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第三十六話 仲直り

 はい、ラスト直前です。今日の午後には最終話が出来上がるようにしますので、また覗きにきてください。

「海斗っ!」


 早紀が魔力の塊に向かって手を伸ばした。


 志乃と龍夜もそれを見守っていた。


 そして早紀が魔力に触れた瞬間に頭の中に海斗の声が響き渡った。




『早紀、聞いてくれ。聞きたくないだろうけど、俺からの最後の言葉だ。


 ・・・俺には何で早紀があんなに怒ったのか分からない。何であんなに悲しそうな顔をしていたのか、分からなかった。


 俺なりにずっと考えてみたけど答えはでなかった』


 


「海斗・・・っ」


 最後の言葉というのに反応して早紀が顔を歪めて海斗の姿を必死に探すが海斗の姿はない。


 志乃がそれを宥めて続きを聞いた。




『早紀があんなに怒ったということは俺が悪かったんだろう、だけど俺にはなんのことかさっぱり分からなかった。せめてなんのことか言ってくれればまだ楽だったんだけどな』




「違うっ・・・」


 早紀が眼に涙をためて必死に首を振った。


 それでも海斗はそれに気付かず淡々と喋り続ける。




『俺が家をちょくちょく空けていたのが原因だとは思う。けど、それは早紀を喜ばせようとしてのことだったんだ。


 明日、早紀の誕生日だろ?そのために金物細工の店で手作りのアクセサリーを作ってたんだ。母さんに勧められて』




 早紀の顔が嬉しさ半分、絶望半分に染まった。喜びたいけど喜べない、そんな表情だ。


 


『それで、厚かましいんだけどそれを受け取ってほしい。店は母さんが知っている。形見だと思って受け取ってくれ。何も無理に持っていてくれとは言わない。一度持つだけでいい。一度手に取ってくれればそれで満足だ』




「・・・・・・・・形見?」


 その言葉の中に何気なくでてきた台詞に早紀は顔を引きつらせる。


 志乃と龍夜もまさか、という顔になって思い直す。先ほどの俺からの最後の言葉、あれはもしかすると・・・・・・




『俺はもうすぐ死ぬだろう、だからこそ言っておきたかったんだ。


 しつこいと思うかもしれない。二度と聞きたくなかったかもしれない。でも、俺の自己満足のために言わせてくれ。



 好きだ、早紀



 龍夜、志乃、側で聞いているんだろう?・・・俺はここで死ぬだろう、母さんや父さん、琢磨や花梨によろしく伝えておいてくれ。


 ・・・こんな感じで済まない。俺はもう指一本動かせない状況なんだ。本当に悪いと思うが俺の変わりに頼む。


 早紀、今まで三ヶ月にも満たない時間だったけど、ありがとう。君に会えて、生まれてきて本当によかったと思う。


 でも、出来ることならこんなけんか別れみたいな感じはごめんだったな・・・』




「・・・・・・・・・・・え?」


 海斗の声が聞こえなくなった後しばらく立ってまず声を発したのは早紀だった。


 信じられない、という気持ちがありありとわかる声だった。


 もちろん他の二人だって同じ気持ちだった。あの海斗が死んだと聞かされてもどんなおとぎ話だ、というふうにしか聞こえない。


 そこで龍夜の頭をかすめたのは今朝サリエスが言っていた依頼のことだ。あの海斗の精神状況でもし強い奴と戦ったら、いくら海斗でもただでは済まない。あの時海斗がどんな顔をしていたか分かる龍夜と志乃は暗く俯いた。


「で、でも、海斗が、海斗が死ぬ訳ないよね、だって・・・」


 早紀が不安を払拭するように大きな声で否定しようとしたが龍夜と志乃の顔色を見てどんどんと声が小さくなる。


 そこで耐えきれなくなったように背中を向けて走り出した。


「おっ、おい、早紀!?」


「海斗を探しにいくのっ!!」


 涙声で必死に叫んだ早紀を誰かが止めた。


「離して!私は・・・」


「落ち着いて、早紀ちゃん」


 切羽詰まった声を掛けられてはっと早紀が動きを止める。サリエスだった。


「サリエスさん・・・っ、海斗、海斗が!」


 龍夜と志乃も慌てて駆け寄って今聞いたことを説明しようとしたがサリエスの顔が蒼白なのを見て思わず黙った。眼は充血して真っ赤だし、唇は小刻みに震えている。


「そう、・・・あなたたちは知っているのね、・・・ついさっき海斗が鷺城君と佐久間さんによって運び込まれたのよ。海斗は血だらけでね、そこまでの深手はないんだけど傷が多すぎて、出血多量でもう・・・」


 サリエスの震える唇から紡がれる言葉に早紀達は狼狽した。


「そ、そんな・・・」


「とにかく急いで、いつ、いつ死んでもおかしくない状況なの」


 それを聞いたとたんに早紀達の体は転移した。


 


 転移した先は病院だった。そして着いた瞬間に早紀は一目散に駆け出した。


 その足取りは迷いなく海斗の病室へと向かっていた。なぜわかったのかは本人にもわからない。もしかすると覚醒した淫魔の力なのかもしれないが。


「海斗っ!」


 早紀は思い切りドアを開け放ち病室に飛び込んだ。


 そこに海斗はいた。しかしその顔は青ざめていて死人のようだった。


 早紀はパニックになり海斗に飛びついた。しかし周りにいたものたちに押しとどめられた。


 それでも早紀は止まらずに海斗だけを見続けた。


 よく見ると海斗の胸はかすかに上下していて、まだ息をしているのがわかる。


「容態は!?」


 そこにようやく駆けつけたサリエス達が息せき切って海斗の様子を訪ねた。


「・・・深刻です。八岐大蛇から受けた傷だけあってなかなか治りません。あの少年達にもらった札でなんとか出血は止めれていますが体が衰弱しきっているので後は本人の精神力次第ですね」


 まだ死んでいない、ということで一同はほっと息をついた。しかしそこに厳しい口調で声がかかった。


「なぁ、ちょっといいか」


 振り返るとそこには一度だけあったことのある符術士の二人がいた。


「・・・なにかしら」


「単刀直入にいうが海斗に何があった?いくら神クラスとはいえ、俺らでも大して苦戦しない相手に海斗が負ける訳はない。おそらく精神的に参っていたんだろう。それはなんでだ?」


 そう、海斗をこの病院に連れてきたのは琢磨と花梨だった。琢磨と花梨はもう一匹の八岐大蛇を難なく討伐すると海斗のほうへと向かった。


 しかし二人がそこで見たのは血の海に沈む海斗と八岐大蛇の亡がらだった。二人は大急ぎでその場で応急手当をしたが、海斗が受けたのはどうやら魔力攻撃のほうだったみたいで、傷は一向に治らなかった。


 やむを得ず海斗に血止めの符を張ると急いでこの病院へと連れてきたのだ。


「それは・・・」


 状況が分からずにいるサリエスは困ったようにちらっと早紀達のほうへと視線をずらした。


 早紀はその視線に耐えきれずに叫んだ。


「あたしの所為なんです!わたしが、私が海斗にあんなことを言ったから・・・」


 早紀の心は不安でいっぱいだった。もし海斗がこのまま死んじゃったら、もしこのまま二度とあの海斗の笑顔を見れなかったら、もう抱きしめてもらえず、甘えることも出来なくなったら・・・


 そう考えるだけで早紀の心は締め付けられるように痛んだ。なぜあんなことを言ったんだろう、と数時間前の自分をのろい殺したくなった。


 間違いなくこうなったのは自分の所為だ。自分の所為で海斗はこんなにも苦しんでいる。


「どういうことだ?もう少し詳しく話してくれ、話が見えない」


「じつはな、今日・・・」


 そこで龍夜が代わりに話してくれた。


「そうか・・・」


「そりゃ、海斗も報われないね」


 琢磨と花梨はちらっと早紀の方を見ただけで何も言わなかった。しかしサリエスは急に元気になった。


「なぁんだ。そんなことが原因なら簡単じゃん」


 え?と皆が一斉にサリエスのほうへと向いた。


 サリエスはきょとんとしてわからないの?と言うと自らの考えを話し始めた。


「要するに原因は二人の痴話げんかなんだから、早紀ちゃんが海斗に謝ってしまえばいいのよ。そうすれば海斗は生き返って一件落着よ♪」


 痴話げんかや生き返るなど表現におかしな所はあったが一応筋の通っている話だ。要するに海斗が元の強靭な精神力を取り戻せばいいのだから早紀との問題が解決してしまえば問題ない、というのだ。


 しかし


「あ、あの・・・どうやって海斗君に早紀ちゃんの言葉を伝えるんですか?」


「そうだな、確かに海斗は今寝ているから声は通じないだろうな・・・どうするんです?サリエスさん」


 そう、当面の問題はこれだった。早紀が謝っても肝心の海斗が聞いてなければ意味がない。打つ手無し、だ。


「そんなの関係ないわよ。この子の早紀ちゃんへの入れ込みようは凄いからね、寝てても声は届くよ、きっと・・・いいから騙されたと思って試してみて」


 ところがそう言ってサリエスがぽん、と早紀の背中を押した。


 早紀はそのまま海斗の寝ているベットの側まで近づくと、膝をついて海斗の顔を覗き込んだ。


「海斗・・・?」


 そっと海斗に呼びかける早紀を周りの皆は優しく見守る。早紀は一回口を開くと海斗への気持ちが溢れ出て言葉が止まらなかった。


「ごめんね、海斗。あんなこと言って、こんな怪我しちゃって、私の所為だよね?ごめんね、海斗は悪くなかったのに、っ、だから、あたしのこと嫌いになってもいいから、っ、お願い、っ、だから、眼を覚まして」


 泣かないようにしよう、と心に誓っていたのに、あんなことを言った自分に泣く資格なんて無いと思っていたのに、どうしてもぽろぽろと涙がこぼれてきて嗚咽が止まらなかった。


 嗚咽をかみ殺すために布団に突っ伏していると、ぽん、と優しく頭に手をおかれた。


 その手の感触が、温もりがここ最近でとても慣れ親しんだもので、今一番、何よりも恋しかったものだったのでばっと早紀は頭を上げた。


 奥では皆が息をのむ音が聞こえてきた。


 そして、顔を上げた先にある優しい微笑みにに思わず早紀は抱きついた。







 次でラストです。先ほどもいいましたが午後に書き上げるつもりなので・・・

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