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出会った人は

 夢のような社交界デビュー。

それ以来、すっかりパーティーの魅力に取りつかれた私は、いろんなパーティーに顔を出した。

バルクリッドと懇意にしたい貴族は多いらしく、たくさんの招待状が届いていたので、片っ端から出席する。

そうしていく内に、私のダンスも有名になっていた。

招待する方としても、私がいるだけでパーティーが華やかになるので、有難いらしい。

なにせ私は誰とでも踊るので、壁のシミになる男性が減るのだから。


 基本的にどんなパーティーでも良かったのだが、その中で気を付けていたのは第二王子が出るパーティーは極力避ける、ということだ。

どうしても出席しないといけないときは第二王子から離れ、ひたすら踊り続ける。

私が踊り続けるのはいつもの事なので、変に思った人はいないはずだ。


 第二王子。

それは記憶の中の婚約者で、私をこっぴどく振っていた人。

私を脇役にする当事者。


 そう思えば、目も合わせたくなくて、ひたすら避けた。

きっとこちらから何もしなければ、何も起こらない。

このまま見知らぬ人で通したい。

シャンデリアからの光を受けて、キラキラと輝く金色の髪だけは時折目に入ってしまったが……。

その輝きを見る度に、記憶の中のあの瞬間を思い出させて、嫌な気分になるのは仕方がない。

第二王子のものじゃなくても、金色の髪は私に嫌な記憶を思い起こさせるのだから。





 そうして、今日も私はパーティーに出席していた。

いつも通りにダンスの誘いに全て頷き、踊る。

さすがに最初から最後まで踊ったのはデビューの時だけで、その後は時折休憩を挟む事も覚えた。

水分補給と適度な休息はより楽しくダンスを踊るためには必要なことだ。


 しかし、ダンスから離れると、話もしなければならない。

あまり気の利いた事も言えないため、それらは好きになれなくて……。

すると、ここで悪役顔の微笑みが力を発揮した。

話しかけられたり、エスコートを申し出られたりする度に小さく微笑むのだ。

悪役顔の微笑みというのはそれだけで迫力があるらしく、それを駆使して、別れを告げれば、みな、ちゃんと離れてくれた。

きっと、バルクリッドの娘を怒らせたくないというのも関係しているのだと思う。


「素敵な時間をありがとうございました」

「こちらこそ、楽しいひと時でした」


 今まで踊っていた茶色の髪の青年に小さく微笑む。

青年は私をじっと見ていたが、その視線の意味はわからなかったので、そっと手を離した。


「少し疲れたので、これで失礼しますね」

「……そうですか。私がエスコートさせていただいても?」

「大丈夫です。私に構わず、ぜひこの場を楽しんでください」


 ダンスの場から離れようとすると、青年がもう一度私に手を伸ばす。

私はそれに微笑んで、辞退を告げた後、小さく礼をした。

青年はそんな私を見て、困ったように笑った後、失礼します、と去っていく。

うん、今日の微笑みも完璧だ。


 そうして、ダンスの場から抜け出すと、そっと手を差し出された。

あれ、さっき断ったのに? と不思議に思いながらその手の持ち主へと視線を向ける。

そこにはぼやっとした顔の癒し系の動物がいて……。


「プレ……アーノルド様」

「今日も素敵なお召し物ですね」


 私をエスコートしようと手を出した人物はプレーリーだったのだ。

なじみ深いその顔に緊張を解かれ、思わずプレーリーと呼ぶところだった。危ない。

先ほどの青年は断ったが、プレーリーとの会話は嫌ではないので、その手を取り、壁際までエスコートしてもらう。


「今日のドレスは最近隣国で流行っているという刺繍の図柄を取り入れたのです。布地と同色の糸で少し厚みを持たせて刺繍されているのです。……光の当たり方によって、図案が浮かび上がって素敵ですよね」


 黒い布地に光沢のある黒い糸で刺繍されたドレス。

シャンデリアの光が当たり、見る角度によって様々な模様に変わる。


「ライラック様の瞳の色に似ていて、とても素敵です」


 今日のドレスの事を話すと、プレーリーが頬を緩めて私を褒めてくれた。

そして、近くにいた給仕からグラス受け取り、私に差し出す。

さすが、プレーリー。気が利く。

それを受け取り、口に運ぶと、ほのかに酸味の利いた、果物の香りのする水で、少し疲れていた体に染み渡るようだ。


「ライラック様。紹介したい方がいるのですが構いませんか?」

「……はい」


 プレーリーが紹介したい人?

そんな事は今まであまりなかったので、不思議に思って見返す。

でもきっとプレーリーが言うのだから大丈夫なのだろう。

了承の返事をすると、プレーリーは失礼しますと礼をして、そっとその場を離れた。

そして、一人の少年を連れてくる。


「ライラック様。紹介したいのは彼です」


 プレーリーが右手で連れてきた少年を示した。

それから私の方へと手を差し出し、私が持っていたグラスを給仕へと返してくれる。

プレーリーの隣でそれを見ていた少年は、私の準備が整ったのを見て、ゆっくりと礼を取った。


「はじめまして。いいパーティーですね」

「……そうですね」


 とても気品があり、その仕草一つ一つが洗練されている。

私はそれに気圧されないように気を付けて、悠然と微笑んだ。

そして、気づかれない程度にこっそりと観察する。


 黒い髪に濃いブルーの瞳。

歳はきっと私と同じぐらいだろう。

声変わり前の音はまだ高い。

けれど、眉間には皺が寄っていて、その声にも少年らしい快活さは伺えなかった。


 ……うん。

この男の子はこっち側だな。


 一目見た印象だけだが、すぐにそれがわかった。


 とても整った顔立ちなのに、なぜかそこには不機嫌な様子が見て取れてしまう。

でも、きっと、この男の子は不機嫌なわけではない。

ただ、こういう顔なのだ。

……私とは系統が違う悪役顔。


「私と彼とは昔からの知り合いでして……。私がライラック様のお話をすると、ぜひ一度話してみたい、と」

「そうだったのですね」


 プレーリーが少し困ったように笑い、私に声をかける。

私があまり人と話をするのが得意ではない事を気遣ってくれているのだろう。

それに小さく微笑んで、構わない、と告げると、プレーリーは目に見えてほっとした顔を浮かべた。


 うん。今日もプレーリードッグにそっくりだ。


「先ほどのダンスを拝見しました。とても素敵でした」


 黒い髪の男の子が眉間に皺を寄せたまま、私を見る。

その声に険は感じない。

不機嫌そうに見えるだけで、心まで荒れているわけではないんだろう。

それがわかるから、微笑んだままで男の子へと言葉をかけた。


「私、ダンスがとても好きなのです」


 だから、それを褒めてもらえるととても嬉しい。


 それを伝えたくて、いつもの微笑みよりもう少し大きく表情を崩す。

すると、そんな私に男の子は一瞬、眉間の皺を深くして……。

そして、私にそっと手を差し出した。


「……ダンスにお誘いしてもいいでしょうか」

「はい、よろこんで」


 眉間に皺を寄せたままの男の子の手。

私は微笑んだまま、その手に自分の手を乗せた。


 もちろん! ダンスなら大歓迎です!

壁のシミ→パートナーがおらず、踊らずに壁際に立っている男性

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【3/20】コミックライド様より連載開始
アイリスNEO様より発売中

悪役令嬢はダンスがしたい 悪役令嬢はダンスがしたい
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