24:ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ。
まだ明るい時間だったので、丘には結構な数の天使がいる。
輪になっておしゃべりに興じる天使もいれば、気持ちよさそうに寝そべる天使もいた。読書をしている天使もいれば、スケッチブックを手に絵を描いている天使もいる。日没までのこのひと時を、思い思いに過ごしているようだ。
少し早いけど、ホワイト・ベーカリーのパンで夕ご飯だな。
神官たちが待機している広場を眺めながら、私はパンを食べることにした。
まずはコーンブレッドにつけながら食べる、蜂蜜の瓶を開けよう。そこそこのサイズの蜂蜜の瓶を左手に持ち、右手で蓋を持つと、「えいっ」と回そうとした。
全然動かない……。
私は再び蓋を持ち、もう一度「えいっ」と力を込めたのだが。
瓶の蓋があく気配はない。
もう一度試して開かなかったら諦めよう。
右手で蓋を持ち、深呼吸をして、そこから一気に「うううん!」と力を込めた。
無理、硬い、開かない!
「かしてみろ」
背後から伸びた腕が、すっと私の手から蜂蜜の瓶を取り上げた。
慌てて後ろを振り返り、息を飲む。
ものすごいカッコよさだ。
あまりにもカッコよすぎて、胸がときめくとか、そんな感覚を超越している。
金髪碧眼、屈強で強靭な逞しい肉体を持つ細マッチョ――ヒロインのソフィアと結ばれるために存在しているマティアスが、そこにいた。
肌もつやつや、目鼻立ちはスッキリ、唇もはりがあって綺麗な桜色をしている。
それに何よりもオーラがすごい。
なんというか圧倒的な存在感。
これでただの天使だなんて。
「ほら、開いたぞ」
マティアスが蜂蜜の瓶を私に戻した。
と同時に翼を広げる。
純白の翼は、大天使と同じぐらい大きく、美しかった。
と、見とれている場合じゃない。
この後、私はソフィアを見つけるつもりなのだ。
見つけたと同時にマティアスを紹介し、早々に二人を知り合いにすれば……。
「待ってください!!」
あらん限りの大声で引き留める。
離れた場所にいる天使の何人かが、驚いてこちらを振り返った。
「……なんだ?」
「あ、あの、困っているところを助けていただき、ありがとうございます。もしこの後予定がなければ一緒にパンを食べませんか? 一人で食べきれない量のパンを手に入れてしまって。あと、瓶を開けていただいた御礼も込めて。それに一人より二人で食べた方が、食事は美味しくなるので」
咄嗟に思いついたにしては、いい誘い文句だと思った。
いい誘い文句、というか、断りにくい誘い文句だと思う。
手に余る量のパンがある。助けてもらった御礼をしたい。一人ではなく誰かと食事をしたい。
この三つの理由を聞いて断るなんて、善良な天使ならできないはず。
「……予定はないが、御礼など。俺はそこまでのことをしていない」
うわあ、まさか断られる!?
やっぱ、マティアスはソフィアが攻略するキャラだから、私とはパンの一つも食べてもらえないのかな。
「だが一人より二人……それは、確かにそうだろうな」
!!
マティアスは翼を収めた。
やった! 成功。
私はどうぞ、という感じで隣を示した。
ゆっくりとマティアスが、私の隣に腰をおろす。
あ、すごくいい香り。
これはすっきりとしたバラの香り……。
「ティーローズに、ユリやヒヤシンスをブレンドした香油を使っています?」
思わず尋ねると、最初は驚いた顔をしたが……。
「そうだ。よく分かったな」
マティアスがとても綺麗な笑顔を私に向ける。
月並みな表現になるが、ズキューンと心臓を貫かれた。
さすが主人公。
その破壊力や半端ない……。
さっきまで客観的に見ることができたのに、もう急激に異性として意識してしまい、心臓の高鳴りが止まらなくなっていた。
ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ。
ときめいてはいけない。
本来私と並んで座るはずではないのだから。
マティアスの隣に座ることが許されているのは、ソフィアだけだ。
気持ちを落ち着かせようと、深呼吸をしようとしたら……。
マティアスのつける香油の、甘すぎずすっきりとしたローズの香りを、思いっきり吸い込んでしまう。
ヤバーい!
逆に心臓がさらに高鳴ることになった。
もういい。
ドキドキしたままでも。
私は震える手でパンの袋を差し出す。
「お、お好きなのをどうぞ」
「いただこうか」
マティアスはパンの入った袋を受け取り、中を見た。
「本当にすごい量だな。見る限りほっそりしているのに。食が細いわけではなさそうだ」
「あ、はははは」
もう笑うしかない。
「ではこれをいただこうか」
マティアスは胡桃のパンを手に取った。
「あ、それは蜂蜜をつけるといいんですよ」
私は先程開けてもらった蜂蜜の瓶を差し出す。
「なるほど。このパンに使うために、この瓶を開けようとしていたのか」
マティアスは、ちぎったパンを蜂蜜につけようと、瓶を掴んだ。
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次回更新タイトルは「乙女ゲー万歳!」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日もよろしくお願いいたします!










































