86:え、照れているの!?
「夕ご飯はまだ、だよな?」
おでこにキスをされ、さらに心臓がドキドキし始めた私は、こくこくと頷くので精一杯だ。
「よし。じゃあ、食事に行こう」
ウリエルは私から体をはなすと、ソファの前に回り込み、手を差し出す。
見上げると、サファイアブルーの瞳を細め、ウリエルが微笑んでいる。
私はあまりにもドキドキしすぎて、震えながら手をゆっくり伸ばした。するとウリエルがぐっと私の手を掴んで引き寄せた。同時にもう片方の腕で、私の腰を抱き寄せる。
ウリエルの力は強くて、私は簡単にその胸の中に収まっていた。
「アリエルはいつも会うたびにいい香りがしているな。今日のこの香りは……なんだかフルーツみたいに甘い香りがする」
「さっき、ここの美容院でパーマをかけてもらったから。そのシャンプーの香りかな?」
ウリエルの手が髪に触れる。
「本当だ。綺麗にカールされている」
髪から手をはなすと、その手で肩をつかみ自分の方へ引き寄せる。
顔が耳元に近づき、心臓が落ち着かない。
「食事よりもアリエルを食べたくなる香りだ」
甘い言葉に甘い息が耳にかかり、心臓が一気に破裂寸前になる。
「まあ、ここ(地上)でお前を食べたら……堕天させちまうからな。それはお預けだ。さあ、行こう」
ウリエルは私の手をとると、ゆっくりエスコートしながら、出口へ向かった。
◇
エントランスには、白いボディの車が止まっている。
これは……確かレクサスという高級車では?
エントランスの階段を下りたウリエルは、車のロックを解除し、助手席のドアを開ける。
「……ウリエル、車に乗っているの?」
驚く私にウリエルは苦笑する。
「そう。翼がないから、もっぱら移動は車」
なるほど。
大天使と車のイメージが結びつかず、不思議な気持ちになりながら、車に乗り込んだ。
あ、座り心地がいい。というか車なんて乗るの、久しぶりだなぁ。
都会の一人暮らしでは、車は贅沢品だ。都心の一等地ともなると、駐車場代が家賃並みになる。一人暮らしで車を所有している人は少なかったし、女子ともなるとさらに少ない。柚乃も車は持っていない。
そんなことを思っている間に、ウリエルは車を走らせる準備をすすめている。
「アリエル、シートベルトつけて」
「あ、はい、そうでした」
慌ててシートベルトをつける私を見て、ウリエルは微笑む。
「出発するぞ」
◇
ウリエルが運転する車に乗っている、というだけでもドキドキだった。
しかも運転もとても上手い。
本人曰く、人間として生きていく上で必要な能力のいくつかは、地上で生活を始めた時点で自然と身についていたのだという。運転免許もその一つだった。それも主による配慮らしい。そして日中は神の家で奉仕活動を行っているが、住み込みというわけではなく、セントラルヒルズタワーというマンションで一人暮らしをしている。そのマンションもまた、神の家のスタッフが用意したものだったが、元を正せば主の指示。
人間の身で修行しつつ、自活せよ、ということらしい。
天界では街のような宮殿に暮らし、ありとあらゆる『役割』を担う天使に囲まれ暮らしていた。入浴も、体を洗い、拭く『役割』を担う天使がいたぐらいだ。
自活、できているのだろうか?
思わず尋ねていた。
「ウリエル、食事はどうしているの?」
「自分で作っているよ」
「え、作れるの!?」
ウリエルは「それはもちろん」と答えた後、こう続けた。
「何を隠そう、神の家でのおれの奉仕活動は多岐に渡るが、カフェで調理も担当している」
「え、そうなの!?」
「ああ。今日の天ぷら、旨かっただろう?」
驚いた。
あの絶品天ぷらは、ウリエルが作ったものだったのか……!
「とても、美味しかった」
「だろう。きっとアリエルが食べると思って、心を込めて作ったから」
「……!」
ウリエルがプレイボーイだと思い込んでいたから、こんな風に「心を込めて作った」なんて言われると、キュンとしてしまう。
「昼は蕎麦と天ぷらだった。となると夜は何を食べるか……」
「ねえ、ウリエル」
「なんだ?」
ウリエルがチラっと私を見る。
「外食もいいけど、私、何か作る」
「え……」
「お昼、ウリエルが手料理を食べさせてくれたわけでしょ。その御礼」
ウリエルはフッと笑みを漏らす。
「天界では何かをしてもらったら、それを相手に返すのが礼儀。それの地上版か?」
「そういうこと」
「せっかくオシャレしているのに、いいのか?」
今度は私が笑う番だ。
「関係ないよ。だってこのオシャレは、ウリエルに見せるためだから」
「……」
無言のウリエルを見てみると……。
顔が赤い。
「え、照れているの!?」
「なわけないだろう。というかじゃあスーパー行くから。ってかスーパーはマンションの地下にあるんだった。もう家に行くぞ」
ぶっきらぼうな口調でウリエルは、顔を赤くしたまま運転を続けた。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!
次回更新タイトルは「平静を装っていたが。」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日もよろしくお願いいたします!
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★秀麗な表紙絵登場★
☆第二章 スタート☆
『悪役令嬢完璧回避プランのはずが
色々設定が違ってきています』
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こちらもお楽しみいただけると幸いです♪










































