41:ベッドを見て、すごくドキドキ
「ほう……。そんな特技があったのか。確かに気に入った香りを感じながら、疲れた部分をもみほぐしてもらえるのは……気持ちがよさそうだ」
マティアスは自身の肩に手を置きながら、私を見る。そして合点がいったようだ。
「ウリエルが好む香油を用意したいわけか」
私は頷く。
「天空図書館で、俺はウリエルに関する書物を読み、彼の姿を描いた絵画も見ている。多少なりともアドバイスはできると思う」
「本当ですか。それは……助かります!」
そんな風に話しているうちに、香油のお店が見えてきた。
マティアスが行動を共にすることに、アクラシエルは不服そうだった。でもお店までの道中で、マティアスが香油に関する知識を披露すると……。
アクラシエルの顔から、不服そうな表情が消えている。
ほどなくして、お店に到着した。
店内に入るとマティアスは、ホワイトティーの香油をまず手に取る。
「入浴後のリラックスタイムで、もみほぐしのために使うなら……。この香油は欠かせないだろう」
「そうですね。癒しの時間にしたいので、ホワイトティーをベースにするのは、とてもいいと思います!」
私が同意すると、マティアスは嬉しそうに微笑む。
「それでブレンドする香油だが……」
マティアスは棚に並ぶ香油を眺めた。
「ウリエルは逞しくワイルドだ。だからリラックスしてもみほぐしを受けながらも、明日に備え、さっぱりした気持ちにもなりたいと思うだろう。となると……」
フレッシュな香りが並ぶ棚に、視線を走らせる。
「爽やかですっきりした……ライムだな」
「いいと思います。ライムのさっぱりした香りは、ウリエルさんが好きそうです。あともう少しアクセントがあると……」
「そうだな。となるとバジルがライムとは相性が良さそうだ」
「ですね」
私とマティアスの会話を聞いていたアクラシエルは、驚きで目を丸くしている。
「二人とも詳しいですね……」
「俺はこの店の二階に住んでいるからな」
「私は趣味で、香りについてちょっと勉強していたから」
マティアスと私は、思わず顔を見合わせて笑った。
「お決まりでしたら、ブレンドされますか?」
店員の『役割』を担う天使が、私達に近づいてくる。
「はい!」
私は元気よく返事をした。
◇
完成した香油は、さっぱりしているのにマイルド。
スパイシーだけど、心が安らぐ香りになった。
これなら絶対にウリエルも気に入る!!と思えた。
香油を手に入れ、ちょっとしたお手伝いの『役割』を終え、お店の外に出ると……。
「アリエル、晩御飯、どうする?」
アクラシエルに聞かれ、いずれかのお店で食べて帰ろうかと思案していると。
「野菜スープにフルーツとパン。その程度であれば用意できるが」
マティアスが思いがけず食事に誘ってくれた。
小説でもマティアスは、最初からソフィアより料理上手だった。
これは期待できるかも。
「それだけあれば十分です。お邪魔してもいいですか?」
「ああ。ついて来い」
マティアスの後ろについて、二階へ向かう。
ドアを開けると、私とアクラシエルに先に入るよう、促した。
心の中で「お邪魔します」と呟いて中に入る。
あっ……。
すごくエレガントな香りがする。きっとルームフレグランスの香りなのだと思うけど。
ジャスミンの香りに蘭の香りがほのかに混じっている感じ。
香りのセンスがいいな、マティアス。
香油の話は、小説にはない。
だからゲームオリジナルの設定なのかもしれない。
でも私にとっては嬉しい設定だった。
そんなことを思いながら廊下を進み、リビングに向かう。
部屋の間取りや家具など、小説で描写されていたソフィアの部屋と同じものだ。
ソフィアの部屋でベッドを見ても何も感じないだろうが、ここがマティアスの部屋だと思うと……。
ベッドを見て、すごくドキドキしてしまう。
「すぐに用意するから、適当に座っていてくれ」
マティアスはそう言うと、早速キッチンに立った。
「アクラシエル、手伝おう」
アクラシエルは頷き、二人でキッチンへ向かう。
野菜スープは作り置きが鍋にあり、それを温めた。
マティアスはグレープフルーツ、オレンジをカットし、私はマスカットを水洗いし、バゲットをスライスしてオーブンで焼いた。アクラシエルは温めたスープをお皿によそった。
晩御飯はあっという間に用意できた。
食事をしながら会話していると、マティアスとアクラシエルは、次第に打ち解けていった。
アクラシエルは、どうやったらそんなに逞しい体になれるのか、どうやって鍛えているのかと、しきりに聞いている。
食事を終えると、明日も学校があるので、すぐに家に帰ることになった。
アクラシエルがいるから、送らなくてもいいと言ったのだが……。
マティアスは私達のことを、家までちゃんと見送ってくれた。
「アリエル、明日は頑張れよ」
爽やかな笑顔を見せるマティアスは……本当にかっこいい。
いいな。ソフィアは。
こんな素敵なマティアスと、結ばれるルートが用意されていて。
……いや、でも私にもガブリエルがいるわけで。ガブリエルも十分に優美な美青年で、見る者の心を溶かすような笑みを持っている。
ただ、今、ガブリエルの心はソフィアにある……。
突然胸が苦しくなる。
いけない。
ここでソフィアに対して、黒い気持ちを持っては。
私は悪役令嬢というポジションに落ちるつもりはないのだから。
「大丈夫か、アリエル?」
マティアスが心配そうに私を見る。
「だ、大丈夫です。今日は本当にありがとうございます。また週末に実習の件は報告しますね」
アクラシエルと二人、ペコリとお辞儀をして家へ戻った。
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次回更新タイトルは「これが大天使の宮殿」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
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