64:あまりにも唐突な出来事
マティアスの家に着き、玄関に入り、声をかける。
すぐにマティアスがきて、私を見て、そしてウリエルを見て「?」となった。
その瞬間、ウリエルはマティアスの頭に手をかざす。
小説を読んでいたので、そこまで驚かなかったが。
魂に刻まれた記憶を見せる。
なんだかスケールがある行為に思えるが、ウリエルはただ、頭に手をかざすだけだ。それだけで、魂に刻まれている前世の記憶を見せることが出来る。その記憶を見ている最中、当人は意識を失う。
ということで意識を失ったマティアスを、慌てて支える。支えたが、体格のいいマティアスを支えきるのは無理で、壁に寄りかからせた。寄りかからせたが、頭が重いので、前に倒れてくる。それをなんとか支えているが、やはり私一人ではきつい。するとそこにウリエルが戻ってきて、軽々とマティアスを担ぎ上げると、ソファに寝かせてくれた。
一方のソフィアは、リビングのテーブルに突っ伏している。
「じゃあな、アリエル。またどうせすぐ会える」
ウリエルがそう言ってこちらを振り返るのと同時に、その体は光に包まれ、一瞬で消えた。
あまりにも突然、そして唐突過ぎて、脳の理解が追いつかない。
しばらくドクドクと嫌な音を立てる自分の心音だけを聞くことになった。
だが次第に事態を理解する。
まさかウリエルが消える瞬間を見ることになると思わず、息を飲んだまま動けなくなっていた。
心臓が……苦しい。
堕天しただけで、死んだわけではない。
でも、ものすごい喪失感だった。
前世の記憶を見せる。そのためにウリエルがかけた時間はものの数分。
堕天し、この天界から姿が消えたのは、それ以上に短い。数秒の出来事。
さっきまで私に軽口をたたき、腰を抱き寄せていたウリエルは、もうこの天界にはいない。
自分はとんでもないことをウリエルに頼んでしまったのではないか。そう後悔する気持ちが急速にわきあがる。
サファイアブルーの美しい瞳で笑うウリエルの姿が脳裏に浮かび、息ができなくなる。
ウリエルは堕天することを厭わないと言っていた。地上で女と快楽を楽しむと言っていた。
だからこれは……。
その時、マティアスの体が動いたように感じた。
私は慌てて玄関へ向かった。
◇
街からの帰り道、私は一人だった。
街からの帰りは、なんだかんだでいつも誰かに送ってもらっていたから……。
柚乃の言う通りの結果になった。
ウリエルは嬉々として地上へ堕ちた。
柚乃は今頃ガブリエルと……。
マティアスとソフィアは記憶を取り戻し、今は再会を喜んでいるだろう。
アクラシエルはもう家に帰っただろうか。
ラファエルと心を通わせ、胸をキュンキュンさせているに違いない。
そして私は独りぼっちになったわけだけど……。
悪役令嬢ポジションにつながるフラグは、もう折れる寸前だ。後はマティアスとソフィアが神殿で婚儀を挙げてくれれば……。
そうだ。
まだ終わったわけではない。
感傷的になっている場合ではない。
明日、ソフィアとマティアスに会ったら、神殿へ行くことをすすめよう。
気合を入れ、飛行速度を上げた。
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