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魔法の効果は

 よくわからない出会いを終えた私と銀色の髪の男の子。

あんまりいい出会い方ではなかったけれど、誤解も解け、私の微笑みも許してもらえて、ようやく一息つけた。


 挨拶を終えた私達はティーテーブルを挟み、お互いに一人掛けの臙脂のソファへと座る。

侍女のエミリーが用意してくれた紅茶やお茶菓子を食べながら、銀色の髪の男の子に色々と話をしてもらった。


 銀色の髪の男の子は私と同い年にして、かなりの素質の持ち主らしい。

魔術の才能を見出され、庶民であったが貴族へ養子に入り、今は王都で暮らしているようだ。

王都には魔法を研究する機関があり、すでにそこに通っていると教えてくれた。


 そんなわけで、銀色の髪の男の子の話はとても面白かった。

魔法についての基礎。ほんの触りだけといった感じだったが、すごく勉強になる。

なんせ私は婚約者を探すために、主にマナーやダンスと淑女としての教養を優先にしていたため、魔法の事は全然わかっていなかったのだ。


「つまり、空気の中に魔素というものがあって、それをうまく使えるのが魔術師、ということですか?」


 銀色の髪の男の子のしてくれた話を自分なりにまとめて、少しだけ首を傾げて確認する。

銀色の髪の男の子はそれに、うん、と頷いてくれた。


「そうだよ。魔素を集めてみんなの暮らしをよくするのが魔術師の役目なんだ」

「暮らしをよくする?」

「魔素は空気中にあるだけでは何かの役に立つわけじゃないし、みんなが等しく使えるというものでもない。だから、みんなが手軽に魔素を魔法として使えるように、色々な道具を作っているんだよ」


 銀色の髪の男の子の赤い目がキラキラと輝く。


「特に光らせたり、熱を持たせたりっていうのは得意分野なんだ。でも、まだできないことも多いから……次は冷やしたり、もっと色々な機械の動力になるように研究してるんだよ」


 なんだか説明してくれる声も高揚していて……。


 そんな彼を見ていると、なんだか私の心もフワッとする。

私にはまだまだ魔法の事なんて何にもわかっていないんだろうけど……。

でも、これだけはわかった。


 ……魔術師ってすごい!


 うん。だって、自分たちの力をみんなに還元してくれてるんだよね。

魔術師の人たちがいるから、便利な生活を送ることができるんだ。


「……よくわかりました。私達が夜に怯えず、寒さに凍えなくてもいいのは魔術師の皆さまのおかげなのですね」


 私がそれを告げると、銀色の髪の男の子は少し照れくさそうに笑った。

その顔はとても嬉しそうで……。


「研究所にいるみんなは本当にすごいんだ。だから僕も早くそうなりたくて、貴族へ養子に入って、王都で勉強している最中だよ」


 まだ声変わりも終わってない声で、銀色の髪の男の子はしっかりと自分の道を話す。

銀色の髪の男の子は自分の道のために貴族へ養子に入ったけれど、それは手段であって目的じゃない。

だから、私――ライラック・バルクリッドに敬語を使わずに接しているんだろう。

魔術師として誇りを持っているんだ。

貴族に媚びるんじゃない、みんなの暮らしをよくするんだ、っていう思いが伝わってくる。


「……すごく、魔法が好きなんですね」


 キラキラと輝く赤い目をじっと見て、声をかけた。

私がじっと見ていると、その赤い目は少しだけ大きくなって……。

そして、何かを探すように少しだけそわそわと動いた。


「あー……うん。結局はそうだよね。僕が僕でいられる理由っていうか……。そんな感じ」


 そこまで言うと、銀色の髪の男の子は、なんか恥ずかしい……と呟いて、手で顔を覆う。

なぜだか、耳まで赤かったけれど、私は銀色の髪の男の子の声が胸に響いた。


 『僕が僕でいられる理由』


 ……うん。わかる。

すごくわかる。


「素敵ですね。……とても素敵です」


 もっとうまく言葉にしたいけれど、結局、同じ言葉を二度繰り返しただけになってしまった。

けれど、それなりには伝わったようで、銀色の髪の男の子は手で顔を覆ったまま、ありがとう……と呟く。

そんな銀色の髪の男の子を見ていると、なんだか私も自分の事を話したくなって……。


 だって、私にもあるから。

『私が私でいられる理由』が。


「私も、好きな事があります」

「……そうなの?」


 私が言葉を告げると、銀色の髪の男の子がゆっくりと顔から手を外した。

まだ赤い顔を見ながらふふっと笑って、言葉を続ける。


「はい。私はダンスがすごく好きです」


 そう、私にはダンスがある。 


 私のとっておきの話。

けれど、銀色の髪の男の子は私の言葉になんとも言えないような、困った様な顔になって……。


「ダンスかぁ……。……君が好きって言ってるのに、こんな事言うのもよくないと思うけど、あれってすごく恥ずかしくない?」

「……恥ずかしい、ですか?」


 初めて言われた……。

ダンスって恥ずかしいかな?


 いまいちピンとこなくて少し首を傾げると、銀色の髪の男の子はなんだか目をそわそわさせる。

 

「いや、僕も一応貴族になってしまっているから、そういうのもしないといけないんだけど……。初対面の女の人との距離がなんていうか……」


 そして、モゴモゴと口ごもった。

その顔を見て、なるほど、と小さく頷く。


「……そうですね。でも、踊り始めれば気にならなくなりますよ」


 確かに手を繋いだり、体を寄せたりする。

でも、曲がかかって、二人で踊り始めれば、そういうのも全部無くなっちゃうのに。

音に合わせて、体を動かせば、少し恥ずかしいぐらいの方が心も高揚していいかもしれない。


「あー……うん。……あー、ごめん。僕、言い訳ばっかりだ」


 銀色の髪の男の子が小さくはあと息を吐く。


「……貴族って色々難しくて……。結局僕は庶民出だから……パーティーとかが嫌いなんだ」


 声がなんだか苦しそうで……。


「結局さ、自信がないんだよね。ダンスが下手なんだ」


 情けないよね、って銀色の髪の男の子が小さく笑う。

その顔が胸をぎゅっと締め付けた。


 ……きっと、色々と辛い思いをしたのだろう。


 銀色の髪の男の子は挨拶をした時、貴族が嫌いだ、と言っていた。

裏では色々と言っているんだろう、と。

もしかしたら、ダンスの事でも色々と言われたのかもしれない。


 パーティーには色々とマナーがある。

きっと銀色の髪の男の子はまだまだ勉強中なんだろう。

私だって十歳からかなりぎゅうぎゅうに詰め込んで、ようやくここまで来た。

他の貴族はもっと真剣に色々とやっている。

そんな彼らから見れば、銀色の髪の男の子の所作は褒められるものではなくて……。


 でも、銀色の髪の男の子はそんな風に言われる人じゃないって思う。

がんばって自分の道を歩こうとしているのに、そんな言葉で傷ついて欲しくない。


 だから、少しでも元気になって欲しくて、言葉を探す。

初対面の私にできる事はすごく少ないだろうけど。それでも……。


「ダンスが下手でもいいと思います」


 そう。ダンスは下手でもいい。

貴族との関わりも適当でいいって思う。


「魔法の事を話してくださる時、とても素敵でした」


 だって。

みんなの暮らしをよくしたい、って。

そう言った銀色の髪の男の子はとても輝いていたから。


「……だから。……ダンスが下手でもいいと思います」


 ……同じだ。

また同じ言葉を二度繰り返しただけになってしまった……。


 もっと気の利いた事を言いたいのに、自分の語彙の少なさにちょっとしょんぼりしてしまう。

でも、気を取り直して、目の前に座る銀色の髪の男の子をじっと見る。


「……他人に何か言われると思うと、何も楽しくないと思います。……あの、一緒に踊ってみますか? 私は何も言いませんから」


 うん。私は何も言わないから。


 一生懸命に探した言葉。

それを告げ終わると、銀色の髪の男の子はなんだかぽかんとした顔をしていた。


 ……あれ?


「……君って本当に貴族なの?」


 ……貴族だけど。


「あ、ごめん、悪い意味じゃなくて……。バルクリッドって言えば、貴族の中の貴族なのに」


 銀色の髪の男の子が慌てて、言葉を続けた。

うん。確かにバルクリッドは貴族の中の貴族だ。

お父さまのお母さまも兄も、みんなしっかりしている。

……私もがんばっている所なんだけどな。


「アーノルドが言ってた通りだ」


 ……プレーリーなんて言ったの?


 じっと銀色の髪の男の子の顔を見る。

その顔はさっきみたいな苦しそうな感じはなくて……。


「……元気が出たのなら良かったです」


 なんだか色々と気になるけれど、それはまあいいや。

銀色の髪の男の子の苦しいのが、少しは減ったのなら良かった。


 ホッと息を吐くと、銀色の髪の男の子はくすぐったそうに笑う。

そして、小さくぽつりと呟いた。


「……ありがとう」


 私よりもよっぽどかわいいその笑顔。

それに小さく頷くと、銀色の髪の男の子はかわいい顔を悪戯っぽい顔へと変えた。


「すごく心が軽くなった。……お礼に僕のとっておきの魔法を見せてあげるよ」


 そう言うと、両手にはめていたすべらかな布地の手袋を外す。

そして、きれいな手で自分の髪をさっと撫でた。


 ……髪の色が!


「どう?」

「……すごいです」


 すごいとしかいようがない。


「銀色の髪が黒色に変わってしまいました……」


 なんと一撫でで、髪の色を変えてしまったのだ。


「魔素を集めて、黒色に見せているんだ。これはあまりできる人はいないんだけどね」

「他の色にもできるのですか?」

「いや。もしかしたらできるのかもしれないけど、これは光の反射を利用して黒に見せているんだ。髪の毛以外はできないし、黒色以外も難しい」


 ……魔法ってすごい。


 夢みたいな出来事に目をパチパチと瞬いてしまう。

銀色の髪――今は黒い髪の男の子はそんな私の表情に満足したらしく、嬉しそうに笑っていた。


 目の前には黒い艶やかな髪に赤い目の少年。

庶民出身の将来有望な魔術師で、既に研究機関へと出入りしている。


 ……うん?


「……あの、お名前を教えて頂いても構いませんか?」

「え、あれ? 僕、名乗ってなかったかな? ごめん! シェーズだよ。シェーズ・マートル」


 ……うん。


「……もしかして、いつもは黒髪で過ごされていますか?」

「あ、うん。銀色は目立つから。今日はアーノルドがそのままでも大丈夫って言うから、このままで来たんだ」


 また、出て来たプレーリーの名前。

一体、どんな話をしたのか……。

でも、今はそれよりもすごい事に気づいてしまった。


 黒い髪に赤い目の魔術師。

シェーズ・マートル。


 ……攻略対象者だ!

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