52:たった一人が独占するには、惜しい体
浴室内にある、大理石でできた寝台に、タオルを敷く。
リラックスして欲しいから、タオルは厚手に敷くようにしよう。洗濯物を増やしちゃうのは申し訳ないけど。あとは枕代わりになるものをタオルで用意してと。
それにもみほぐしを始める前に、水分補給をしてもらった方がいいから、水を用意して。そして香油はここに置く。
最後に自分の癒しの力で、疲れた腕を回復させた。
準備が整ったと思った次の瞬間。
ぐいっと腰を抱き寄せられ、驚いて「ひゃっ」などという、へんてこりんな悲鳴を上げてしまう。
「用意できたか、アリエル?」
背中に温かい気配を感じる。
「は、はい。できました」
返事をして振り返り、眩暈がしそうになる。
す、すごい。
まさに武闘派の筋肉。
無駄がない。贅肉がない。
そして……。
ウリエルは腰にタオルを巻いているだけだ。
それはそうだろう。
これから全身に香油を塗り、もみほぐしを行うのだから。
「仰向けか、うつ伏せか?」
「う、うつ伏せで」
そう答えてからすぐに「待ってください」と私が止めると、ウリエルは寝台に腰かける。
「お水をどうぞ」
グラスに入れた水を差し出すと、ウリエルは一気に水を飲み干す。
空のグラスを私に渡し、ウリエルはうつ伏せで横になる。
胸板も厚かった。腹筋も当然バキバキだ。でもムキムキって感じではない。
身長もあるからすっとしているし、どちらかというとスリムな体型。でも、よく鍛えているようで、本当に引き締まったいい体をしている。
緊張するな。
いや、ドキドキするな。
こんな体ならプレイボーイでいてくれた方が、世の中の女性のためなのでは?
たった一人が独占するには、惜しい体だと思う。
などと不謹慎なことを考えながら、私は香油の入った瓶を取り出し、手に馴染ませる。
目を閉じていたウリエルがこちらを見た。
「?」
「……その香油、この浴室にあったものか?」
「いえ、私がブレンドして持ってきました」
肩に香油を伸ばしながら答える。
「……それはおれをイメージしたということか?」
首の当たりにも香油を伸ばしながら、思わず笑ってしまった。
図星だ。でも言い当てられたことが悔しくて、思わず否定してしまう。
「いえ。もみほぐしに使うので、まずはリラックスにつながる香りを選びました。そして明日の活力につながるような、爽やかですっきりした香りを組み合わせました」
なんだかようやくウリエルと普通に話せた。
初めて会った時、その次会った時も、私はウリエルと会話すらできていなかった。でもこうやってリラックスできる香りを私もかぐことで、気持ちがほぐれてきている。
ゆっくり腕にも香油を塗りこんでいく。
「確かに、癒される香りだが、さっぱり感があり、程よい感じだ」
ウリエルの言葉を落ち着いて聞きながら、背中全体にも香油を行き渡らせる。
「気に入っていただけましたか?」
自分から質問することもできた。
「ああ、とてもいい香りだ」
香油のブレンドについては合格点をもらえたかな?
思わず頬が緩む。
太股、ふくらはぎ、足裏まで香油を伸ばした。
「アリエル、今日の実習はどうだった?」
「そうですね。結構肉体労働でした」
「何の『役割』だった?」
私はゆっくり足の裏からもみほぐしを行い、ウリエルの問いに答える。
「果樹園でマスカットの摘粒作業。洗濯物の取り込み。そしてこの浴室の清掃でした」
「……それは確かにハードだったな。だがどこも似たようなものだ。厨房なんて刃物を使うからな。まさに戦場だ」
右足のふくらはぎにゆっくり指で圧をかけながら、筋肉をもみほぐす。
「そうですね。宮殿はスケールがあるので、何をやるにしてもハードですね」
「そうだな。食事の最中に、すぐそばで控える給仕の『役割』があるが……。客人がいない時は、あれが一番落ち着くか。いや、おれは酒を飲むからな。頻繁にグラスにワインを注ぐ必要があるし、ボトルもすぐ空く……。まあ、我が家で楽な『役割』はないな」
それには苦笑するしかない。
「かといって神官の『役割』が楽かというと、そんなことはない。あれこそ本当に大変だ。この前のようなこともあるしな」
「そうだと思います」
左足のふくらはぎのもみほぐしを終え、ふとももに両手で力を加えながら、もみほぐしていく。
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