第84話 賞金首になってみた④
視界がぐらつく。
脳が損傷しているせいだ。
膨大なダメージで行動不能に陥っており、四肢の感覚が失われていた。
奇襲とは言え、ここまで追い込まれるとは予想外である。
『佐藤が負けた……?』
『ついにか』
『虹田って誰!?』
『強すぎる……』
『ミスターレインボー最高!!!!』
虹田を名乗る男は、僕の首に何かを刺して注入した。
じんわりとした温かさと冷たさが交互に広がる。
虹田はうんざりとした顔でぼやく。
「ったく、面倒臭えなー。でも処置しないと死んじまうもんなー」
呟きを聞いているうちに肉体が少し楽になってきた。
どうやら傷が再生し始めているらしい。
ただ、痺れのような脱力感が強まっており、今すぐ動くのは難しそうだった。
『佐藤の傷が少し治った』
『すごい回復スピード』
『なにをしたの?』
「おっ、コメント来てるじゃん。この注射器はダンジョン産のお薬だよん。生命力が跳ね上がるけど、副作用で筋肉弛緩と意識障害が起きるんだ。回復アイテムとしては欠陥品だね。まっ、生け捕りには便利だけど」
流暢に説明する虹田は、僕に容赦なく注射を打っていく。
僕を死なせないための配慮であると同時に、拘束するための効果もあるようだ。
非合法の良くなさそうな成分を感じる。
普段から健康に気を使っているというのに。
体調不良になったら文句を言ってやろう。
「この注射をしたら、生首でも半日は生きられるってさ。すごいよなー」
『そんなヤクあるの?』
『聞いたことない』
『新種なのかな』
『とりあえずヤバいのは確か』
十数本の注射が終わった後、僕はブルーシートで乱雑に包まれた。
虹田は僕の足首を掴んで引きずっていく。
やはり身体は動かない。
意識障害はそれほどだが、筋肉弛緩はしっかりと働いている。
「あーあ、車が汚れちまう。クリーニングで落ちるかね」
そのまま車の後部座席に放り込まれた。
間もなくエンジンがかかって車が発進する。
ダンジョン内を猛スピードで走っているのが伝わってきた。
これからどこに行くのだろう。
ブルーシートの隙間から運転席が見えた。
虹田は気さくなノリでリスナーと談笑していた。
(配信が乗っ取られた……)
車の振動で酔いそうになりながら、僕は敗北感を味わう。
まさかこんな形で乱入されるなんて。
完璧に警戒していたとは言わないが、あまりの手際の良さにやられてしまった。
まったく困ったものである。




