おかしな服装は
社交界デビューから半年が過ぎた。
関係のある家のパーティーには顔を出し終え、後はバルクリットの領地から遠く、屋敷を訪ねるのが無理な家だけ。
王都から離れた領地を持つ家は時期が来れば、王都に持っている屋敷の方でパーティーを開く。
そうすれば私も出席できるので、それを待つばかりだ。
そんな私の生活は相変わらずダンス中心。
淑女を目指して、マナーや教養もがんばっている。
そして更に、兄が通っている学園へ進むための勉強をそろそろ始めなければならない。
『王立ときめき魔法学園』
私にすべての記憶を与えてくれた懐かしい言葉。
その学園には十五で入学する事になっている。
そして、そこが乙女ゲームの舞台。
主役であるヒロインが入学し、私は脇役へ。
でも。
私は、脇役にはならない。
第二王子とは婚約しないのだ。
うん。だからきっと大丈夫。
今はまだデビューしてから半年だし、とにかくダンスがしたい。
楽しく、いろんな人とダンスをする。
それだけで、私の世界は輝くのだから。
そうして、楽しくパーティーに出席していたのだが……。
最近。プレーリーがなんだか変だ。
時折見かけるパーティーで、なんだかプレーリーがおかしい気がする。
プレーリーはぼんやり顔だが、伯爵家の次男だ。
タキシードは体形に合ったものをばっちりと着こなしているし、身なりには清潔感がある。
なのに、最近はポケットチーフがなかったり、気づけば既に会場にいないことが多い。
私がいる時はさりげなく声をかけてくれて、会場を去っていくのに。
もちろん、プレーリーにはプレーリーの付き合いがある。
伯爵家の次男として、やらなければならない事も多い。
だから色々あるのだろう、とあまり深く考えないようにしていたが、今日のプレーリーにはびっくりした。
「ジャケット……着ていない……」
ダンスが終わって。
休憩しようとドリンクをもらい、口をつけた所で、プレーリーが目に入った。
人と人の隙間。
偶然見つけたプレーリーはなぜかジャケットを脱いでいる。
おかしい。
今日のプレーリーは黒のタキシードでばっちり決めていたはず。
パーティーが始まってすぐの時は確かにちゃんと着ていた。
黒のジャケットは裏地に刺繍がある、意匠を凝らしたもの。
それはバルクリッドが力を入れている、隣国の交易品で……。
『ライラック様。今日も素敵ですね』
『ありがとうございます。プレ……アーノルド様も素敵です。……タキシードに我が領の交易品を使ってくれたのですね』
『はい。先日のライラック様のドレスを母がとても気に入りまして。この布地もとても人気で、侯爵様にお力添えいただき、なんとか手に入れたと喜んでおりました』
『それは良かったです。とてもよく似合っていますね』
パーティーが始まってすぐ。プレーリと少しだけ会話をした事を思い出す。
ぼんやりした顔を柔らかくして、プレーリーは微笑んでいた。
先日の私のドレスとは、黒い髪の男の子とダンスをした時に着ていた黒い刺繍のドレスのことだ。
それを気にいってもらえてよかったなぁ、なんて思っていたのに。
グラスを手に持ったまま、遠くからプレーリーをじっと観察する。
プレーリーは周りをちらりと見た後、テラスの方へと歩いて行った。
その後ろ姿を見ていると、なぜか数人の男の子がその後を追っている。
そして、プレーリーと男の子たちはテラスへと続く扉から室外へと出て行った。
……なんだか胸がざわざわする。
プレーリーは私なんかよりもよほどしっかりしている。
私がプレーリーを心配する必要なんてないのかもしれない。
けれど、開け放たれていたテラスへと続く扉が、なぜか男の子たちが出て行った後、外から閉められて……。
静かに扉が閉まっていくのを見ていると、このままではいけない気がした。
……うん。様子を見るだけ。
なにもなければそれでいいんだから。
ちょっとだけ自分に言い訳した後、グラスを給仕に返し、テラスへと足を進める。
途中、私に話しかけてくる人もいたが、小さく微笑んで「パーティーを楽しんでください」と言えば、誰も私を止める者はいなかった。
そうして、テラスの扉まで来ると、それを背にして、目線は室内へと向ける。
扉が閉まっているせいか、プレーリーたちが何をしているかわからない。
扉を開ければ、少しは声が聞こえるかも。
そう思って、慎重に後ろ手でノブを握る。
両開きの押し戸。
音が鳴らないように少しだけ開けば、隙間から入ってきた風がひやりと頬を撫でた。
「いいか? お前のような爵位も継げない者がうろうろしてたら目障りなんだよ」
「……それについてはもう何度もお答えしました」
「だから……!わかってないみたいだから、こうやって何度も言っている」
扉を開けると、やはりプレーリと男の子たちは何か話していたようで……。
男の子の苛立ったような声とプレーリの困った様な声が遠くに聞こえる。
……なんか、これ。
プレーリーたちはテラスの端の方にいるようで、室内からは姿は見えない。
向こうからも私の姿は見えないだろう。
「いいから、さっさと領に帰れ。また前のようにされたいのか?」
「そうですね……。それは困るな、と思いましたので、大事な物は預けました」
「大事な物?」
「はい。ご存知ありませんか? 今、バルクリッド侯爵が力を入れてらっしゃる交易品。先日、ライラック様がお召しになられたドレスの布地です」
苛立ったような声はプレーリーを何やら脅しているようで……。
それに答えるプレーリーは困った様な声だが、そこには余裕を感じられる。
きっと、眉尻を下げて、いつもみたいに笑っているのだろう。
「今日はその布地で仕立てたタキシードを着てきたのです。先ほど、ライラック様に褒めて頂きましたし、前回のようにうっかり飲み物を零されては困りますから」
プレーリーはいつも通りに話している。
けれど、プレーリーの言葉に、扉の向こうが緊張感に包まれたのがわかった。
……これってやっぱり。
一目を避けて、プレーリーを取り囲む男の子たち。
怒気をはらんだ、脅すような言葉。
端々に入れられる、プレーリーをさげすむような声音。
そして、うっかり飲み物を零される、という内容。
プレーリー……。
嫌がらせ、されてる?






