う、油断していた。

 苦労してやっと宿にありつけたんで安心し過ぎたか。


 明日の朝には王都方面へ旅立つ予定だったのだ。

 ベッドの中であれこれと自分のPCの機能を試していたら、疲れていたのでそのまま眠ってしまったようだ。


 レーダーもアラームもセットしていない状態だった。

 しまった、こいつは痛恨のミスだ。

 村にとっては「良い夜を」とはいかなかったようだ。

 しかも、なんとこの宿も既に襲撃を受けていた。

 村全体を見られるサイズにしたMAPを見ると赤点の数が凄い。


 カウントできるか?

 すると欄外に赤点が点滅し、そいつに意識を集中すると、その数が五十と表示される。


 数が多いな!

 村は夜中に奇襲を受けて後手を踏んだらしい。


 他に黄色が三百五十の、灰色が五十二とある。

 灰色は死者数か。

 こいつは豪い事だ。


 なんと、ここの宿の中にも盗賊が踏み込んできている。

 宿の中の黄点がどんどんと灰色に変わっていく。

 俺の顔色も白っぽく変わっていたかもしれない。


 ヤバイ!

 奴ら、もう二階に来た。

 動きが素早いな。


 寝ていたから、寝間着代わりのジャージのまんまだわ。

 俺は急いで【身体強化】を重ねがけし、ジャージにも同様の処置をした。

 その他にアドレナリンが仕事を開始して、力み加減に力が漲る。

 やっと目標が出来たばかりだっていうのに、こんなところで死ねるかよ。


 向こうの位置はわかる。

 レーダーは赤点表示を示している。

 拡大してよく見ると、そいつらはもうこの部屋の扉の前まで来ている。

 内側から閂をかけてある、この部屋の扉を蹴破ろうとしているのか!


 もう何一つ躊躇っている時間が全くなかった。

 次の瞬間、俺は覚悟を決めて大槍を取り出し、両手に持って扉越しに思いっきり投擲でぶち込む。

 強化された俺のパワーで放たれたそれは、安宿の薄紙のような木扉を貫通して大穴を穿つ。

 続けて何本も取り出しては夢中で投げつけた。


 自分の命がかかっているのだ。

 躊躇なんてしていられない。


 安宿の柔な扉の薄板が半分以上も衝撃で消し飛んで、その向こうの廊下が見えていた。

 最初の二本に加えて、立て続けにもう四本槍をぶち込んだ訳だが、赤点四つのうち結局二つしか消せなかった。


 レーダーを見つつ、槍を両手に持って部屋の外へ出る。

 他の奴は既に廊下にはいない。

 あるのは六本の槍で壁に磔になった二つの死体だけだ。


 またしても素早い!

 残りの奴らはもう宿の外へ出ている。

 実に手慣れたもんだ。

 反撃される事も常に想定済みなのか。


 真面に槍が突き刺さった死体、それから廊下中に流れ出した大量の血斑(ちまだら)から立ち上る噎せ返るような生臭い匂い。

 これは俺の長い人生における初めての殺人だった。

 うっぷ、スプラッターなのは勘弁してくれ。


 これは……さすがにちょっとくるものがあったのだが、いかんせん気にしている暇はないようだ。

 ボケっとしていたら殺される。

 あの山中のグリオンによる襲撃時と同じだ。


 俺がやらなかったら、手練れの人殺し四人と狭い室内で、圧倒的に俺が不利な白兵戦になっていただろう。


 襲撃を受けたので、脳もアドレナリンのせいで少し麻痺しているのかもしれない。

 既に魔物との命がけの戦闘経験があったので、若干慣れもあるのだろう。

 元から自分には脳内お花畑的な思考は余りない。


 戦国時代末は、その中心地帯の一つとして街中が溢れ返る血に染まり、米軍大空襲でも大量の人間が生きたまま焼かれまくった街で育ったせいもあるのだろうか。

 今でもあの街は、首塚や慰霊碑にだけは事欠いていない。

 寺社などは、規模を別にすれば京都と同じくらいの数が市内にあるのだという。


 襲ってくる敵に対して何もしなければ、自分や家族が骸に変わるだけだ。

 郷土の歴史が、体に遺伝子レベルで染み付いている。


 壁に張り付いている「それら」を回収する。

 後で必要になるかもしれない。

 いわゆる傭兵にとっての「耳」の代わりのようなものだ。

 こいつらには賞金がかかっている可能性がある。


 うわっ、外へ逃げ出した奴らめ、何の躊躇いも無く宿に火をかけやがった!

 奴らの仲間を斃した俺を殺すためだけに。

 もう宿には他に生きている人間はいない。

 連中の手で鏖にされたのだ。

 宿泊客も俺一人だけなのだし。


 ちいっ、さては台所から拝借しただろう油も撒きやがったな。

 なんていう手際の良さだ。

 あっという間に火の手が広がった。

 一階にはもう火が回っており、階段は既に火の手に包まれており煙が充満してきた。


 ヤバイ。

 煙を吸ったら、そのまま火に巻かれて死ぬ。


 襲撃が実に手馴れてやがる。

 情けも躊躇もない。

 まったくもって洒落にならん。


 くそ、あいつら全員ぶち殺してやる!

 こうなったら、殺るか殺られるかだ。

 性格が瞬間沸騰型なのが功を奏したものか、俺は躊躇する事なく反撃行動に出た。 

 さっき難を逃れた、俺への襲撃者の奴らは宿の外にいる。


 二人で固まっていやがるな、馬鹿どもが。

 そこへ手製の爆弾を投下してやる。

 窓から狙って、爆弾に火を点けてアイテムボックスから目視で連中の頭上に投下してやったんだが、あっというまに爆発した。


 こいつはかなりの威力だ。

 昼間なら白煙で凄い事になったろうな。

 連中は当然のように御陀仏になっていた。


 だが手で投げていたら、こっちが危ないくらいのレベルのタイミングだったので俺も少し慌てる。

 やはり、そのへんは素人が即興で作った粗悪品だけの事はある。


 これは気を付けて使わないと自分がズドンだ。

 当座はアイテムボックスを通してしか使えんな。

 思った通り、不安定過ぎるみたいだからその辺りも要改良だな。


 この手の火薬爆薬の歴史は今に至るまで、そんな事の繰り返しだ。

 不安定な火薬や爆薬が自然に爆発して、それらを置いてあった軍の倉庫が吹き飛ぶなんて日常茶飯事だからな。


 昔、東三河地方にあった日本軍の火薬倉庫でもやったらしい。

 その跡地も今では自衛隊の施設になっているが、見学に行くとそういう説明をしてくれる。

 俺の場合は保管中に爆発する心配がないだけまだマシだ。


 これで四人斃したか。

 爆弾でぐちゃぐちゃになった盗賊どもの死体をあまり見ないようにして回収する。

 こいつらは多分、倒した人間に報奨金が出るのではないだろうか。

 そんな事を考えられるほどには冷静だった。


 さらに身体強化を重ねてから覚悟を決めて、窓の戸板を強化されたパワーにより強引に力づくで引き剥がし、炎の迫る二階から強引に裸足のまま飛び降りる。


 だが、ストンっという感じにあっさりと地面に着地した。

 あまりにも衝撃がなくて拍子抜けしたので一瞬気が抜ける。

 途端に何か重い衝撃が腹に命中して、思わずぶふっと息を吐いた。

 そいつはなんと鋼鉄の(やじり)を持つ矢だった! 


 うお!

 腑ぬけている場合なんかじゃなかった。


 身体強化と、衣服を強化してあった事に感謝した。

 増大したHPの効果もあるのかもしれない。

 傷はまったく負っていない。

 普通だったら一発で死んでいるわ。


 慌ててレーダーで確認するとこいつらも四人ほどいた。

 いわゆる四マンセルっていう奴か?


 サバゲーかよ。

 現状は文字通り、俺達は本物の殺し合いをやっているサバイバル中なのだが。

 そして奴らの頭上は無用心なまでに開いてる。


 あばよ。

 俺は連中の無防備な頭から、およそ三百本にものぼる世界でも最高の刺突性能を誇る槍の雨を無慈悲に降らせてやった。


 これで2チーム八人を仕留めた事になる。

 見ると赤点が三七に減ってる。


 村の人も頑張っているようだ。

 もう精鋭の盗賊達が一割も村人の手によって減らされていた。


 俺が知らせておいたので、心の準備と最低限の戦支度は出来ていたようだ。

 だが真夜中の奇襲を受け、村も無傷では済まずに多数の死者を出していた。

 さすがに傭兵崩れ相手に奇襲を食らったから人的被害が半端ない。


 こうなったらもう、とことんやるしかない。

 人殺しが嫌だなんて言っていられる状態ではない。

 村には子供達もたくさんいるのだ。


 俺は着替えて靴を履き準備を整えると、盗賊どもをレーダーで見つけて、一番近くにいた奴らの後ろに近付いた。


 そして闇の中、手製の槍の煌きがほぼ無音で奴等の頭上に降り注いだ。

 現代日本の刀工の手により鋭い刺突力を所有する煌きが齎した、逃れられない運命に奴らは敢え無く殉じた。

 これで仕留めたのは十二人だ。


 それから立て続けに盗賊二組を襲撃する。

 今夜の天気は槍の雨、天気予報を聞かなくてもわかる。

 ここまでに俺が殺した盗賊の合計は二十人。


 残り二十三人か。

 村人が頑張って七人まで片付けたようだ。

 これで敵は半分以下に減らした。


 奴らは全員がバラバラの場所にいるので、まだ大幅に数を減らされた事に気付いていない。

 この世界に無線なんかないだろうし、村人相手に自分達がそこまで苦戦するとは思っていないだろうしな。


 俺は回り込めるところを優先で攻めて、順繰りに奴らを片付けていった。

 身体強化超重ねがけのおかげで、思いっきり力任せではあるが驚異的なスピードで活動できる。


 更に三組の盗賊を倒した。

 これで俺が倒した数は合計三十二人になった。


 盗賊の数が減ったので、村人も多人数による囲い込み戦術で更に激しく反撃を加えた。

 なんとか敵の二割までを片付けられたようだ。

 敵の残りは八名となり、奴らもいい加減自分達の分が悪い事に気が付いたようだった。

 そして遅すぎる撤退の準備が始まった。


 逃がすつもりはない。

 いや逃がしてはならない。

 そうなれば、こいつらはまた仲間を集めて、再び盗賊として活動するだろう。


 昼間見た村の人達の姿が浮かぶ。

 俺がちゃんとしてさえいれば、こんな無様な事にはなっていないものを。


 レーダーMAPで、点呼のためかどんどん集まっていく敵を追い、投下槍を五百本ほど用意した。

 そして戦場に、闇夜に煌めく物騒な雨が降り注いだ。

 一瞬にして、逃走のために集まっていた残りの敵は全滅した。


 俺は無我夢中で合計四十人の盗賊を始末した。

 賊に襲撃された正当防衛だからとはいえ、人生初の殺人が超大量殺人になってしまった。


 日本で活躍する普通の殺人鬼あたりとは文字通り桁が違うわ。

 日本の裁判所の基準では『通常は三名以上殺したら死刑相当』だったように思うが、そんな奴は滅多にいねえよ。


 これって戦時ではない平時に起きた民間人による殺人数では日本有数なんじゃね?

 この先の異世界生活が思いやられる。

 確か日本の殺人最高記録は百六十九名じゃなかったか?

 俺の生涯累計殺人数がそいつを越えてしまわない事を祈ろう。

 今のペースだと、この命の安い世界では非常に心許ない。


 でもやらないと、こっちがやられる。

 ここはそんな世界なのだ。

 少し鬱になりそうだ。


 それにしても初の対人戦闘が夜の戦闘でよかった。

 昼間だと、倒した死体を直視しまくって怯んでしまったかもしれない。

 そして流れる真っ赤な血の量は、俺から冷静さを奪っただろう。


 村の生き残りは三百二十二人で死者は実に八十名にも上った。

 それに怪我人も多いようだ。

 生き残りの半分は怪我人だろう。


 村長は無事だった。

 宿と商店は焼け落ちてしまったが。


 あれだけの凄まじい襲撃を受けて、まだ死者は少なかった方だろう。

 二割は人的被害が出てしまったが、少なくともまだ村は存続が可能だ。


 まだ警戒している村の自警団の前に行き、そこで盗賊の死体をどさっと出して言った。


「盗賊を四十人倒した。

 報奨金は出るかな?」


 それを見た村人達が、皆驚愕していたのだが俺は構わずに続ける。


「盗賊は全部で五十人いた。

 村で十人、俺が四十人倒した勘定になる。

 取り調べ用に捕獲したかったが、それをやろうとすると俺にはかなり困難な作業になるのでな。

 さすがにこいつらを逃がすと面倒なんで、そうするくらいならという事で全滅させた。


 俺が見かけた十人もこの中にいたようだ。

 見覚えのある奴らが混じっている。

 この盗賊団は全滅したと見ていいだろう」


「あんた、何者だ?

 凄い腕をしているな。

 それに収納持ちなのか」


 村人の一人が目を瞠って尋ねた。

 俺が収納持ちなのがバレてしまったが、まあこの際だから仕方がない。


「なに、一人で行商しているんだ。

 これくらいの立ち回りくらいは当然こなすよ。

 盗賊風情に遅れは取らんさ。

 もっとも今夜は寝ていたけどね。


 村で対応準備をしていたから、奴らが来ても村で対処できると思って寝ていたよ。

 だが考えが甘かった。

 まさか今日見かけて、その夜の内にここを襲撃に来るとは。

 奴らも何か切羽詰っていたのかな」


 もう猫撫で声の丁寧語は引っ込めた。

 思いっきり荒事を決めちまった後だしね。


「報奨金は出るだろう。

 街の領主様に報告もせにゃあならんしの」


 そう村長のダムルが教えてくれた。


「問題は今夜の宿が燃えちまったことか。

 とほほ」


 今日は外で寝るしかないかな。

 ここで車やバンガローのような現代文明の香りがする物は非常に出し辛い雰囲気だ。

 持って来たテントも、色合いがあまりにもカラフルで派手過ぎる。

 せめて自衛隊のテントみたいに色気の無いような奴にしておけばよかったな。


「それなら、わしの家へおいでなされ。

 他の、家を失った者達も一緒でよければ」


「ああ、構わないよ。

 屋根があるだけありがたいさ」


 うん、外よりは遥かにマシだな。


「今夜は見張りを立てて警戒する。

 あんたはゆっくり休んでくれ。

 助かったよ」


「御言葉に甘えるよ。

 正直言って疲れた。

 凄く疲れた」


 放り出した盗賊達の死体を再び収納する。

 心が麻痺していたし、死体を見てもあまり感じない。


 奴らが先に襲ってきたのだ。

 こいつばかりは仕方が無い。


 だが盗賊とはいえ、人間を大勢殺してしまった事実に変わりはない。

 これが戦場帰りの兵士みたいに後でジワっときたりしたら困るな。

 この世界には、その手のカウンセラーも精神科医もいなそうだし。


 もうくたくただ。

 精神的にきつかった。

 ただただ、泥のように眠りたい。


 俺は村長の家へと案内されるままについて行って、古びた布一枚の粗末な寝具の上に倒れ込むような感じで心を閉じた。



 翌朝、遅めの起床後に、薄めの麦粥のみの粗末な食事が出された。

 今は村もこれでも精一杯の食事だろう。

 拝んでから、ありがたくいただいた。


 そして、すぐに村の代官が来て、こう言われた。


「今日街へ報告に行くので、私と一緒に来てください」

「あー、私は身分証が無いので街には入れないです」


 そう言うと、かなり驚いた様子だったので、軽くいつもの言い訳をしておいた。


「えーと、私は街や村で育っていなかったので……」


「大丈夫です。

 私が仮身分証を書きますので、街の中にある冒険者ギルドで登録すればいいのです。

 行商人が冒険者を兼ねるのはよくある話なので。

 あなたは今回の功労者だ。

 それには報いねばなりません。

 死んでいった者達のためにも」


 へえ、本当?

 思わぬ展開に俺は大喜びした。

 俺は主に自分の身を守るために戦っただけなんだがな。

 後半はハイになってしまい、もう大虐殺になってしまったけれど。


 あれだけの事があった翌日に、案外と精神的には比較的平気な自分の有り様に、逆に驚いていた。

 何かHP・MPのような物に、そういう効果があるのだろうか。


 それに、あの治安が悪いので全国的に有名だった場所で生まれ育っちまった人間だしなあ。

 歴史的にも、また住人の性格的にも血の気の多い土地柄だし、俺のように比較的大人しい人間でさえ、五十年以上に渡って心の中で悪党どもを惨殺しまくってきたのだから。



 そうして村の代官達と一緒に街へ行くことになった。

 村にいた僅かな数の馬は盗賊どもにやられてしまっていたんで街まで歩きだ。


 馬なんて値打ち物だと思うんだけどな。

 そういや、あいつらは何故か馬に乗らず徒歩のようだった。


 馬を維持するのは大変だからだろうか。

 その辺の草に生えている草などで養えそうな気がするのだが。

 あるいは山中を移動して痕跡を消すためか。


 ああ、ここの馬は結構懐っこくて可愛い奴らだったのに可哀想だな。

 先に鼻面を撫でておいてよかった。

 合掌。


 まだ警戒モードなんで、自警団は村で警戒と片付けをするらしい。

 街へは代官とその部下である村人と俺の三人だけで行く。


「まあ盗賊団は片付けたし、貴方も一緒にいてくれるのですから。

 頼りにしていますよ」


「おまかせください!」


 俺は目一杯揉み手で媚びた。

 このあたりは元サラリーマンの性だね。


 ここの世界の人は歩くのが凄く速い。

 MAP機能で測ったら、普通に時速五キロくらいで歩いていた。

 本気なら日本人の小走り程度で、少々の距離ならば継続して歩けるだろう。

 身体強化が無かったら、俺にはついていけないペースだ。


 昨日からの分もあって、街につく頃には身体強化がLv3に上がっていた。


 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 完結済なので、感想もどうかと思いますが、身体を壊してリタイヤしたとはいえども、50代の社会人だったのですよね。もう何だか危機感とか緊張感とか、状況判断力とか、色々足りなさ過ぎですねー。…
[気になる点] 時速5キロって実際歩いて見るとめちゃくちゃゆっくりだから若返った体でついていけないなんて事は無いんじゃ...
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