75:唐突にあの時の感情がよみがえった
「なぜウリエルはそうまでして、君の願いを叶えようとしたのかな」
ミカエル様に問われ、私の頭は記憶を巡る。
「ウリエルは……『アリエル、お前は自分の願いが叶うチャンスを得たのに、それを自分のために使おうとしなかった。ただ知っているだけの相手のために、貴重なチャンスを使うと決めた。おれはお前のその心意気が気に入った』そう言っていました」
「そうか。他には何か言っていなかったか?」
ミカエル様に問われるまま、思い当たるウリエルの言葉を口にしていた。
――「アリエル、お前はなかなかにイイ女だ。……抱きたい、と思ったのは事実だ。マティアスとソフィア、この二人の記憶を戻せば、おれは地上へ堕とされる。その力を使うことは禁忌だからな。ならばお前を抱いて、共に地上に堕ちる、とも考えたが……」
――「お前に相応しいのはおれではない。おれよりもっとすごい奴のために、純潔は散らさずにとっておけ」
――「マティアスとソフィアの件は任せろ。おれは堕天して地上に堕ちることを厭う気持ちはない。むしろ、地上にいる女を渡り歩き、存分に快楽を味わうつもりだ」
――「アリエル、本当にお前は他人のことばかりだな。古の悪魔の時も、自分のことよりエルサとアクラシエルのことを心配した。そしてマティアスとソフィアという前世の知り合いの幸せを願った。今は親友の恋が実ったことを喜んでいる。お前自身の幸せは、置いてきぼりになっていないか?」
ひとしきり私からウリエルの言葉を聞いたミカエル様は「なるほど」と小さく呟いた。
「……どうやらウリエルは、アリエル、君に対して好意を持っていたようだね」
「そうだと思います。私の体が気に入ったのだと思います」
するとミカエル様は首を振る。
「アリエル、それは違う。大天使は魂の輝きや心の美しさを見て好意を覚えるはずだ。最初は君の魂の輝きに目を留めたのかもしれない。そして君が自分の幸せよりも友や他者の幸せを願う姿に接した。その心の美しさに、ウリエルは君のことを好きになってしまったのだろう。だがウリエルは恋愛なんてしたことがない。そしてあの性格だ。好意をうまく伝えることもできず、結局君の願いを叶えることでしか、自分の気持ちを表現できなかった。そこまでしてもなお、アリエル、君はまだウリエルの気持ちに気づいていなかったようだが」
ミカエル様はそう言うと、あの宇宙を思わせる瞳でじっと見た。
「ウリエルが堕天したその時、何も感じなかったか?」
「喪失感を覚えました。胸が苦しくなり、後悔していました……」
唐突にあの時の感情がよみがえり、涙が溢れてくる。
「アリエル、君の中にウリエルを思う気持ちはなかったのか? 今、答えなくてもいい。でもよく考えるといい」
ミカエル様がローソファから立ち上がった。
「私は君のことを月曜日に表彰することになっている。でももし姿を現さなくても、咎めるつもりはない。そして悪魔狩りは三人一組で地上へ向かう。君のそばには弓に秀でた女性の天使と、あらゆる武器を使える逞しい男性の天使がいる。最後に、君は何か思うところがあり、天界へきてから動いていたようだが、それは誰かを貶めるための行為ではなかった。自分が生きるためにとった行動。それは生存本能だ。もしそのために誰かの命を奪ったり、不幸にしていたりしたら、それは罪となる。だが君は、結果として皆を幸せにすることができた。ただ、自分とウリエルの幸せだけが置いてきぼりになったようだ。だが、今ならまだ間に合う。まだすべては終わっていない」
それだけ言うと、唐突にミカエル様の姿が、輝きながら消えた。
「アリエル様、ご自宅まで送ります」
ガブリエルの宮殿を警備する騎士が、優しく私に声をかけた。
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