3
城下町には、高くても二階建ての民家が、大きな通りに沿うようにして建っている。
ルーエンス城は戦になれば砦としても使うため、この町は小規模な城塞都市になっていた。町は城壁に囲まれ、城の周りには堀があり、更に壁で囲まれている。
造りは立派だが、古い町だ。それほど広くはないため、馬より徒歩のほうが気軽に動きやすいらしく、有紗はレグルスと通りを歩いている。
(ここの人達は、男の人も女の人も、私より背が高い人が多いのね)
男はがたいが良い者を見かけることもあるが、太っている者はほとんどいない。痩せているか、標準体型ばっかりだ。
「アリサ、そこが聖堂です」
レグルスが示す先には、民家の間にささやかに背を伸ばして立つ、小さな建物があった。どっしりと安定感はあるが、想像していたよりずっとちんまりしている。
「今日は週の真ん中なので、人が少ないですね」
「週? 曜日はあるの?」
「ええ、六神になぞらえて、光、火、水、風、地、月となっています。一週間が六日で、一ヶ月がだいたい三十日。月は十二ですよ」
少し呼び名が違うが、なじみのある時間の感覚に、有紗は親近感をいだいた。
「それでいくと、私の世界の一年とあんまり変わらないのね。今の季節は?」
「夏の始まりくらいですね。もう少しすると暑くなりますが、この辺りは王国北部なので、涼しいほうです」
「真ん中ってことは、今日は水の曜日?」
「そうです」
レグルスは頷き、有紗をほほえましそうに眺める。
「月の曜日は、実は昔は闇の神を示していました。光神に失礼ということで、今では夜に出る月のことをさしています。呼び名こそ変わっていますが、闇の神が死と眠りをつかさどるのにあわせて、休日と決まっているんですよ。使用人や騎士といった仕事は、必ず月の曜日に休むのは無理ですが、週に一度は必ず休むことになっています」
「へえ、週に一度は休みがあるって良いわね」
有紗とレグルスが門の前で話していると、横を通ろうとした女性の籠が、有紗にぶつかった。
「あっ、すみません」
籠から落ちたりんごを拾い上げ、女性に差し出す。
髪をウィンプルとヴェールでしっかり覆い隠した彼女は、鼻筋が通り、青い目がぱっちりした美人だ。二十代後半くらいだろうか。草木染のチュニックとロングスカート、革靴を履いている。聖堂の入口に書いてあるダイヤにバツをつけたみたいな紋様のついた木製のネックレスを付けているので、ここの関係者なんだろう。
「いえ……」
女性が右手でりんごを受け取ろうとするので、有紗は渡した。……つもりだった。女性がつかみそこねて、またりんごが地面へと落ちる。今度はレグルスが拾って、籠に入れた。
「ご親切にどうも。すみません、腕に怪我をして以来、右手が思う通りに動かなくて。……あら? レグルス様ではないですか、今日は、炊き出しはありませんよ?」
「いや、炊き出しの様子見に来たのではなく、この方を案内している途中だ。私の妃候補で、アリサだ。アリサ、こちらはこの聖堂で働いているモーナです」
「初めまして」
有紗があいさつすると、モーナは身をすくめた。
「私のような下働きに、そんなあいさつなんて……。そうだわ、この時間だと司祭様は中にいらっしゃると思うので、会っていかれては?」
モーナは聖堂のほうを見て、親切に提案しているが、有紗はモーナの腕にまとわりつく黒いもやに気を取られている。お腹がぐーっと鳴った。有紗はモーナの右手をガシッとつかむ。
「モーナさん、それ食べたい!」
「……は?」
訳が分からないという顔をしたモーナは、有紗がモーナの右腕を見ているのに気付き、顔を引きつらせる。思い切りドン引きされた。
聖堂の裏には薬草園があり、その隅に物置小屋くらいの家がある。こぢんまりした煉瓦造りの物寂しい住まいは、聖堂に住む神官のトップ、司祭の居所だ。
四人も入れば狭く感じる居所には、最低限の家具しかない。薬草茶をふるまってくれた初老の男――司祭バルジオは、愉快そうに笑っている。
「ほっほっほ、闇の神の神子様でしたか。モーナがおびえて駆けこんでくるので何事かと思いましたぞ」
レグルスが信頼を寄せているだけあって、闇の神の神子だと話しても、バルジオは少し驚いただけで、案外すんなり受け入れた。
「すみません。黒いもやを見るとお腹が空いて、ちょっと性格が変わる気はしていて」
食べたいという欲求が湧きおこり、有紗自身もセーブできていない。これもまた人間より獣に近いように感じられて、有紗は落ち込んだ。
「まあ、空腹だと変わりますよ。モーナなどイライラし始めて……」
「司祭様っ、私の話はよろしいですから」
モーナは抗議して、有紗を気にしてバルジオの後ろに隠れている。
「はいはい。ええと、それで、アリサ様が闇の神子だと隠したいが、食事を得る助けをして欲しい……と。構いませんがね、やりすぎると勝手にうわさが独り歩きして、結局、目立つと思いますよ。ちょっとずつつまみ食いなどはできないんですか?」
レグルスの説明を聞いて、特に騒ぎ立てることもなく、司祭はのんびりと言った。
(おおらかというか、どっしりというか。のんきとも思えるし、変わった人ね)
有紗が感じたことは、モーナも思ったようだ。
「司祭様、神子様なんてこんな田舎では一生に一度お会いできればいいかどうかでしょう? なんでそんなに落ち着いてるんですか」
「助けを求める者に手を差し伸べるのが私のつとめ。神子だろうと普通の人間だろうと、悪人だろうと変わりませんよ。神子様、ちょっと試してみてくれませんか。腰が痛くてねえ。年はとりたくないもんだ」
「いいんですか? いただきますっ」
有紗は司祭の傍に行き、黒いもやをつかんだ。
「えっと、つまみ食いかぁ。ちょっとちぎればいいのかな?」
見えている黒いもやのうち、一部だけをパンをちぎるみたいに取る。黒いもやが揺れて、ちぎれた部分を埋め、全体的に小さくなった。
「おお、痛みが軽くなりましたぞ」
「おいしい~」
面白がっている司祭に構わず、有紗はちぎった黒いもやを食べる。スパイスのきいた鳥肉みたいな味がした。そのときどきで味は変わるが、どういうわけか有紗の食べたいものの味がする。
「モーナも癒していただきなさい。右手を使えないのは不便だろう?」
「では、少しだけ。あの、全部は治さないでくださいっ。私にとってはこの傷は大事なものなので」
モーナはおずおずと右腕を差し出す。司祭と同じように、ちょっとだけつまんで食べると、今度はケーキみたいな味がした。
「すごい! 指が動きます。本当に神子様なんだ……」
どういう事情があるのか知らないが、モーナは手が動くのを感動した後、袖をめくって腕に傷あとがあるか確認し、ほっと息をつく。
「傷が大事な人もいるんですね。女性は好まないかと思っていました」
レグルスのつぶやきに、モーナは口を引き結んで頷いた。
「私は、以前はここから離れた村に住んでいました。ですが、盗賊団に襲われて、村は壊滅。私は助かりましたが、夫と子どもを亡くしたんです。あの時に家を焼かれてしまって、形見と呼べるものがこれくらいしかなくて」
モーナは目に浮かんだ涙を、指先でぬぐう。
「生きるかいもないので、家族のあの世での平穏を祈りながら、神様にお仕えしようと決めて、ここに……」
「それは、突っ込んだことを訊いて失礼した」
レグルスはバツが悪そうに謝り、司祭はモーナの肩をやんわりと叩く。
しんみりした空気が流れた。
有紗はモーナにつられて涙目になり、鼻をぐすんとすする。モーナはそれに気付いて、驚きを浮かべる。
「まさか泣いてらっしゃるの?」
「モーナさんも住んでいた世界から切り離されたんだなって思ったら、なんか……」
「でも、私は神子様と違って、他の所に知人がいますよ」
「それでも、つらいのは変わらないでしょ。そういう気持ちは、どっちが上とか下とかないじゃない。モーナさん、がんばったんだろうなーって」
するとモーナは、有紗の手を握った。
「どうか今のつながりを大事にされてください、神子様。このご時世、女が一人で生きていくのは大変なんです。私はたまたま働く場所があって、運が良かっただけですから」
「そうします。あの、神子様呼びだとすぐに正体がバレるから、アリサでお願いしますね」
「はい、アリサ様」
有紗はモーナと笑みをかわす。それから席に戻ろうとすると、レグルスが静かに見守ってくれているのに気付いた。
(そうだよね。レグルスと会えたのは、かなり幸運だった。お世話になるのもあるけど、私もレグルスを家族と思って接しよう)
そうすれば、いつか寂しさと怖さが薄れていくのではないだろうか。無くなるとは思えないけれど、忘れていられる日が来るかもしれない。
「そういえば司祭様、女性で真面目そうな方で、住み込みでの召使いの仕事を探している人はいませんか」
「何人か相談に来た者がいますが、どうかしましたか」
「実は城で素行の悪い者をいっせいに解雇したので、代わりを探しているんです。それから信頼できる者で、アリサの侍女も」
「城の使用人となればはくがつきますし、侍女は使用人では身分が高い。ふむ。声をかけてみますので、詳しくは城で聞くように言いますね」
司祭とレグルスのやりとりを不思議に思って見ていると、レグルスが教えてくれた。
「アリサ、田舎では聖堂でも職のあっせんをしているんですよ」
「他には?」
「城や屋敷での募集か、ギルドの口きき、酒場での情報収集ですね。この町は小さいので、職人はそんなにいませんので、ギルドはありません。自分で仕事を探すなら、一軒ずつ訪ねていくしかありません」
「でも、なんで酒場なの?」
「田舎だと、酒場が集会所になってるんですよ」
「なるほど」
それなら、よくゲームやファンタジー漫画などで酒場が出てくるのは納得だ。人が集まる場所なら、仕事の話も出回るだろう。
「あ、そういえば酒場に行くんだったね! 落ちぶれた騎士を探しに」
有紗の言葉に、司祭がおやと興味を示す。
「落ちぶれたといえば、門番のガイウス殿がそうですよね。元は王宮で近衛騎士をしていたのが、怪我で引退せざるをえなくなって、流れに流れてここまで来たとか」
「え? 貴族だとは聞いていませんが」
「実家に戻るのは情けないとかで、周りには黙っているみたいですよ。水の曜日なら非番ですから、酒場で酔いつぶれていますよ」
司祭の説明に、豆鉄砲をくらった鳩みたいに、レグルスは面食らっている。有紗が手を上げて問う。
「はいっ、なんで司祭のおじいちゃんはそんなに詳しいの?」
すると司祭が答える前に、モーナが苦笑して答えた。
「あの方は酔っぱらっては聖堂に来て、神様にさんざん愚痴を言ってから帰っていかれますの。聖堂の者は皆知っていますが、ほうっておくことにしているんです」
「こればかりはなぐさめようがありませんからなぁ。寝ていたら風邪を引かないように、毛布をかけてあげるのがせいいっぱいです」
司祭は気の毒そうに目をふせる。
「騎士さんには悪いけど、良さそうな人だね、レグルス。まさに条件ぴったり」
「あの門番なら、無愛想ですが、仕事ぶりは真面目です。それなら城で呼び出し……」
「今すぐ酒場に行こう!」
「え?」
レグルスの声にかぶせて立ち上がる有紗を、レグルスは驚きとともに見上げる。
「アリサ?」
「人生絶望の日があと一日続くのってかわいそうでしょ。今日がお休みなら、最高にぐっすり眠れるから、ちょうどいいじゃない」
有紗の理屈を聞いて、レグルスはフッと口端に笑みをのせる。
「そうですね。しかし、お腹は満たされたんですか?」
「ううん。司祭のおじいちゃん、その腰痛の黒いもや、全部食べていいですか?」
有紗の問いに、司祭はもちろんと頷いた。
「構いませんぞ。そうだ、病人が寝ている棟があるので、そこでつまみ食いなさっては? 急に全快にするとあやしまれますから、少しずつ」
「ありがとうございます、そうします」
「ははは、まさか病気や怪我をしていてお礼を言われる日が来るとは。長生きしてみるものですな」
さっきは歳をとりたくないと言っていた口で、司祭は面白そうにカラカラ笑った。
聖堂から歩いてすぐのところに、目当ての酒場はあった。
民家よりも造りが横に広く、扉の上には木製の看板が下がっている。ワインボトルとグラスの絵が彫り込んであるので分かりやすい。
「アリサ、絶対に僕から離れないように。よっぱらいはたちが悪いので、気を付けないといけませんから」
「分かったわ」
慎重に注意するレグルスに、有紗は素直に頷いた。
中に入ると、いくつかの丸テーブルには、ぽつぽつと人影があった。
まだ日が明るいうちに酒を飲んでいるのは、有紗にとっては驚きの光景だ。荒くれ者がそろっているという雰囲気もない和やかさなので、ここではこれが普通なんだろう。
周りを見回し、レグルスが奥の席を指差した。
くすんだ金髪の男が、入口を見るような席についていて、軽食をつまみにしてワインをゆっくり飲んでいる。
有紗がこくりと頷くのを確認してから、レグルスはそちらに歩いていく。
「やあ、ガイウス」
「ん? あっ、これはレグルス様っ。こんな所にいったいなんのご用で?」
ガイウスはレグルスに気付くや、慌てて椅子を立って敬礼した。
くすんだ金髪は後ろで一つに束ね、鋭い目は緑色をしている。無精ひげがあるので野暮ったい雰囲気だが、大柄で身長が高く、いかにも武芸者という感じがする。
「座っても?」
「どうぞ!」
ガイウスの返事に、レグルスは椅子を引いて有紗を座らせてから、その隣に座った。
「ありがとう、レグルス」
「どういたしまして」
有紗とレグルスを、ガイウスはなんとも言えない顔で見比べる。興味はあるようだが、すぐに目をそらした。
「あのぅ、もしかして……俺も解雇されるので?」
どこか諦めた空気を混ぜながら、ガイウスは率直に質問した。レグルスは首を振る。
「いや、お前は真面目に働いていただろう?」
「では、なんのご用で……?」
レグルスはそれを手で押しとどめ、先に飲み物を注文した。ワインとレモン水だ。店主はすぐに飲み物を運んできた。
「えっと、レグルス。私、飲めないんだけど……」
「しかし同席しているのに、あなたの前だけ何もないのは変でしょう? 気にしないでください」
「ありがとう」
ささいな気遣いがうれしい。有紗は会釈とともに礼を言った。
レグルスがグラスを差し出すと、ガイウスは恐る恐る乾杯した。少し飲んでから、レグルスは切り出す。
「ガイウス、君は元々近衛騎士をしていたそうだね」
「ぐっ、な、なんでそれをっ」
少しせきこんだガイウスは、まずいものを飲み込んだような顔をした。
「聖堂で聞いたんだ。ちょうど君みたいな元騎士を探していてね」
「はぁ、どういう意味です?」
「怪我や病気がもとで引退して、落ちぶれている騎士だ」
「……ひどい言い草だ。その通りですがね、俺みたいな奴だって傷つくんですよ?」
少し冗談交じりに返したが、ガイウスの目には、手負いの狼みたいにすさんだ光が浮かんだ。
「どうして怪我を? 戦闘で?」
「……いえ、御前での槍試合です。俺はまだ若くて調子に乗ってた。まさか落馬して、足の靭帯を痛めるとは思いもしなかったんですよ。大人しくしてりゃあ、それなりに治るはずだったのに、無茶をして回復が遅れちまって……。それでこの通り、戦にも出られません。門番みたいな立ち仕事なら耐えられるんですがね」
ガイウスは深い溜息をついた。
「槍試合ってあれ? 槍を持ったまま馬に乗って……」
「ええ、そうです、アリサ。互いに槍ごとぶつかりあって、弾き飛ばしたほうが勝ちですね。危険な試合なので死者が出ることもありますが、人気があります」
有紗はフードの下で、思い切り顔をしかめた。なんでそんな危ない試合をしたがるのか、さっぱり分からない。
「実家には帰らないんですか?」
レグルスが問うと、ガイウスはやけになったみたいに頬杖を突いて、つまらなさそうに返す。
「どうせ聖堂の連中に聞いたんでしょう? 情けなくて帰れませんでした」
「盗賊になったことは?」
「ありませんよっ」
今度こそ腹が立ったのか、ガイウスは怒鳴るように返した。
「俺はプライドばっかり高いんです。正義に反することはできませんっ。そのせいで怪我の完治も待たずに動いちまって、仕事も続かなくて、あちこちの領地を転々としてきました。最後に流れ着いたのがここですよ。大きな事件もないので、おかげさまで足の調子も良いです」
皮肉をたっぷり込めて言い放ち、ワインをあおる。
「で、そんなしょうもない奴を探して、どうするんです?」
レグルスは静かに微笑んだ。ガイウスの態度などまったく気にしていない。
「その前に。君は私をどう思っているのか、正直に聞かせてくれ」
「……クビにしません?」
「しない。光神に誓う」
「それなら」
ガイウスは勇気が出たのか、口火を切る。
「最初は団長の――ロズワルドの野郎の言う通り、ボンクラかと思いました。だってあんなボンクラ騎士を野放しにしてるんですよ? 統率もしないんじゃあ、主人としての程度が知れるってもんです」
有紗はムッと口を引き結ぶ。しかしレグルスが手を出して、有紗を止めるので何も言わない。
「それで?」
レグルスが続きを促すと、ガイウスはにやりと笑う。
「それが一夜で見る目が変わりました。まさかいっせいに大掃除とはね! やはり女がいると変わるんですかねえ。殿下もいっぱしに男なんですね。俺の父を見ているみたいで、親近感が湧きましたよ。母にベタ惚れで、良いところを見せようとそりゃあはりきって……」
ガイウスは自分の口を叩いた。
「おっと、すみません、軽口が出ちまった。こりゃあ眠れる獅子を起こしたってやつじゃないかと、これからどうなるか楽しみですよ」
「そうか。それなら、私が王位を得るために、貴公の力を貸してくれないか」
「……え?」
レグルスの問いに、ガイウスはきょとりと瞬きをする。
「いや、だから、俺は足を怪我していて……」
「それが治せるとしたら? 私に忠誠を誓えるか?」
「そ、そりゃあ……」
ガイウスは迷ったように視線をさまよわせたものの、そこで急に真顔になった。背筋を正して答える。
「しかし悪魔の手を借りるってんじゃあ、俺は頷けません。罪のない者を傷つけるような真似はしたくありません。それでは信仰に反しますのでね」
有紗は感心した。プライドが高いと自負するだけあって、こんなところまで誇り高い人のようだ。ガイウスの答えは及第点だったようだ。レグルスの口端が笑みをえがく。
「アリサ、どうですか」
「良いと思う。あの怒鳴っていた人と違って、ずっと誠実で良い人だわ」
有紗は期待に胸をふくらませる。こんな人がレグルスを守る騎士になったら最高だ。
「では、続きは城で話しましょう。非番のところすまないが、話に付き合ってくれ」
「はっ、畏まりました」
すかさず立ち上がって、ガイウスは敬礼をする。そして懐から財布を取り出すのを、レグルスは止めた。
「いや、休みに邪魔をしたわびに、ここは私が出そう」
「ありがとうございます。あの……最後まで飲んでいっても?」
「そうだな。せっかく出してくれた主人と酒にも失礼だ」
結局、二人ともワインを一杯飲み干した。有紗がレモン水を飲まないのを見て、ガイウスはレグルスに許可をとってから、そちらもあっという間に飲み干してしまった。




