第116話 殺戮決戦を始めてみた⑤
地面に倒れた鈴木は、辺りを見回して困惑する。
「えっ……なんで」
鈴木は背中を丸めてせき込む。
そして何度も嘔吐した。
演技ではなく本当に苦しんでいる。
「アバターから、抜け出せないっ……どうして、存在、座標がッ……!」
鈴木はダンジョンマスターの代償として重い行動制限がかかっている。
その状態で僕が無理やり外に引っ張り出してきたのだ。
反動のダメージは当然ながら鈴木を襲うことになる。
逃げ出せないようにロックしてあるので、このままなら遠からず死に至るだろう。
著しく弱体化した鈴木の姿に満足していると、僕は倦怠感を覚えた。
膝をついてから吐血する。
目や鼻や耳からも血が溢れ出してきた。
内臓が急速に腐っていく感覚もある。
(これが裏切ったペナルティーか……)
鈴木が事前に仕込んでいたのだろう。
予想はしていたので驚きはない。
とてつもない苦痛だが、死に慣れた僕にとっては気になるものではなかった。
勝手に回復するくらいのダメージである。
それよりも頭の中が晴れていくのが心地よかった。
鈴木の能力が弱まり、支配が緩んできたものと思われる。
いい調子だ。
絶好のタイミングで仕掛けることができた。
倒れたままの鈴木は、恨めしそうに僕を睨んでいた。
彼はタヌキの仮面をずらして呼吸を整える。
「この際……裏切った理由はどうでも、いい。ハッキングしたモンスターで君を拉致し、脳を改造したのは僕だ。憎まれるのは当然だし、理解できる。それより、なぜ僕に干渉できた……? こういうことができないように対策していたはずなのに……」
「限りなく酷似した能力を持っているからですよ。すなわちハッキングです」
「ありえないッ! 君のスキルは完璧に把握している! 僕が自由に設定できる仕様なんだ! 断じてハッキングは持たせていない!」
「世の中に完璧なんて存在しません。あなたの言葉ですよね」
声を荒げる鈴木に対し、僕は冷笑を以て応じる。
実に痛快なやり取りだ。
一方、メイソウは沈黙して僕達のやり取りを注視している。
この仲間割れを彼らはどう考えているのか。
或いはこれすらもヤラセと思われているかもしれない。
とにかく、いきなり手出ししてくる気配はなく、放っておいても大丈夫そうだった。
僕は巨大スクリーンを一瞥する。
リスナーは新たな展開に狂喜乱舞していた。
鈴木の本格参戦に期待する声も多い。
彼らの好奇心を満たすのが配信者である僕の役目だ。
主役の座は返してもらおうじゃないか。




