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私の秘密は

 そうして、三人で手を取り合っていると、私の手が少しずつ温かくなってくる。

だから、胸の中に勇気がわいてきて……。


「私はみなさんのことを知っていました」


 リーラとペティの手を持ち、立ち上がる。

私に引かれるように立ち上がった二人に椅子を勧め、私も椅子に座った。

そうして、周りを見渡せば、目に入るのは、十歳の時に見た記憶と同じ姿の人たち。


「フローラル様のこと。ローワン様、シェーズ様。それにサーフィス様とウィロー様のことも」


 信じてもらえなくていい。


「……そして、セド様のことも」


 おかしなやつだって笑ってくれていい。


「私がみなさんのことを知ったのは十歳の時です。……まだみなさんに出会ってはいなかった。けれど、私はみなさんの姿を知っていたのです」


 自分でも変な話だと思う。

こんなことを話して、なんになるのかはわからない。

だけど、このままじゃいけないと思うから。


「私はこの世界の未来を知りました。……そして、自分の役割も」


 そうして、私は十歳の時に知った記憶のことを話し始める。

きっと、突然の私の言葉にみんなびっくりしたはずだ。

けれど、私が話終わるまで、誰もなにも言わずに聞いてくれた。


 この世界の主役がフローラル様だと言うこと。

そして、その相手役としてセド様、ローワン様、シェーズ様、サーフィス様、ウィロー様がいること。

私はセド様の婚約者で、フローラル様がセド様を選んだ場合は悪役として、フローラル様を排除しようとすること。


 そして……その記憶にずっと振り回されていたこと。


「セド様と婚約してから、ずっとこわかった。記憶の中のセド様と今のセド様がどんどん重なって行って……。だから、今のセド様を見ればすぐに溶ける不安も、ずっと胸にくすぶっていました」


 そう。こうして言葉にしてみるとよくわかる。

私がこわかったのは……信じられなかったのは今のセド様じゃない。

記憶の中のセド様と今のセド様と。

似ているところを必死に探して、それを勝手に重ねていただけ。


「だから、セド様が少しでもフローラル様と話していれば、それが私にとっての真実でした。……それしか見ていなかった」


 ずっと探していた。


 ――セド様が私を愛していない証拠を。


 どんな些細な事でもいい。

セド様がフローラル様を好きになっている証拠を。

私をないがしろにする証拠を。


 それを一生懸命に集めていた。

そうして、愛されていない自分を作り上げて……。

セド様がフローラル様と一緒にいるのを見る度に、やっぱりね、と一人で呟いていたんだ。


「セド様はいつも私のそばにいてくれたのに……。まっすぐに私を見てくれていたのに」


 きっと、愛されている証拠を見つけるほうが簡単だったはず。

けれど、私はそれを受け取らなかった。


 ……それってきっと悲しい。

セド様がどんなに私を思ってくれていても、私はそれを信じない。

それなのに、セド様が少しでも私の意に沿わないことをすれば、私はそちらを信じるのだ。


 ほら、やっぱり私を愛していないんだって。

ほら、やっぱり私を捨てるんだって。


 そうやって一人で不安になる私は、すごく自分勝手だったはず。

……でも、セド様はそのことに一度だって文句を言わなかった。


 私が主役ですかって聞けば、主役ですって返してくれた。

不安にならないようにするって言えば、自分もそうするって返してくれた。

ぎゅうって抱き付けば、目元を赤くして、いつもとは違うセド様を見せてくれた。


 そして、今もまた……。

私の我儘に付き合ってくれようとしている。


「セド様は誰も責めないと言いました。……けれど、誰も責めずに終われば、セド様が一人、泥をかぶることになりませんか?」


 そう。結局は私が人目のあるところで謝ったためにこの問題は決着はついている。

私が下位貴族であるフローラル様に礼を尽くして謝ったのだから、それで終わり。


 ……けれど、セド様は?

婚約者の心を考えず、騒動を起こした原因だと言われないだろうか。

その結果、婚約者に謝罪をさせた男だ、と。

そう言われるのではないだろうか。


 誰も責めないというのは、そういうことだ。

それぞれの思惑はこの談話室の中だけの話として終えて、それを外に出すことはしない。

だから、誰もフローラル様やペティの思惑を知ることはできなくて……。

もちろん、それはセド様の致命的な失敗にはならない。

結局、私とセド様はこれからも一緒にいるのだから、若い男女のすれ違いというだけで終わるだろう。


 ……でも、セド様はそれ以上のことになってもいいと思っていたはずだ。

私がプレーリーのことを好きだと言えば、本当に婚約破棄をしていたのだろう。


 フローラル様とのことをすべて自分のせいだと……。

私がプレーリーのところに行けるように、すべてのものを背負って……。


「セド様の行為は何も悪くありません。私が勝手に記憶と今とを重ねてしまっただけ。セド様はずっと色んなことを考えて行動しているだけです」


 今のセド様をちゃんと見れば、セド様が守ってくれていたものが見えてくる。

こんな私のために、セド様ががんばってくれていたものが見えてくる。


「色々な理由があると思います。セド様がフローラル様と一緒にいたのは私のためでもあったはずです」


 だって、セド様はフローラル様といないほうが楽だ。

プレーリーとフローラル様とのことは本人たちに任せて、自分は関わらない。

特にこうして騒動が起こった後ならば、フローラル様を避けたほうがセド様の名誉も保たれたはず。


「私はフローラル様の行動がこわかった。記憶と重なるから……だから、関わりたくなくて避けていました。……それがフローラル様をより孤立させてしまっていたのだと思います」


 同性と一緒にいることがなかったフローラル様。

それはフローラル様自身の行動のせいもあるだろうが、私が避けたことも関係があったのだろう。

そんなフローラル様をセド様は拒否しなかった。


「私が避けた人が孤立していけば、結局は私自身へと跳ね返ってきます。……でも、セド様がフローラル様と一緒にいたから、私の影響力は小さくなった」


 私が避けた人が孤立する。

それは私への畏怖となって、注目が集まってしまう。

……そうなれば、きっと今よりずっとめんどくさいことばかり。

でも、セド様がフローラル様と一緒にいてくれたから、そんな風にはならなかった。


「私が誰かを嫌ったとしても、セド様はそれに追従しない。……それが大事なことだったと思います」


 私が……バルクリッド侯爵の娘が誰かを嫌ったとしても。

その婚約者である第二王子のセド様はそれに左右されず、きちんと人物、罪の大小や善悪を見てくれる。

それはきっと、この学園に通う者の心の安定に繋がっているはずだ。


 そして、そうやってセド様がバランスをとってくれるから。

だから、私もこの世界で少しだけ自由に生きることができる。


「フローラル様だけではありません。今、ここにいらっしゃるローワン様やシェーズ様も。……私はお二人の名誉を傷つけました。けれど、セド様がお二人と友情を築いてくれたから、私の影響力が小さくなった」


 そう。セド様がずっとずっと私を守ってくれている。

私の本意ではない影響を可能な限り少なくしてくれていた。


「みんなの未来をセド様が守ってくれたこと。……本当に良かったと思います」


 私の記憶のことを話したって、きっとどうにもならない。

けれど、このままセド様だけにすべてを背負わせたくない。


 だってセド様は悪くない。

私が記憶に振り回されただけで、セド様は悪くないのだから。


「私はリーラやペティと一緒にいたい。もし、これからもそれが叶うのなら、それはセド様のおかげです」


 セド様が私の世界を丸ごと守ってくれている。

一緒にいたいと思った人と共に歩めるような、そんな世界にしてくれようとしている。


 それがなんだか胸をぎゅうぎゅうと締め付ける。

痛いような嬉しいような苦しいような……。

よくわからないけど、胸がいっぱいになっていく。

そうして、セド様を見れば、その目元はなぜか赤くなっていた。


「貴方の言葉を嬉しく思います」


 隣から聞こえるセド様の声が優しくて……。

十歳の時に見た記憶だなんて変な事を言う私なのに、濃いブルーの目が嬉しそうで……。


「ずっと貴方の秘密を知りたいと思っていました。いつか話を聞ける日が来ればいい、と」


 赤くなってしまった目元を隠すように、右手でその目を覆う。


「貴方がずっと背負っていたものをこうして話してくれたのが嬉しくて……それが私のためなんだろうと思うとその、胸がいっぱいになってしまって……」


 そこまで言うと、セド様は一度息を吐いた。

そして、目を隠していた手を取り、ゆっくりと私を見返してくれる。


「私は貴方の世界が好きです。それは私だけではありません。……あそこにいる軽い男。彼を覚えていますか?」

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