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カフェテラスは

ライラック視点の後日談です。

 リーラやペティと一緒に行こうと約束したカフェテラス。


 私やリーラはお忍びみたいな形で行けたらいいな、と思っていたんだけど、それにウィロー様が待ったをかけた。


「女の子だけなんて危ないよ? 男が一人いるだけで全然違うから。俺はそういうのに慣れてるし、俺のことは気にしなくていいから」


 ウィロー様はしばらく敬語だったけれど、最近はくだけた口調になっている。

それもまたウィロー様らしくていいと思う。


 そんなウィロー様の提案を考える。

確かにウィロー様は女性といろいろなところに行っているし、街の中での過ごし方などもいろいろ知っているだろう。

ペティが一人で私やリーラを案内するより、その方がペティも楽だ。

だから、はい、と頷こうとすると、そこにシェーズ様が割り込む。


「ウィローも行くなら、僕も行きたいな。ほら、僕なら君たちの髪を黒くできるし、一見して侯爵令嬢や伯爵令嬢ってわからないほうがいいでしょ?」


 うん。なるほど。

私とリーラの髪色を変えてもらえば、お忍びとわかりやすくていいかも。

だから、それにも、はい、と頷こうとすると、次はローワン様がボソリと呟いた。


「……俺も行く」


 低いその声にしんと場が静まる。

その雰囲気にウィロー様がええっと戸惑った様子で声をかけた。


「本当に行くの? カフェテラスだよ?」

「行く」

「かわいらしいケーキとかクッキーとかが主だよ?」

「行く」

「そりゃ軽食もちょっとはあるけど――」

「行く」


 最終的にウィロー様の声にかぶせるようにローワン様の低い声が乗る。

……意外だ。ウィロー様はかわいらしいものが好きだったらしい。


「それでは、みなさんで行きましょう」


 そこにいるみんなに笑いかける。


「……セド様も」


 そして、隣にいるセド様を『お願い』と見上げる。

すると、セド様はうっと一瞬息を詰まらせた後、ゆっくりと頷いた。





 そうして、なんとか日時を作り、各所を説得した後、ようやくみんなでカフェテラスに行けた。

それなりの人が知っているので、すでにお忍びではない気もするが、私、セド様、リーラ、ローワン様はシェーズ様に黒髪にしてもらっている。

いろいろなことがあって、いろいろと乗り越えた後のことだから、カフェテラスに来るというだけなのに、なんだか感慨深い。


 そう。私はこの日を楽しみにしていた。

けれど、なんだかちょっと険悪で……。


「なんで、あの女までいるんですか……」


 ペティが低い低い声で目の前にいるピンクグレーの髪の持ち主を睨む。

そんなペティに睨まれたほうはこわいっと声を上げた。


「だってアーノルド様とカフェテラスに行けるなんて滅多にないことです。これを逃がしたら二度とないかもしれません」


 そして、ふわふわと微笑む。

その言葉にペティがギッと更に目を鋭くして、睨みつけた。


 ……そう、カフェテラスにはフローラル様も呼んだのだ。

せっかくだからプレーリーとも行きたかった。

それならフローラル様も……と余計なことを考えたのがよくなかったのかもしれない。


「申し訳ありません。私がプレーリーを呼びたくて……」


 せっかく楽しい一日になるはずだったのに、いろいろと欲張り過ぎた。

当初の予定通り、リーラやペティとだけ行けば、こんなことにはならなかったかもしれない……。

一人、自省していると、ぽつりと言葉がこぼされた。


「……プレーリー?」


 その言葉にハッと顔を上げる。

すると、座っている人はみんな私を見ていて……。


「プレーリー?」


 もう一度繰り返される言葉に、もう誤魔化す術はないと知った……。





「それじゃあプレーリーって言うのはプレーリードッグっていう動物なんだね」


 笑いをこらえたようなウィロー様の声が響く。

みんなどことなく口元が緩んでいるようで、さっきまでのギスギスした空気はなくなっている。

けれど、プレーリーに申し訳ない……。

悪意はないのだ、と精いっぱい説明したつもりだが、心の中でそう呼んでいた、なんて言われたら、きっといやだ。


 おそるおそるプレーリーを見る。

けれど、プレーリーはなぜか嬉しそうににこにこと笑っていて……。


「ライラック様と出会ったのはほんの子供の時です。……ライラック様はその時のことをずっと覚えてくださっていたんですね」


 にこにこを通り越して、感動しすぎたプレーリーから光が漏れている。発光している。

そんないいものじゃないのに、プレーリーは本当に嬉しいようだった。


「ライラック様がプレーリーと呼んでくれていたのなら、これほど光栄なことはありません。……むしろ、名前よりも特別な感じがして私は好きです」


 プレーリーが、だからそのままでいいのだ、とにこにこと笑ってくれる。

その顔を見ていると、私も嬉しくなってきて……。


「プレーリードッグはとても癒される動物なのです」


 あのかわいい絵を思い出すと、勝手に顔が笑ってしまう。

すると、プレーリーもやっぱり笑ってくれる。

そうやって二人で笑い合っていると、プレーリーの隣に座っているフローラル様がああ、と声を出した。


「私も笑い合いたい!」


 すると、セド様がぼそりと呟いた。


「フローラル嬢はハイイロリスに似ている」

「ハイイロリス?」

「民家の台所を襲うリスだ」


 セド様の言葉に首を傾げていたフローラル様がその言葉にまあと言いながら頬に手を添えた。


「害獣指定をされているところもあるらしい」


 そんなかわいらしい仕草にもセド様は淡々と告げる。

そして、その言葉にプレーリーはなるほど、と頷いた。

それにフローラル様はもう! と声を上げる。


「害獣でも、一生懸命に生きている姿がかわいらしければいいんです」

「よくないよ。本当によくない。絶対によくない」


 かわいらしく頬を膨らませるフローラル様にシェーズ様が何度も言葉を重ねていく。

けれど、ウィロー様が『かわいければいいよね』と言って、フローラル様とうんうんって頷き合っていた。


 そこにあるのは楽しみにしていた光景で……。


 私の隣にはリーラとペティが私を見て、微笑んでくれている。

ローワン様はかわいらいいカフェテラスにはまったく似合っていないのに、じっとそこに座っていて……。

シェーズ様やウィロー様が話していて、フローラル様もなんだかんだで楽しそう。


 プレーリーはにこにこと笑っていて。

隣を見ればセド様がこちらを見てくれている。


 ……なんてことない友達と行くカフェテラス。


 セド様の手にはメニューを持っていて、何を頼もうか考えていたようだ。

そして、きっと私を気遣って、フローラル様のことへと話題を変えてくれたんだと思う。


「貴方は何が好きですか?」


 そんなセド様の濃いブルーの目が優しく細まるから……。


「私はみなさんが好きです」


 私を恐れずにいてくれる。

こうして一緒に過ごせる時間が本当に嬉しいから。


「セド様が好きです」


 そんな時間を作ってくれるセド様が好き。


「大好き」

これにて本編は終了です。

ブクマ、評価、感想、レビュー、すべてが励みになりました。

今後はダンスネタを書きたくなったときに、ちょこちょこと書ければ。

お付き合いいただきありがとうございました。


そして、次話からは書籍化記念のお礼番外編です。

よろしくおねがいします。

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