第132話 新世界を生きてみた③
太陽は不定期に数が変わるようになった。
月は極彩色の光を放ちながら高速周回している。
宇宙はたまに白くなり、狂った重力が銀河同士をぶつけて大惨事を起こしていた。
地球の体積はハッキング前と比べて一万倍ほどになった。
現在も膨張しているらしいので、実際はさらに広いだろう。
マントルを掘り抜いて暮らす地底人や、成層圏に雲の大陸を作る天使、空間座標をずらした隙間の領域に生息する魔人なんかもいるため、もはや物理的な大きさは意味を為さない。
各世界の住人がひしめき合って共生するのが現在の世界だった。
場所を移動するだけで物理法則は当たり前のように変動する。
ダンジョンによる補正やらスキルなんて分かりやすい部類だろう。
解明不能な“現象”や“存在”を武器にする奴らも多く、殺し合いは混沌とする場合がほとんどである。
俺だってハッキングで最低限の自衛ができていなかったら、もっと苦労していたと思う。
「はは、面白い時代になったもんだ」
運転する俺は笑う。
ハッキングによる世界変革は、個人的には大成功だった。
惰性で過ごす退屈な毎日が終わり、いつでもどこでもカオスを満喫できる。
これほど素晴らしいことはないだろう。
今の俺に明確な目的はない。
強いて言うなら、無限に広がる世界を楽しみ尽くすことだろうか。
ハッキングのおかげで寿命の心配もない。
年月を気にせずマイペースに旅ができるのは何よりもありがたかった。
「おっと」
ダッシュボートに置いた私物が車の振動で揺れる。
銃火器やライター、エナジーバー、手書きのパンフレットに紛れて、傷だらけの狐面があった。
割れた部分はセロテープとホッチキスで留めてあり、お世辞にも品質が良いとは言えない。
しかし、この狐面こそ俺にとっては欠かせないのだ。
様々な因果の象徴と言えよう。
「配信者か……」
俺は狐面を手に取って呟く。
傭兵バート・スミスにとって、配信活動は縁のない仕事だった。
それにもかかわらずライバーとしてデビューに踏み切ったのは興味があったからだ。
自分が触れてこなかった世界への関心。
リアルタイムでカオスを届ける快感。
ただの傭兵として名を挙げるより遥かに大きな影響力。
そこには確かな憧れがあった。
華々しく注目を集める配信者になってみたかったのだ。
過激な企画に頼ったのは、傭兵の経験を活かすのに最適だと判断したからである。
結果的にこれらの判断は正解だったと言えよう。




