(14)
那奈は俺を信じてくれなかったのだろうか。左手に握った白い蛇ボールをわなわなと握り締め、類香をにらみ付けている。類香は挑発的に、自分のスカートの中へ手を這わせ下着を抜き取った。
「ふふっ……いい根性してるわ、益々気に入った。ああ、そうだ! どう、私の中に入らない?」
「はあっ? なにふざけたこと言ってんのよ!」
「あら、悪い話じゃないでしょ。久しぶりに生身の体でHできるのよ、気持ちいいわよぉ?」
「くっ……う、うるさい! 陽ちゃんから離れろ!」
どんなに那奈が類香に腕を振り回しても、当たるはずもない。
「ふっ、馬鹿な子ね。嫌なら仕方ないわ、じゃあいただきまぁす、ってあんまり人前でこんなことしたくないんだけど」
「あ、私席外しましょうか」
「そうね、尚登が来たら止めて」
俺の両肩を押さえていた風見の手が離れ、ドアの外に出て行った。チャンス……か?
「あなたはどうするの? このままここで私と陽一君がするのを指くわえて見とくわけ?」
すると那奈は俺をキッと睨んだ。
「陽ちゃん! この人としたいの?」
ブンブン、と渾身の力で首を横に振る。違うんだ、これはシたくて勃ってるんじゃないんだ!
「……し、信じる、私、陽ちゃんを信じる! あんた陽ちゃんを何かで操ってるんでしょ!」
「うっんもう、うっるさいわねえ……消えなさいよ、もうお嬢ちゃんにはどうしようもできないんだから」
「こっ、こいつがどうなってもいいわけ!? こんなの、引きちぎってやる!」
那奈がボール状にしていた白蛇を解き頭と尻尾を持って両腕を左右に開いた。
「シロダラ! 今よ、そいつを封じて!」
白蛇は一瞬「ええっ!?」というような顔をしたが体から光を放ち、那奈の手から余った部分を伸ばし始めた。そして徐々に太くなっていく。
「くっ……!」
元々手が小さい那奈には、次第に胴体を掴んでおくことが難しくなってきたようだ。ついに尻尾の方を持っていた手を離し、それでも首根っこの方を両手に持ち替え真っ赤な顔をして精一杯締め上げているのがわかる。しかし、別蛇のように太く逞しくなったシロダラは余裕の表情だった。ボール状になっていた時は泣きそうな顔をしていたのに、今は自信に満ち溢れ細長い舌をちらつかせ、笑っているかのように見える。
長さも倍くらいになり、その尻尾が那奈の身体を這い上がる。
「やっ、やめっ、気持ち悪っ、この変態! うっ」
那奈の胴体にぐるりと1周巻きつくと、一気に締め上げた。
「ンぐわっ、ンンーーーーー! ぐぅっ、ンンーーーーー!!」
渾身の力で声を出したが言葉にすらならない、どうしよう、那奈が……!
「ふふっ、私の言うこと聞いとけば今頃陽一君に気持ちよくしてもらえたのにねえ、馬鹿な子」
くっそ! この悪魔……
「いやあっ、陽、ちゃ……たす、け」
「いいわぁ、シロダラ、素敵よ! 愛してる!」
「ンンーー!!」
シロダラの尻尾が徐々に巻きついていき、ついに那奈の首にかかる。
「もうあの子もこれで始末がつくわ。さあ陽一君、気持ちよくしてアゲル……」
類香が俺に跨ろうとしたその時――今だ!
全身の力で海老の様に暴れ、類香を跳ね飛ばし、ソファーから転げ落ちた類香の上に、重なるように落ちた。
「きゃあっ、……いったああっ!」
ソファーの横にあったテーブルで頭を思いっ切り打ったらしい。俺は渾身の力で気合を入れ、身体をぐるぐる巻きにしているこの布を漫画のようにベリッ、バリバリッと引き裂くイメージを……イメージ……イメージは飽くまでもイメージだった……くそっ、風見の奴なんて力だ!
倒れ込んでいる類香に対して横向きに座ることしかできないけれど、なんとか身体を押えつけることはできそうだ。テーブルの角を使って口の周りの布をずらすことができた。
「ちょっと、陽一君重……お、降りてっ」
「那奈からあの蛇を放せ!」
「よ、陽ちゃ、苦し……っ」
「あなたが協力してくれれば」
「俺のを挿れるとあんたはパワーアップするんだろ。どっちにしてもその後那奈を取り込むつもりなんだ! 成仏させるなんて嘘だろ!?」
「あら、よく知ってるじゃない、その通りよ。この私の役に立てさせてあげるんだから名誉な事じゃない! さあ、早く決めなさい、あなたが協力しないならあの子は」
「もし!……もし俺が、協力するって言ったら」
「やっ、だめっ、陽ちゃ……」
「あの子が苦しむことはしないわ。それどころかうちの宗派の五大威神頭として永遠に祀ってあげる、一般人の魂がそこまで祀られる事は珍しいんだから! 大勢の人が救われるのよ、名誉な事なの! 御神体に魂が刻まれるのよ、素晴らしいでしょう!?」
類香の顔はますます上気し、瞳は恍惚とし始めた。
「……騎上位は嫌です、正常位で」
「やだっ、陽ちゃ、」
「あら、聞き分けがいいじゃない。いいのね? じゃあ早く、急いで!」
「ちょっとこのままじゃ……」
「わ、わかったわ」
眼の色の変わった類香が、嬉々として俺に巻きつけてあった布を解く。そしてソファーに横になると俺の腕を引っ張った。
「さあ、早く……もう私の準備はできてるわ」
「陽……ちゃ……」
ゴクリ、喉が鳴る。確かに、「俺の俺」は待ち焦がれているかのうようにヒリヒリしていた。早く、早くしなければ。俺は類香の太腿の間に身体を滑り込ませた。
「い……や、ようちゃ……」




