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月夜の噴水は

 プレーリーからの突然の提案。

驚いてプレーリーを見返すと、相変わらず穏やかに笑っていた。


 ……そっか。

プレーリー、今日は忙しいんだもんね。


 今日はプレーリーの家でのパーティーだから、色々とやらなければならない事が多いのだろう。

それなのに、私がつまらなそうにしていたから、わざわざ声をかけて、噴水までエスコートしてくれたのだ。

そして、すぐに中へ戻らなければならないプレーリーの代わりに、黒い髪の男の子に話をしてくれていた。


 さすが、プレーリー。

心配りが行き届いている。


 プレーリーのぼんやり顔から黒い髪の男の子へと視線を移す。

久しぶりのその顔を見ると、なんだか懐かしい気もする。


 まだ社交界にデビューしたてで、ダンスばかりしていた頃。

プレーリーに紹介され、一度だけダンスをした。


 あの時の私はプレーリー以外のエスコートには乗らなくて、黒い髪の男の子の誘いもあっさりと断った。

けれど、私も少しは成長したはず!

プレーリー以外の人と話したり、エスコートしてもらったりした。

そういう人は大抵、年上だったけど、同じ年頃なら、シェーズ様とも二人で話したし!


 そうだ、これはプレーリーからの課題なのだ。

パーティーで同じ年頃の子とも話せるように、こうして配慮してくれたんだろう。


 私はプレーリーを信頼している。

プレーリーは私に害になることはしない。

そのプレーリーが二人で噴水を見たらどうか? と言うのだから、黒い髪の男の子は私の害にならないはず。

きっとプレーリーは黒い髪の男の子をすごく信頼しているんだ。


「プレ……アーノルド様。お忙しい中、ありがとうございました」


 プレーリーを見て、ふふっと微笑む。


「私はもう少し、噴水を見ていこうと思います。どうぞ、室内へ戻って下さい」


 私やるよ!

プレーリーの気持ちに応えるよ!


 庭で一人になるのは良くないだろうけど、黒い髪の男の子がいてくれるなら、大丈夫。

どうせ室内に戻っても苦痛な時間が待っているだけなので、ここで噴水を見ている方がよっぽど楽しい。


 がんばる、とプレーリーを見れば、プレーリーはなんだか眩しそうに私を見ていて……。

不思議なその顔にん? と少し首を傾げると、プレーリーはそっと礼を取った。


「……ライラック様をエスコートできて光栄でした。では失礼します」


 一瞬、不思議な顔をしていたプレーリーだけど、礼をした後はいつものぼんやり顔。

そうして、去っていくプレーリーの背中をしばし見送った後、私の横へ黒い髪の男の子がやってくる。


「お久しぶりです」

「……はい」


 あの時とは違う、少し掠れた声。

きっと、声変わりの最中なんだろう。


「突然の事で申し訳ありません。ライラック様が今日は浮かない顔をされていたので、こうして友人と二人、あなたをここに連れ出してしまいました」


 黒い髪の男の子が眉間に皺を寄せたまま、まっすぐに私を見て話す。

なぜかその目をずっと見ていられなくて、不自然に感じられないぐらいにゆっくりと目を逸らして、噴水へと視線を向けた。


「……少し室内に飽きていた所だったので、助かりました」


 どうやら、黒い髪の男の子にも私が退屈していた事がバレてしたらしい。

なので、正直に言葉を返せば、黒い髪の男の子は何かを考えるように少し口を閉ざした。


 私たちの間に無言が訪れる。

何か話した方がいいんだろうけど、いつも通り、私の頭には何も浮かんでこない。

相変わらずキラキラと光る噴水をしばらく見ていたが、ちょっとだけ勇気を出して、チラリと横を見る。

そこには眉間に皺を寄せたまま噴水を見ている黒い髪の男の子がいて……。


 あの時よりもずっと高くなった身長。

声変わりをしているようだから、次に会えば低い声に変わっているかもしれない。


 ……あの時。

楽しかったな。


 自分の体なのに、自分じゃないみたいだった。

すごく大きく動けて、気づけば、楽しいって呟いていた。


 ……たくさんの大人の間をすり抜けて、思いっきりダンスをしたあの時がずっと前みたい。


「今日は踊らないのですか?」


 黒い髪の男の子が無言を破り、少し掠れた声で私に尋ねる。

ちょうど、ダンスの事を考えていたので、その声に少しドキッとしてしまう。


「……はい、少し体調が優れないので」


 パーティーが始まってからずっと唱え続けて来たその言葉。

そして、これからも唱え続けるだろう、その言葉。


 ……もう家族以外とはダンスをしないって決めたから。


 みんなにそう言った。

プレーリーにだってそう答えた。


 ……なのに、変だ。


 今までで一番胸が痛い。

黒い髪の男の子にダンスをしない、と告げた今が、一番苦しい。


「そうですか……」


 残念です、と黒い髪の男の子が小さく呟いた。


「……今日、ライラック様のダンスを楽しみにしていました」

「……私の?」


 少しだけ首を傾げて、黒い髪の男の子を見上げる。

黒い髪の男の子は更に眉間に皺を寄せると、ゆっくりと話した。


「はい。……私はライラック様が踊る時、楽しそうに笑う所が好きなのです」

「……ありがとうございます」


 目が合ったまま、まっすぐに『好き』と言われる。

黒い髪が風に揺れて、兄よりも濃い色のブルーの目が氷みたいに透き通っていて……。


 私はバルグリッドの宝石。

幼蝶とも呼ばれている。


 だから、こんな口説き文句のような美辞麗句は何度も言われてきた。

いつだってそれにふふって微笑んで、適当にあしらってきたはず。


 なのに……

どうしよう。


 胸が痛い。


「ライラック様の笑顔はいつも輝いています」


 耳の奥がドクドクとうるさいけれど、それを必死で抑える。

すると、黒い髪の男の子はまっすぐに私を見たまま、ゆっくりと告げた。


「……なにか悩み事があるのですか?」


 ……悩み?


「ダンスをしているライラック様は楽しそうで……。私は一度踊ったきり、誘う事はできませんでしたが、遠くから見ているだけでも、とても美しかった。……けれど、今日のあなたは羽をもがれた鳥のようです」


 黒い髪の男の子がまっすぐに私を見るから、目を反らせなくて……。

胸はどんどん痛くなるし、耳の奥はずっとドクドク鳴ったまま。


「私にあなたを助けることはできませんか?」


 私、なんだかおかしい。


 自分で決めたのに。

もう家族以外とダンスをしないって決めたのに。


「私はまた……」


 濃いブルーの目から逃げられない。


「あなたとダンスがしたい」


 

 ――私も。

――あなたとダンスがしたい。



 そう思うと、胸がぎゅぎゅうって痛んで……。

息もできなくて、よくわからない短い息を何度か繰り返した。


 なにこれ。


「今日はあなたの踊る姿を見る事はできませんでしたが、こうして話すことができてうれしく思います」

「……ありがとうございます」


 白い月を背にした黒い髪の男の子。

さっきまで眉間に皺が寄っていたのに、今はそれが解けている。

優しく細まった目は水しぶきが弾いた光でキラキラと輝いていて……。


 そのまっすぐな濃いブルーの瞳には私がいる。

キラキラ光る瞳に私が映っている。

……きっと、私の瞳には目の前の男の子が映っている。


 どうしよう、もうなにがなんだか。


「私、そろそろ戻ります」

「そうですか……」

「はい、失礼します」


 そっと礼を取り、噴水から離れて、ホールへと向かう。


 淑女らしくない。

ちゃんとエスコートしてもらって室内に戻らなきゃいけないのに……。

わかっているけど、勝手に一人で室内へと向かった。


 だって、どうしたらいいかわからない。


 耳の奥は相変わらずドクドクとうるさいし、なんだか顔が熱い気がする。


 ……へん。

私、すごく変だ……!

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