54:実は私……
「……あの、ウリエルさん」
「なんだ?」
「実は私、その、前世の記憶があります」
「だろうな」
! なんで!? なんで分かる!?
「あ、あの、どうして……」
「もみほぐしをどこで覚えたかと、聞いただろう?」
「……はい」
「アリエルは店で施術してもらったと答えた」
そうだが、それのどこが……。
「天界にもみほぐしの店などない」
「……!」
「まさか前世の記憶を持っているとは。驚いた」
迂闊だった。
一言も、前世で施術してもらった、とは言っていない。でも天界にもみほぐしのお店がないことは、確認していなかった。
一瞬焦ったが、私に前世の記憶があることは、明らかになった。
だからこの後の提案は、唐突にはならないはず。
よし、話そう。
「仰るとおり、私には前世での記憶があります。実はそれで悩んでいることがありまして……」
ウリエルが心配そうにこちらを見る。
「悩み? どんな悩みだ?」
「実は……」と、私は切り出した。
マティアスとソフィアという天使が天界にいるが、実は二人のことを前世で、地上で見たことがあったということ。二人は相思相愛で恋人同士、結婚の約束もしていた。だが私の死後、地上で何かあったのだろう。二人して天界へ召されていた。当然、二人はこの天界で結ばれるのかと思ったが……。二人には地上での、前世での、記憶が一切ない。偶然、マティアスとソフィアが会話する機会があったが、共によそよそしく、見ていて可哀そうになった。
「マティアスさんとソフィアさんは、前世での記憶を取り戻すことはできないのでしょうか? このまま二人が誰か別の相手と結ばれたら……と思うと、自分のことのように胸が苦しくなります」
悪役令嬢という立ち位置のアリエルとは思えない、素晴らしい言葉を口にできたと思った。
だが黙って話を聞いていたウリエルは、想定外の反応を示す。
「既に出会って何もないなら、その程度の縁だったのでは?」
「え……」
「他に気になる相手ができて、その相手と結ばれたなら、それはそういう運命なのでは?」
そうきたか。
ならば……。
「もしも、の話です。ウリエルさんにとても好きな女性がいて、でもその相手と結ばれる前に、二人とも命を落としてしまった。そしてともに記憶を失い、天界で再会した。するとウリエルさんが前世で心から愛した女性に、近寄る男性がいた。その男性はとても魅力的で、その女性の心をとかしていく。前世での記憶はない。でもその女性がなんとなく気にかかる。しかしその女性は別の男性と結ばれそうになっている……それを目の当たりにして、それでも仕方ないと思えますか?」
ウリエルは笑う。
「そんなもしもは存在しない。おれが心から愛した女を忘れる? そんなことはあり得ない」
! なんという自信。いや大天使なのだ、ウリエルは。
忘れない……というのは本当なのかもしれない。
「で、でも偶然忘却の矢を受けてしまったらどうします?」
不意にウリエルに顎を掴まれた。
「アリエル、本音で話せ。お前はその二人に同情している。それは事実だろう。そして二人の記憶が蘇ればいい。そう願っているのも真実だろう。だが、その方法を知らないわけではない。だろう?」
……!
うまくいっていたと思ったのだが……。
仕方がない。
「……そうですね。大天使であれば、二人の記憶を戻せるのではないかと、思っていました。だからウリエルさんに相談しました」
するとウリエルはニヤッと笑う。
「最初から、そう言えばいい」
私の顎から手を放すと、あっさりウリエルは答えた。
「いいだろう。その二人の記憶を戻してやる」
「……! 本当ですか!」
「ああ。アリエル、お前は自分の願いが叶うチャンスを得たのに、それを自分のために使おうとしなかった。ただ知っているだけの相手のために、貴重なチャンスを使うと決めた。おれはお前のその心意気が気に入った」
……!
ウリエルは……大天使なのだからそれが当然なのかもしれないが、とてつもなくイイ天使だった。
マティアスとソフィアの記憶が戻る。それはひいては悪役令嬢ポジションにつながるフラグを折ることになり、私のハッピーライフにつながっている。
だから誰かのための願いではないのだが……。
「だが、アリエル、少しその願いは贅沢過ぎないか?」
「え……」
思わず背中に汗が伝った。
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次回更新タイトルは「まさか、体を……求められている?」です。
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