87:平静を装っていたが。
地下のスーパーで鍋の材料と餃子の材料を購入し、ウリエルの部屋に向かう。
「鍋と餃子か。変わった組み合わせだな」
スーパーで購入したものが入ったエコバックの中を、ウリエルはしげしげと眺める。
「どんなものになるかはお楽しみ」
買い物を終え、エレベーターに乗り、ウリエルの部屋があるフロアに到着した。廊下を進み、ウリエルは自身の部屋の前で立ち止まる。
ドアの鍵を開けるウリエルの後ろ姿を見て、私は急激に緊張してきていた。
異性の部屋にお邪魔するのは……宿題をチームでやる必要があった小学生の時、大学のゼミの飲み会の二次会の時、すぐに別れた男子に一度だけ招かれた時……ぐらいしかない。
あ、天界ではマティアスの部屋に入ったけど、あれは……。
「アリエル?」
気づくとウリエルがドアを押さえ、私が部屋に入らないのを不思議そうに見ている。
「あ、ああ、はい」
間の抜けた返事をして、私は部屋に入った。
部屋に入ると、グリーンティーのフレッシュな香りがしている。その香りをかいだ瞬間、気持ちがリセットされた感じがした。緊張が少し和らいだ気がする。
そのまま部屋に入りそうになり、慌ててブーツを脱ぐ。
履物を脱いで部屋に入るのも、久々だ。
ゆっくり廊下を進み、突き当りを曲がると、開け放たれたままの部屋が右手に見える。チラッと見てみるとトレーニングマシンが置かれていた。
左手にもいくつかドアがあるが、多分、これはトイレで、これが洗面所かな?
そのまま正面のドアを開けると、リビングルームだ。
ひ、広い。
都心の一等地だよね、ここ!?
主はウリエルのことを溺愛しているってホントかも。
堕天してこんな素敵な部屋に暮らせるなら、悪くないんじゃない!?
窓からは都心の夜景が見えているし、カウチソファも座り心地が良さそうだ。ダイニングテーブルも立派だし、壁掛けの液晶テレビも70インチ以上はありそうだった。
「アリエル、こっち」
招かれ向かったキッチンも、広々としていた。
すごい。オーブンもついている。
ウリエルは購入した野菜を、作業スペースに次々と並べた。
私が手を洗っていると「はい」とエプロンを手渡される。デニム生地で出来たそのエプロンは、大きさからして、普段ウリエルが使っているものなのだろう。
エプロンをつけ、料理を作る大天使。
想像したらおかしくて、思わず頬が緩む。
「なんだか楽しそうだな、アリエル」
エコバッグから購入したものを出し終えたウリエルが、私を抱き寄せた。
「だって、ウリエルがこのエプロンをつけて料理をしているって想像すると……。あの巨大な宮殿に暮らしていて、家事とは無縁のはずだったのに、シュールだなあって」
「ここは地上だ。掃除だって洗濯だってするさ。とはいっても人間の文明の利器はあなどれない。掃除はロボットがしてくれるし、洗濯も乾燥まで自動できるからな」
ウリエルはそう言うと、私のおでこにキスをして尋ねる。
「それで。まずは野菜を洗うか?」
「あ、うん。でも私がやるからウリエルはシャワーでも浴びて」
「え、手伝うぞ」
「じゃあ、シャワー浴びた後に手伝って。私は今日一日、なーんにもしてなかったから。そろそろちゃんと動かないと」
「分かった」と微笑んだウリエルは、今度は私の頬にキスをすると、リビングを出ていった。
平静を装っていたが。
心臓が止まるかと思った。
おでこと頬へのキス。
当たり前にウリエルはしていたが……。
キスの余韻に浸りたいところだが、すべきことがある。
気合いをいれ、野菜を手に取る。
そこからは怒涛の勢いで準備をすすめた。
ウリエルがシャワーを終えた時、夕ご飯の準備が整っているのが理想だ。
独り暮らしで自炊が基本だったので、料理は得意。
特に鍋なら野菜をとにかく刻めばいいわけで。
その合間に餃子を手早く作って……。
慌ただしく、私は夕ご飯の準備をすすめた。
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次回更新タイトルは「こんなイケメンが嫉妬しているの!?」です。
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