表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/48

繋いだ手は

 勝手に笑ってしまう私とは対照的に、シェーズ様は真っ赤な顔のまま。

その赤い目もなんだかうるんでいて……。


 ……やっぱり、今も恥ずかしいんだろうな。


 ダンスが下手だから、とシェーズ様は言っていた。

確かに上手とは言えないけれど、ゆるやかなテンポに合わせてちゃんと踊れていると思う。


 ……私はさっき、シェーズ様にダンスが下手でもいいって言った。

うん。ダンスは下手でもいいと思う。


 でも……。

ちょっとだけでもいいから。


 ……ダンスを好きになってくれたらいいな。


 だって、ダンスって楽しい。

音楽がなくても、ダンスホールじゃなくても。

ドレスを着てなくても、タキシードを着てなくても。


 パーティーが嫌いでも。

貴族が嫌いでも。


 こうやって誰の目も気にしなくていい時は……。

……ダンスって楽しいなって。


 ダメかな……。


 目の前にあるシェーズ様の顔をじっと見つめ、繋いだ右手にきゅっと力をいれる。

少しでも、楽しさが伝わればいい、と。

私の楽しさを分けてあげたい、と。


 ……そう思ったんだけど。


「っ今は……無理……っ」


 シェーズ様はそれだけつぶやくと、突然私のほうにふらりと倒れ込んできた。


「っ……シェーズ様?」

「っお嬢様」


 突然かかった重さに上手く対応できずに、一緒にズルリと絨毯の上へと座り込んでしまう。

エミリーの焦ったような声が聞こえたかと思うと、すぐに傍に来てくれ、シェーズ様を抱え起こしてくれた。

俯せに倒れ込んでいたシェーズ様を仰向けにすると、その顔はひどく苦しそうで……。

エミリーと目を合わせ、このままではいけない、と二人で確認しあう。


「エミリー……私がシェーズ様を見ていますので、誰か呼んできてください」

「かしこまりました」


 私とエミリーだけではダメだ。

どこかベッドに運ぶとしても、誰か男手があった方がいい。


 私の言葉にエミリーは即座に反応して、部屋を出て行く。

座り込んだままの私はシェーズ様の頭をお腹の辺りに抱え込むと、苦しそうなその顔にそっと手を当てて声をかけた。


「シェーズ様。シェーズ様、大丈夫ですか?」

「……ご、めん……」


 シェーズ様に意識はあるのか、ないのか……。

その言葉の後は、何度呼びかけても答えてくれくなってしまう。


「シェーズ様……」


 赤い顔はそのまま。時折、苦しそうに顔を歪める。


 ……どうしよう。

どうしたらいい?


 どうしたらシェーズ様が楽になるかわからず、頭が大混乱だ。

私の手は冷たいから楽になるかと思い、シェーズ様のおでこに手を置いたり、頭を撫でてみたり。

そうして、看病とも呼べないような事をしていると、エミリーが我が家が護衛で雇っている男の人を連れて来てくれた。

護衛は私とシェーズ様を見ると、急いで駆けつけてくれ、シェーズ様の体を楽々と抱え上げる。


「お嬢様、来客用の寝室が空いております」

「わかりました。では、そこへ」


 エミリーはとても気が利く。

一応は私が指示しているが、ほとんどはエミリーの采配だ。

きっともう医者への手配やシェーズ様の住む王都の屋敷へも連絡を取ってくれているのだろう。


 ……大丈夫。

シェーズ様に何が起こったかわからないけど、きっとすぐに良くなる。


 チラリと護衛に抱え上げられているシェーズ様の顔を覗く。

やっぱりまだ苦しそうで……。


 体がしんどいのかな……。

どれぐらいつらいだろう……。


 想像すると、なんだか私までしんどくなってきてしまう。


「お嬢様」


 エミリーの優しい声。

その声に促されるようにエミリーを見れば、私を安心させるように小さく笑っている。

そして、スッと目礼をした。


「……エミリー、私の事は他の者に任せます。エミリーはシェーズ様についてください」

「かしこまりました」


 ……本当は私がついて行きたい。

けれど、男の人の寝室に入る事はできないから……。


 エミリーは私が心配しているのを察して、代わりについてくれるように合図をしてくれたのだ。

頼りがいがありすぎる。


 私の言葉に護衛が部屋を出て、エミリーも続く。

気付けば、部屋に一人ぼっち。


「シェーズ様……大丈夫かな……」


 ボソリと呟いてみるが、もちろん返事はない。

落ち着かなくてそわそわと部屋の中を歩き回ってしまう。


 何度かエミリーの代わりの侍女が色々と報告に来てくれたけど……。

私がシェーズ様の元気な姿を見る事はなかった。





 そうして、シェーズ様が倒れた後。

元々、日帰りの予定だったシェーズ様は、迎えの馬車で急ぎ我が家を後にした。


 我が家の者もついていき、後で聞いた報告によると、『魔素酔い』であったらしい。

シェーズ様は魔素に対する反応が敏感で、あまり人が集めた魔素を直に受けるのは良くなかったそうだ。


 シェーズ様は手を媒介として魔素を扱う。

だからいつもは手袋をして、他人との接触を絶っているらしい。

不用意に他人の魔素に触れないように。


 私がダンスを誘った時。

シェーズ様は私に魔法を使ってくれたから素手だった。

そして、心のもやもやを晴らそうとした私がダンスをするためにその手に触れた。


 もちろん、それだけなら何の問題もない。

でも、私はその繋いだ手でシェーズ様の体に問題が起こる事をしたわけで……。


……つまり、私はダンスをしているつもりで、繋いだ手から魔素をシェーズ様に流し込んでいたらしい。


 ……うん。

私って魔素を使えるんだ……。


 さすが悪役令嬢。

万能である。


 ときめき魔法学園に入る前から、魔法の素養はばっちりらしい。

多分、楽しさを分けてあげたいな、と思った時に、楽しさではなく魔素を分けていたのだ。


 ……なんで。


 とりあえずわかったのはシェーズ様があんなに苦しそうだったのは、私のせいだったということ。

私にその気がなかったとは言え、そんなことはシェーズ様には関係ないわけで……。


 もちろんシェーズ様には手紙で謝罪したが、私は話すのが苦手なら手紙も苦手だ。

非常に端的な表面上の事だけを書くことしかなく、自分でもよくわからなすぎて、手紙のやりとりはそれきりだ。


 そして、赤い髪の男の子の事件に続き、この事件も同年代の間では瞬く間に広がって行った。

どこから仕入れた情報かはわからないが、シェーズ様が三日間寝込んだ事と私の家に行った事とで色々と推測されたらしい。

曰く、庶民上がりの生意気な魔術師を私が持ち前の魔法で返り討ちにした、と。


 ……なるほど。

こうしてシェーズ様の貴族嫌い、人嫌いが悪化するんだろう。

貴族なんて気にしなくていい、魔法は初めて知りました。

そんな事を言っていた私は、その実シェーズ様油断させ、害そうとしていたのだ。


 ……してないけどね。


 でも、シェーズ様からしたらそう思うよね。

ダンスが下手だって言ってるのに、無理やりダンスをして、魔素を流し込んでくるんだもんね……。


 シェーズ様はどちらかと言うとまっすぐで、感情もすぐに顔に出るようなかわいらしい男の子だった。

それが悪役令嬢の私に攻撃をされ、斜に構えたような性格になってしまうんだろう。

貴族の悪の象徴のような微笑みを浮かべる悪役令嬢の私。

それとは正反対のほんわかした微笑みを浮かべるヒロインの惹かれていく。


 ……将軍の息子に続き、嫌味な魔術師にも乙女ゲームの下地を作ってしまった。


 きっと、私が知らないだけで他にも悪役令嬢が関わっている出来事がいっぱいあるのかもしれない。

シェーズ様の銀色の髪のことを知らなかった事といい、乙女ゲームの記憶は完璧ではない可能性もある。


 ……もう、絶対。

攻略対象者とは関わらない。


 関われば、脇役の人生へと進んでしまう気がする。

今、他にわかっている攻略対象者は、プレーリーの嫌がらせ事件の時に見た、あの水色の髪の男の子。

あの男の子には絶対に関わらない。


 絶対に!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【3/20】コミックライド様より連載開始
アイリスNEO様より発売中

悪役令嬢はダンスがしたい 悪役令嬢はダンスがしたい
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ